第四章 二話 七夕と祭りの夜
七夕それは彦星と織姫の数少ない逢い引きを祝う日。
それをいつから願い事を願う日や祭りを楽しむ日に変わったのだろうか?
「何してんだ?置いていくぞ。」
そんな事を考えていると猪瀬が夢咲の首根っこを掴んで連れていこうとする。
「だから!行かないって言ってるでしょ!? 」
夢咲は無理やり連れていこうとする猪瀬に怒りを露にする。
「たまには休めって、ここの所統一マッチのアイディア出しばっかで部屋から一歩も出てねぇんだろ?光ぐらい浴びろ! 」
猪瀬はカーテンを開けた瞬間、綺麗な天の川が見えた。
こんなに綺麗な空を見たのはいつ以来だろう。
こんな星の光の中逢える織姫と彦星は幸せ者だろうと、夢咲は心から思う。
夢咲もこの星の橋を渡れたらどれだけ気持ちいいのだろう。
「ほら月も綺麗だしさ一緒に行こうぜ! 」
この男は恥ずかしがる様子もなくそんなことを言ってくる。
嫌意味など知らず、ただ月が綺麗だから言っただけだろう。
彼はそういう男だ。
「分かったわよ!負けたわよ!でも勘違いしないでよね、貴方が誘ったから行くって事じゃなく空が綺麗だからなんだから!まったく何もこんな時にお祭りなんて...」
夢咲は猪瀬にぐちぐち言いながら準備をする。
...誘ってくれてありがとうと言えれば良かったのに。
本当は友達からお祭りを周るなんて久々だ、
いつ以来だろうか?
その久々の経験に心を踊らせながら私は準備を進めていく。
「全く遅いですよ二人とも!」
矢崎が怒りながら俺達の方に歩いてくる。
「すいません矢崎さん こいつが全然服決められなくて。」
猪瀬は遅くなった理由を矢崎さんに説明する。
「しょうがないでしょお祭りなんて久々なんだからどんな格好がいいか決まらなかったのよそれに突然だったし。」
夢咲は猪瀬の突然の誘いに文句を言いながら綺麗な浴衣をなびかせながら歩いてくる。
「おぉ、夢咲さん本格的ですねぇ! 」
矢崎は夢咲の浴衣に興奮する。
矢崎も腐っても女の人だからこういった綺麗な服は興奮するのだろう。
猪瀬ですら興奮してしまうほどの綺麗な服と似合い具合だったから当然か。
矢崎は小声で何か夢咲に話す。
それを聞いた夢咲はさっきまでの綺麗な美人から一転、怒り狂ったかのように矢崎を追いかけ回す。
「すいませんって! 」
「許さないわよこのセクハラ女! 」
どうやら矢崎がまたセクハラしたようだ。
やれやれこんな祭りの日でも矢崎は平常運転なのかと、呆れたような安心したような気持ちになった。
「そんなに遊んでると花火見れなくなるぞ! 」
猪瀬は時計を見ながら夢咲に忠告する。
確か花火は20時だったはずだ。
今は19時、そろそろ向かわないといい位置で花火は見えないだろう。
「全くあの女...とっとと行くわよ! 」
夢咲は怒りながら歩みを進める。
「待ってくださいよぉー ごめんなさいって」
矢崎は謝りながら夢咲を追っていく。
「あの二人は変わらねぇなぁ。」
猪瀬は呆れながらゆっくりと歩を進める。
「美味しいですよこのタコ焼き!」
「全くタコ焼きぐらいではしゃぎすぎよ。」
タコ焼きを食べながらはしゃぐ矢崎を注意する夢咲。
絵面だけ見れば子供が親を注意しているという変な風景に見える。
まぁ、それに慣れてしまった俺もその変な風景の一部なのだろうが。
パシャっと音がなる。
「ううむ。アンバランスで実に雅ー」
音の元を見るとポラロイドカメラを首から下げて浴衣を着る黒髪の少年というこちらもアンバランスな雰囲気だった。
「何撮ってんのよ! 」
写真を撮られていることに気づいた夢咲は当然怒る。
「すいません。中々いい風景だったもので、メアド教えてくだされば後から写真を送りますよ。」
「ほんとですか~喜んで! 」
矢崎は喜んでメールアドレスを教える。
少年も胸ポッケに入っていたメモ帳でそのメアドをメモる。
「あんた携帯とか持ってないの? 」
その風景に呆れながら夢咲もメールアドレスを教える。
なんだかんだ言って文句を言っていた夢咲も欲しかったようだ。
「すいません。僕どうもそういったハイテク機器は苦手で...」
ハイテク機器?
携帯が...?
今では小学生ですら扱える機器をハイテク機器と評する彼は随分機械音痴だなと猪瀬は感じた。
「やっぱり知らない男が私の写真を持ってるってなんか怖いから消してもらおうかしら。」
「男?どこです? 」
少年は周りを見回す。
「あんたよあんた。」
「失礼ですね!私は女の子ですよ! 」
女...の子?
「「「嘘っ!? 」」」
三人は彼がいや、彼女に驚愕する。
「失礼しました~私もてっきり男の子かと。」
矢崎はラムネを渡しながら謝る。
「どうせ僕は小さいですよ...」
彼女は矢崎の胸を見ながらそんな風に拗ねている。
「そのうち成長するわよ。」
夢咲は彼女を励ます。
「僕もう成長期終わってるんです...」
「ごめん。」
夢咲は聞かされた残酷な現実に申し訳なくなる。
「そ、そんな事よりそろそろ花火始まるから移動しようぜ! 」
「そ、そうですね!行きましょうか」
猪瀬達は無理矢理この悪い流れを変え花火を見れる河川敷へと移動していく。
「見えないわね。」
夢咲は景色が見えず、残念という顔をしていた。
確かにこの人の多さと夢咲の身長では見えないだろう。
...しょうがない人肌脱いでやるかと
猪瀬は夢咲をおぶる。
「ちょっといきなり何よ! 」
「ほらこれで見えるだろ? 」
「だからってこんなの...」
夢咲は何かぶつぶつ言っているようだった。
「お熱いですねー」
「そうですか?微笑ましく見えますが。」
「微笑ましく...あぁ!彼女小学生に見えるかもですが18歳ですからね! 」
「えっ! 」
どうやら彼女は夢咲の驚きの事実に驚愕しているようだった。
「そうなんですか!?...写真撮っておこう。」
彼女はもう一枚写真を撮る。
カメラの音は花火で消えてしまった。
「綺麗ですね~」
「そうですね。」
「そうね。」
「確かに綺麗ですけど二人の数少ない逢い引きの道を邪魔してるみたいで僕は好きじゃありませんね。」
確かにそうかもしれない。
二人の逢い引きを人間の都合で邪魔しているのかもしれないと猪瀬も思えた。
「そう?もしかしたら二人で仲良く花火見てるかもよ? 」
夢咲は真逆の考えのようだ。
「確かに...そう考えた方がメルヘンですね。」
彼女もどうやら納得したようだった。
そんな話をしていると花火がどんどん上がっていく。
「綺麗でしたね~。」
「ええ凄く! 」
猪瀬は久々の花火に凄く体を震えた。
花火それは一種の芸術作品とすら思えた。
一瞬しか存在できない芸術だと。
「そんなので興奮するなんて子供ね。」
夢咲は呆れた様子でそう告げる。
「良く言うぜ。一番興奮してたのはお前なのに」
「ち、違うわよ! 」
夢咲は俺をぽかぽか殴る。
「仲良しですねー」
彼女は俺達を見てなぜか和んでいるようだった。
「そういえばあんたの名前って...」
「あぁ!そう言えば名乗ってませんでしたね!私の名前は辻元亜伽里!覚えておいてください。大作家になる女ですから! 」
彼女は胸をはりながら自信満々に告げる。
「「「大作家!? 」」」
つまり彼女も
「えぇ、そうです!NEVERでは成績をふるえませんでしたがこれからです! 」
「しかも同じ出版社!? 」
「え?同じってことはもしかして...」
彼女もどうやら気づいたようだった。
「「「私達同業者!? 」」」
気分転換の夏祭りのはずが新しいライバルにであってしまった猪瀬達。
織姫と彦星様はどうやらトラブルがお好きらしい。
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