第7話 姉よりも楽かもしれない。


 俺の大ポカはともかく、朝食後の俺は急遽だが末妹の学力がどの程度なのか、正確に把握する事にした。先ずは俺の部屋から問題集を持ってきて、その中から即席問題を作り、勉強嫌い故か、逃げようとする末妹の行く手を遮った。


「・・・」

「そんなに睨むなよ」

「睨んでません」

「ご機嫌斜めだねぇ、雪音ゆきねちゃん」

「姉さんが昨日、余計な事を言うからです」

「あれ、まだ気にしていたの?」

「気にしてません!」

「昨晩、何があったんだ?」

「「内緒!!」」


 こういう時だけ声が揃う。

 あのあと、何があったのか知らないが、朱音あかねの声音から察するに、久方ぶりに姉妹が仲良くなる事案があったのだろう。

 それこそ姉妹で組んず解れつ、な・・・尊い。

 俺は一人っ子だから羨ましい話だな。

 って、それはともかく!


「で、通っている高校の偏差値って幾らだ?」

「確か、五十前後だと聞いた事があるね・・・」

「そうなると、ウチの高校よりも下なのか」

「俺はその中でギリギリのラインに居るから」

「それを自慢すんな」

「してないよ!?」


 丁度、昨日出来ていなかった家庭教師のバイトも込みで行う事になった。

 末妹の隣に朱音も座り、末妹の解答を様子見しつつ、自身も問題を解く朱音。


「それで俺のバイトだが、継続で大丈夫か?」

「問題ないよ。籍を戻す時に母さんから継続して良いって許可を貰ったから」

「ああ、俺の雇い主が義母になるわけね」

「そうともいう。義息にやらせるのは心苦しいとか言っていたけど、俺達の成績維持のためには、背に腹はかえられないってさ」

「娘達がバカでしたって恥でしかないもんな」

「俺は恥ずかしくないもん!」「・・・」

「はいはい」


 バイトの件は表向きには義兄妹で行う勉強会とすれば問題はなさそうだ。これも仮に問われたらって扱いだけどな。三者面談で余計な一言を言われなければという条件が付くが。


「出来ました」

「それなら、答え合わせでもするか」

「部屋に戻ってもいいですか?」

「いんや、待機で」

「ここに拘束される云われはありませんが」

「おいおい、学年末考査まで日が無いだろ?」

「うっ」

「自力で勉強しても赤点だよね?」

「うぅ」

「母さんが言っていたけど、留年するようなら趣味にかけるお金と小説、全没収するってさ」

「!?」


 おぅ、朱音の言葉を聞いて理解する内に顔面蒼白から土気色の涙目に変化していってるわ。

 で、結果は一部を除いて全滅だった。唯一、国語だけは高得点だから、小説の単語から察するに、文章から読み取る事だけは得意らしい。

 仮に大学進学するなら文系一択だろうが。


「重点を置くなら理系だけかね」

「俺は理系が得意だから俺が教えるよ」

「おいこら、嘘を吐くな」

「うぐぅ。おっぱい突いたらだめぇ!」

「突いてねぇよ!? 触れてすらいないわ!」

「言葉の槍が刺さったよ!? グサッて!」

「・・・仲がお宜しいことで」


 このノリ見て仲が良いとする? 何ぞ?

 ともあれ、今は要点さえ押さえればいいので、次は学校の教科書を見せて貰った。


「・・・」

「・・・」


 マジで? 実際の偏差値って三十あるか無いかじゃねーか? この教科書から察するに、おバカ女子校って印象が真っ先にきたぞ。

 一応、普通科だよな? 大丈夫かコレ?

 案の定、朱音も同じ気持ちだったようで、


「ねぇがく? ここなら俺でもトップ張れるのでは?」


 教科書をパラパラと捲りながら俺に問いかけてきた。


「張れるだろうな。いっそ、転校するか?」

「しないよ!?」「しましょう!!」

「だろうな。制服がスカートありきだし」

「それもあるけど・・・離れたくないし」

「えーっ!?」


 おや? 妹は来て欲しそうにしているが。


「むしろ、学力上げて、雪音が来ようよ?」

「男子と同じ空気吸うのは嫌!?」


 おぅ、それを聞くとちょっとショック。


「俺、一応でも男子なんだが・・・」

「あ、違っ・・・」

「ああ、雪の言う男子っていうのは、澄田すみーみたいな奴の事でしょ?」

「ああ、そういう」


 なるほど、末妹の言う男子は俺ではなく、やたらと朱音に絡むチャラい男子筆頭の事か。


「ご、ごめんなさい」

「もう気にしてないから、気にするな」

「そうそう、岳って立ち直りだけは早いから」

「おいこら、それはどういう意味だ!?」


 そいつは俺をジミメンとか何とか言って、朱音を強引に引き離そうとしている、下半身が大変軽いゲス野郎の事である。その都度、朱音から股間蹴りを喰らって、悶絶しているがな。


「俺が蹴っても直ぐ立ち直るから」

「間一髪で避けているだけだ!!」

「え? 掠めていただけなの!?」

「ガチ蹴りされて種無しになったらどうする」

「そうなったら一生面倒を見るつもりだけど」

「一生!?」

「そういう事を言う前に、俺から面倒を見られている状況を打開する事だけ、考えろよ?」

「あはははは。ずっと面倒見てください」


 だがここで、事実に気づくまでの俺は男を口説くホモ野郎にしか思えなかったから無視していたが、事実に気づいた今では色んな意味で親友がヤバかった事を知った瞬間でもあった。


「・・・」

「・・・」

「雪音まで白い目で見なくても!?」


 今後は義妹を護るつもりで割って入らないといけないかもな。だがそれも、護身術に長けた朱音の邪魔になりそうな気もするから、今までと大差無い対応を取るしかないだろうが。




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