第7話 裏切り(5/31)

「駄目だ! 感染者が入ってきてしまう!!」

「お、おい! ヤバイぞ! 囮に釣られていた奴らも戻ってきた!」

「くそおっ!!」


叫び声などから状況を聞く限りまずい事になうそうだ。

残された生徒達も酷く怯えている。


「ぎゃあああ!」

「ぐがあ!」


とうとう体育館の入口が突破されてしまったようだ!

感染者が複数入ってきたの見える。

入口を封鎖していた先生達が感染に噛み付かれて食われている。


「真理、達也!」


すぐに脱出しなければ感染者に囲まれてしまう。


僕は二人に脱出の合図をし、怪我ですぐに立てない僕を引っ張って立たせてもらおうと手を伸ばした。



だけど……





「悪いな!」


達也はそう言うと食糧の入った僕のバッグを掴み、真理と二人で走り出した。

真理は少し済まなそうな顔を見せたが達也を責めるでも無く、一緒に走ってゆく……




「えっ……」


取り残された僕は膝の痛みで立つ事も出来ず放心したままだった。


なんで? なんで僕を置いていったの? 僕のバックまで持って……

立たせてくれないと、このままじゃ僕は感染者に捕まってしまう。

こ、これじゃあ僕は見捨てられたみたいじゃ……


そんな……

二人とも僕の一番大事な人だったのに……

一緒に逃げて途中、駄目であれば僕が囮になって逃がそうとまで思っていた……


「そんな……ふたりとも……僕を、僕を見捨てたのか……」


真理との小さい頃からの思い出や入学したての頃の達也との出会いなどが、頭の中で走馬灯のように浮かんでくる。


周囲で声を上げて逃げ惑う人達。

その中で僕は一人床に座り、下を向いて涙を流していた。


「きゃああ! やめて、食べないで〜!」

「うわあああ! 助けて!」


その間にも感染者が続々と体育館の中に侵入してくる。

周りは感染者に襲われて地獄絵図の様になっていた。


周りの状況は頭では分かっていたけど僕は放心したまま動けなかった。





ーーーーー





「荒井くん!! 立って!」


「えっ!?」


ふと僕を呼ぶ声が聞こえ、顔を上げるとそこにはクラス委員の桑田さんがいる。


「立てる? 早く逃げないと! ゾンビに囲まれるわ!」


そう言うと桑田さんは力を込めながら手を回して僕を立たせてくれた。

膝がかなり痛むが、補助をしてくれたのでなんとか立ち上がる事が出来た。


「あ、ありがとう……桑田さん」


僕はお礼を言い、一度体育館を見回した。

グラウンドに近い扉を開けて、そこから皆が競うように脱出している。


桑田さんはこの危ない状況の中、わざわざ座り込んで絶望している僕を助けに来てくれたようだ。

なんで僕なんかを……幼馴染や親友にさえ裏切られた僕を……


「行きましょう! 私につかまって!」


「うん。ゴメン……」


今度は桑田さんの補助がありがたくて涙が出てくるが、痛みに歯を食いしばってドアの方に進む。


そしてなんとか感染者に捕まらずに体育館の外に出ることが出来た。

他の皆は校舎に逃げ込むか、学校の外に逃げ出すかの二通りに別れたようだ。


「桑田さん、この後はどうするの?」


「外に逃げようって事になっているの。早く行きましょう!」


グラウンド付近で一瞬立ち止まって聞いてみた。

どうやら桑田さんは外に逃げる予定のようだ。

仲間とかいるんだろうか?


明日奈あすな!」


そこへ桑田さんの下の名前を叫びながら背の高い男子が走ってきた。

そういえば桑田さんには幼馴染の彼氏がいると聞いたことがある。


「お前、探したぞ! こんな奴と一緒にいたのか。早く逃げるぞ!」


「待って! 荒井君は足を怪我しているのよ、置いて行けないわ!」


「この状況で怪我人の面倒なんて見れるかよ! 行くぞ!」


彼氏の方は僕をお荷物だと思っているらしい。


正解だよ。

この状況で他人を助ける暇など無いはずだ。

僕は自分の事ながら冷静に彼の立場なら僕を見捨てて当然だと思った。

幼馴染や親友でも見捨てられるんだから……


「そんな! 見捨てる事なんて出来ない!」


桑田さんはなぜか一生懸命僕を助けようとしてくれる。

だが大声で叫んでいるうちに感染者に気付かれてしまったようだ。

何体かこちらにやってくる。


「くそっ! 行くんだ!」


(ドガッ!)


「ぐあああっ!」


桑田さんの彼氏は僕を迫り来る感染者の方に突き飛ばし、桑田さんを無理やり引っ張っていった。


「やめて! 荒井君!!」


桑田さんは半ば引きずられるようにして遠ざかってゆく。

僕の周りには感染者が集まりつつあった。


やっぱりこの状況で生き残るのはかなり厳しいだろう……

誰かが肩を貸してくれないと長距離の移動は出来ないし、目前まで迫っている感染者から逃げる事さえ難しい。


パパ、ママ、玲奈、ゴメン。

僕はここまでだ……


せめて最後に僕を助けようとしてくれた桑田さんが、確実に逃げられるように感染者を引き付けよう。


「わあああーーっ! こい! こっちだ! ここに集まれ! 僕を食べてみろ! はーげ! カース! バーカ!」


僕はグラウンドの中央に片足ケンケンで移動しながら大声で挑発する。

桑田さん達を追っていた感染者がこちらに顔を向けた。


そうだ! いいぞ! こっちにこい!

そして感染者がどんどん集まって来る。

遠目に桑田さん達が感染者に捕まらずにが逃げてゆくのが見えた。


いいぞ! ミッションコンプリートだ!

ははは。最後に僕は勝ったんだ!


映画の中で主人公を逃がす人物の気持ちってこんな感じだったんだ!


逃げながらとうとうグラウンドの中央付近までやって来た。

ハァハァハァ。


息も切れてもうあまり動けそうにない。

ここまでだ。





ん???


後を振り返った僕は感染者と僕の間に、真っ白い小さな蛇がいるのが見えた。

走ってきた時はいなかったような気がするんだけど……


僕は人生の最後だと言うのにその白蛇に見惚れてしまった。

なんて美しいんだろう……



はっ!


でもこのままだと複数の感染者に踏み潰されてしまう!

だけどもう別の方向に誘導する力はない。

こうなったら……


僕は感染者の方に引き返し、うずくまって白蛇さんを体の下に隠した。

これなら白蛇さんは大丈夫だよね?


複数の感染者が手を伸ばしながら一斉に僕に襲い掛かってくる。

僕が食べられている間に白蛇さんには逃げてほしい。



さようなら。

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