第17話 今後の方針(6/1〜6/2)

「出来たよ。ご飯と缶詰だけになっちゃうけど良かったら食べてね」


僕はレトルトご飯を湯せんして温め、オカズとなるサンマの蒲焼の缶詰を開けた。

うれしい事にこのビルのガスと水道は止まっていないらしい。

これならトイレも使えそうだ。


「ありがとう! 凄いわ! 温かいご飯が食べられるなんて!」

「ありがとう……」


桑田さんは久しぶりの温かいご飯が嬉しいらしい。

学校での避難時は非常食だったし温かい物は食べられなかったからね。

佐々岡さんも暖かくて美味しいご飯で、気分が落ち着くと良いな。


「ねえ。荒井君のその服装って凄いけど、どうしたの?」


「えっと、逃げる途中でバイク屋さんがあったんで悪いけど借りたんだ。こんな状況だしね。リュックや中身も似たような感じかな。もしこの騒動が落ち着いたら代金を払いたいところだけど……」


僕はいずれ聞かれると思っていたので用意しておいた答えを桑田さんに話した。


「そうなんだ。でも今の状況じゃ仕方が無いよね。お店の人もいないだろうし……それと、あの時は聞けなかったんだけど、武田さんと東堂君はどうしたの? いつも一緒だったでしょ?」


桑田さんの問い掛けで二人を思い出した僕は胸がズキンと痛んだ。


「うっ。それは……真理と達也は僕を置いて逃げたんだ。それも、食糧が入った僕のバッグを奪ってね。僕はあの二人に置き去りにされたんだ……でも桑田さんが僕を立たせてくれた。あの時は本当にありがとう!」


「……そうだったの。どういたしまして。でも、荒井君が無事で良かったわ!」


僕は幼馴染と親友に見捨てられた気持ちを思い出して悲しくなったが、桑田さん達に状況を伝えられた。


桑田さん達も友達に裏切られた僕の心情を少し理解してくれたようだった。





ーーーー





食事を終えると佐々岡ささおかさんは寝室の広いベッドに横になった。

どうやら少し熱があるらしい。

たぶん危険な外の状況から隔離されてご飯を食べた事で安心し、張り詰めていた気が切れて疲労がどっと出てしまったんだろう。


僕は解熱薬を桑田さんに渡して佐々岡ささおかさんに飲ませてもらう。

その後佐々岡ささおかさんはすぐに眠ってしまったようだ。


僕は桑田さんと相談し、今日はこの部屋に泊まって移動は佐々岡ささおかさんの具合を見てからという事になった。


本音を言うと僕はすぐにでも家に帰りたいんだけど、このまま二人の女子を見捨てる事は出来ない。

僕の家族に会った時、僕がそんな事をしたと知ったら絶対に悲しむだろう。


真理は、もし自分の家族や僕の家族に会った時、僕の事をどう話すつもりなんだろうか……





ーーーーー





(コンコン!)


「桑田さん、佐々岡ささおかさん。おはよう」


あの後、桑田さんは佐々岡ささおかさんとは別々に僕はリビングのソファーで休んだ。

朝食が出来た僕は二人を呼びに来たのだ。


少し早めに起きた僕はパスタ500gをたっぷりのお湯で茹で、アイテムボックスから定番のトマト味のソースを出して湯せんする。


茹で上がった麺をザルで水気を切って、皿にたっぷり盛りソースを掛ける。

スプーンとフォークを用意して、コップにペットボトルのお水を入れた。


鍋とかザルとかスプーンはこの家にあった物だ。

使い終わったらちゃんと洗って返す事にしよう。


「荒井君、おはよう!」

「おはよう……」


佐々岡ささおかさん、調子はどう? 朝食、パスタだけど食べれそう?」


ドアが空いて二人が出てくる。

佐々岡ささおかさんの顔色は昨日よりは良いように見える。

一晩何も無かった事で、僕に対しても少し警戒が和らいだようだ。


「わあ、パスタだ。ありがとう! 莉子りこちゃん平気?」

「大丈夫。ありがとう……」


「うん。遠慮なく食べてね」


桑田さん達はパスタは好物だったようで、笑顔で美味しそうに食べていた。

たぶん女子はこういった物が好きなのだろう。


朝食を食べ終えた僕は、これからの事を考えて佐々岡ささおかさんに移動できそうかどうか聞いてみる事にした。


佐々岡ささおかさん、足の具合はどう?」


「うん。湿布のおかげで昨日よりは痛みは無いかな……多分ゆっくり歩くのは大丈夫だと思う」


「本当? 莉子りこちゃん、無理はしないでね」


桑田さんも心配している。

移動は大丈夫そうだが、問題なのは目的地だ。


「これからの事だけど、佐々岡ささおかさんはやっぱり自宅に帰るつもりなの?」

「……うん。私は家に帰りたい……」


「桑田さんは?」

「私も家には帰りたいけど……まずは莉子りこちゃんを送り届けたいかな」


「えっと、町には感染者が多くいて、長距離の移動はかなり危険だと思う。なるべくなら近くの避難所で助けを待つのが良いと思うよ」


僕は二人に自宅を目指して移動する事のリスクを説明する。

最善はやはり近くの避難所へ避難する事だろう。


「……荒井君、大丈夫よ。私が莉子りこちゃんを送り届けるから。気にしないで自分の家を目指して」


桑田さんはあくまでも佐々岡ささおかさんを送るつもりみたいだ。

だけど女子二人だけだとかなり危険だ。


例の男子達に捕まってしまうかもしれない。

感染者だって大勢いるしこれからも増え続けるだろう。

桑田さんが危険な目に……


そんな事になれば僕は自分を許せないだろう。

僕は家に帰るのを後まわしにして、二人を送り届ける覚悟を決めた。

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