第4話 拡大する感染(5/26)

少しして僕達以外にもパラパラと教室に戻ってくるクラスメイトもいた。

でもその中の一人を確認すると僕は直ぐに目をそらした。

黒田くろだ君だ。


クラスカーストの上位で少しヤンキーっぽい感じで僕とはそりが合わない。

美少女の真理と僕が幼馴染で仲が良いのが食わないようで、ネチネチと絡んでくる事も多い。

他のクラスに彼女がいるらしく、その人のところから戻ったのだろう。


「お前らしけた顔してんなよ。こんな騒動、すぐに警察が来て終るさ!」


という甘い認識を黒田君が披露してくれる。


恐怖映画などの序盤では彼のように状況認識が甘い者、異変を馬鹿にしたり信じない者、自己を過信している者から殺されてしまうパターンが多い。


黒田君の死亡フラグが立った様だなと僕は密かにそう思いつつ、いつも持ち歩いている少し大き目の携帯バッテリーでスマホの充電をしながら、パパからの連絡を待つ事にした。





ーーーーー





最初の悲鳴から30分ぐらい経った時だ。


「きゃあああ!」

「ねえ! あれ見て!」


窓の外を監視していたクラスメイトが悲鳴を上げる。

何事かと皆で駆け寄って窓を見ると、最初に倒されていた体育教師が起き上がって逃げる他の職員を襲っていた。


その他にも血だらけの生徒が別の生徒を襲っている!

その光景を見て、僕を含めた皆はゾンビパンデミックが実際に起こっているのだと理解せざるを得なかった。


倒れたり、負傷している教職員も多い様子だ。

細菌感染によるゾンビ化の場合、外傷から感染しただけでアウトだ。

だとすると負傷した教職員ももう感染者と言って良いだろう。


皆がパニック状態になって少しした頃、校内放送が流れた。

〚校内に不審者が侵入しています! 生徒の皆さんは、慌てずに荷物を持って体育館に集合して下さい! 不審者がいたら逃げて下さい! 繰り返します……〛


恐らく封じ込めや撃退に失敗したので守備力を集中したいのだろう。

一体、現時点で何人の感染者がいるのか……


「皆! 体育館集合だって!」

「急ごう!」

「行こう!」


クラスメートたちがパニック気味に動き出す。

もう校舎にも侵入されているのか、あちこちで悲鳴も聞こえる。


「おい! どうする?」

「ひーくん、どうするの?」


真理と達也が僕に聞いてくる。


「僕は体育館には行かないで、どこか鍵の掛かる部屋に立て籠もったほうが良いと思うけど……」


自分で言った通り体育館に行くのは危険だと感じる。

なぜなら人が多すぎるし、食糧だって満足に行き渡らないだろう。

広い体育館は侵入されたら終わりだし、長時間の立て籠もりに向いているとは思えない。


「でも、みんな行ってるよ! 私達も体育館に行こうよ!」

「そ、そうだな。そうしようぜ!」


真理は皆と同じ行動でないと安心出来ない様だ。

達也も同意しているし、最善とは思えないけど取り敢えず体育館に行くか。


「分かった。でもいつでも別行動が取れるようにしておいて。食糧も無くさないように!」


僕はそう言うと、3人で体育館を目指して移動した。





ーーーーー





皆がパニック気味に体育館へと移動している。

校舎の奥の方からも悲鳴や怒号が聞こえてくる。

もう既に相当数の感染者が校内に侵入している感じだ。


僕たちも遅れ馳せながら3階から2階に移動し、次に2階から1階に移動しようとしている時にそれは起こった。


「きゃああー!」

「きゃあ!」


直ぐ近くの周りにいた女子達が叫ぶ。


階段の踊り場に体操着姿で青白い顔をして目が白く濁って、首と脚に怪我をしているゾンビ女子がいて、周りの人に襲い掛かっていたんだ!

噛みつかれていた人はそのゾンビ女子を突き飛ばして、噛まれた箇所を押さえてうずくまる。


運悪く突き飛ばされた女子が僕達の方へヨロヨロと倒れてきた。

そして恐怖で固まって動けない真理に噛みつこうとする。


僕は咄嗟に真理を引っ張り、反動で感染者の女子と一緒に階段を転げ落ちる事になった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る