第33話 兄妹を助ける(7/24、サイコキネシス)

兄妹を狙う先頭の感染者があと1.5mぐらいに接近した。

感染者が手を伸ばして飛び掛かれる距離だ。


「うわーん、お兄ちゃん! 怖いよー!」

「美久っ!」


小学生ぐらいの妹の方はあまりの恐怖で兄に抱き着いて号泣する。

兄の方はもう駄目だと目をつぶって妹を抱きしめた。


(ドガッ!)


僕は青白い念力サイコキネシスを纏って、ビルの3階から兄妹の眼の前に高速で飛び降りた。

少し膝を曲げて衝撃を逃したけど、それでも少しコンクリートにヒビが入る。

だけど強化された身体にはこのぐらいの衝撃は何でもない。


僕は右手に念力サイコキネシスで青白い長剣を生成すると、先頭の感染者2体の頭を同時に、まるで豆腐のように何の抵抗も無く切り裂いた。

念力サイコキネシスで生成した剣、名付けてサイコブレードだ。


サイコブレードは切れ味が物凄くて骨でも何でも断ち切れる。

超能力をバールに纏わせると強度と破壊力も増すけど、この念力サイコキネシスで生成したサイコブレードが現状は一番強い僕の武器になっている。


頭をサイコブレードで切断された感染者が崩れ落ちる。

続いてやってくる感染者3体を、少し前に出て剣を二振りして倒した。


僕は超能力を全て解除して二人に話し掛ける。


「君たち、大丈夫?」

「「……」」


兄妹は抱き締め合ったまま顔を上げ、無言でキョトンとした様子でこちらを見る。

たぶん驚いているんだろう。

でも、このままずっとここにいるのはまずい。


「さあ立って。まずはここから移動しよう! 妹さんは僕が運ぼうか」


僕はそう言うと兄の方を立たせて、妹の方は横抱きにしてさっき飛び降りたビルの中に入った。





ーーーーー





僕たちは3階まで登って、僕がさっきまでいた部屋に戻った。

妹を床に降ろすと、兄もすぐに妹の隣に駆け寄る。

まるで僕と玲奈みたいだな……

僕は二人を見て家族を思い出す。


「君達は二人だけで逃げていたの?」


「はい。この近くの避難所にいたんですけど……昨日、感染者が出て……皆バラバラに……」


兄の方が答える。

なるほど、最近多い避難所の崩壊か。


「そうか二人とも大変だったね……親御さんは? 何処か他に避難のあてはあるの?」


「僕達はもう二人だけです……逃げるのに精一杯で……両親は……」

「お兄ちゃん……」


兄が絶望を宿した瞳で答える。

妹も凄く不安そうだ。


「そうか……お腹空いてる? とりあえず食事にしようか」


とりあえず食事で元気になってもらう事にした。





ーーーーー





(がつがつ! もぐもぐ! ごくん!)

(はふはふ! あむあむ! ごくん!)


「ふ、二人とも、落ち着いて! 沢山あるから、ゆっくり食べてね」


「ふみまふぇん! こんあおいひいごあん! ひさいぶいで!」

「ふゅごく、おいひい!」


二人とも物凄い勢いで食べながらなので、半分何言ってるか分からない。

僕は前に食べた焼肉セットを二人分だして、カセットガスコンロで焼肉を提供したんだ。

ご飯も大量に炊いた物があるので、アイテムボックスから釜ごと出して大盛でよそってあげる。

これは大好評で二人とも泣きながらお腹いっぱいになるまで食べ続けた。



「怪我した脚を出してみて」


妹の方の足の治療をするため、リュックから医薬品を出す。

美味しい食事で警戒感も無くなったのか、素直に脚を差し出してくれた。


どうやら膝は折れてはおらず、擦り傷と打撲のようだ。

僕は消毒薬で傷口を消毒し、軽く拭いて包帯を巻いてあげた。


「はい。これで大丈夫! でも膝だから2、3日は歩かない方が良いかもね」


「どうもありがとうございます!」

「お兄さん、ありがとう!」


僕はにっこりして軽く頷くと食事の後片付けを行った。

チラリと兄妹の方を見ると、兄と妹で何やら相談しているようだ。


「あの……名前を教えてもらえますか?」


「そういえばお互いに紹介がまだだったね。僕は荒井冴賢、高校一年生だよ。よろしくね」


「はい! 僕は大谷光司、中学二年生です。妹の美久は小学五年生です」


まあ見た目通りの学年だ。

親がどうなったのか詳しくは分からないけど、中学生や小学生で保護してくれる親がいないとは、改めて大変な時代になったなと思う。


「それで、お願いがあって……僕達を一緒に連れて行ってもらえませんか?」


兄の方が僕にお願いをしてくる。

どうやらさっき相談していたのは、この事だったのだろう。


「僕は家族を探して旅をしているんだ。だからずっと一緒にという訳にはいかないけど、どこか受け入れてくれる避難所は探してあげられると思うよ」


「そうですか……でも、ありがとうございます!」


兄の光司君は少し安心したような感じだった。

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