第43話 流された女(武田真理)

私の名前は武田たけだ真理まり


私は子供の頃から容姿が良くて、両親などからは将来は芸能人ねとか言われてた。

でも芸能界には興味が無くて、そんな気は全然なかった。

私は高望みせずに普通に楽しく暮らせればそれでいいの。


私が物心付いた時から隣の家に同じ歳の子がいた。

呼び名はひー君、幼馴染の男の子だ。

ひー君とは波長が合って良く一緒にいる事になった。

でも何だか頼りなくて兄弟のいない私にとっては弟に近い存在だった。


私は学校の成績も良く顔も美人な方なので、毎月一回は告白されるほどだったのだけど全て断わって中学で彼氏は作らなかった。

私が惹かれるほどの男子がいなかったのと、少しだけひー君に悪いと思っていたからかな。


高校は勉強を頑張って少し偏差値の高い進学校に入学する事が出来た。

驚いた事にひー君も同じ高校に合格していた。

勉強は苦手なはずだったけど一体どうしたんだろう。


そして入学してから、ひー君の親友だという人を紹介された。

東堂とうどう達也たつや君だ。


東堂くんはイケメンで背も高く頭も良い。

コミュ力にも優れていて、ひー君の様にクラスの人達からイジられる事もない。


お昼をひー君と東堂君と3人で食べるようになって、私は少しずつ東堂くんに惹かれてゆくようになった。


ひー君に比べてイケメンで、背が高く、頭も良く、スポーツも万能、家も凄くお金持ちらしい。

それに何だか私に興味がある様子。


ひー君からもそれっぽい視線を浴びる事はあったけど私にとって弟の様な存在だ。

クラスの人達から、いつも一緒にいるひー君は彼氏なのかと聞かれた事があったけど、その時は直ぐにただの幼馴染だと強く否定した。


そのうちに東堂くんが私をデートを誘ったり告白してくれるかも知れない。

私の胸は日々高まる期待で一杯だった。


ひー君には悪いけど、そのうち昼食は東堂君と2人でという事になるかも。





ーーーーー





そして起こった、ウィルスのパンデミック。


その時ビックリする事に、ひー君が珍しく私達に的確な指示をくれて、先生への報告や食糧の調達などを自分から進んでやっていた。


何だか状況判断も的確で頼もしい感じ。

これで高身長、イケメン、お金持ちなら性格は良いので文句は無いのにな。


だけど、ひー君は感染者から私を庇って歩けないほどの怪我をしてしまった……

今度は私がひー君の足になって助けないと!


体育館での避難生活でひー君がまだ寝ている時。

私は東堂君に体育館の隅に呼び出された。


真理まり、いざという時になったら二人で購買で買った食料を持って逃げよう。災害用地図アプリで見たら5kmぐらい先に大きな警察署があるんだ。そこが駄目なら市役所だってある。少人数なら身を隠しながら移動すれば行けるはずだ」


「えっ! ひーくんはどうするの? 怪我してるんだよ……」


「だから万が一だよ。冴賢ひさとには悪いが心中するつもりは無い。アイツを背負って行く事は出来ないんだ」


ひー君を置いていくなんて、そんな事できないよ!

ひー君は家族みたいな存在、弟なのよ……


「でも……」


「まあこのまま助けが来ればいいけどな。君だって死にたく無いだろう?」


「それは、そうだけど……」


「なら、そのつもりだって事は忘れないでくれ。君の為でもあるんだ」


ひー君の怪我だって私を庇ったからなのに置いていけるわけない……





ーーーーー





でも決断の時は思ったよりも早く来てしまったの。

感染者が体育館の中にまで!


東堂君と目を合わせ、自分の食糧入のバッグを持った。


「真理、達也!」


ひー君が私と東堂君に手を伸ばしてる!

立ち上がれないので立たせて欲しいみたい。

私と東堂君が左右両方から補助すれば、何とか逃げられるかも。


「悪いな!」


東堂君がひー君の食糧入りバッグを奪った!

嘘でしょ! なんで?


そして私の手を東堂君が強引に引っ張ってゆく。

私は流されるままひー君と引き離される。


ひー君と一瞬だけ目が合った。

ひー君に申し訳がない……けど、私はこのまま死にたくない!


私と東堂君は手を繋いだまま、振り返らずに学校から脱出するのだった。

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