少女小説家と出会ったら小説家人生が大きく変わった件
猫カイト
プロローグ第一話 星か無名かメイドさん?
スランプという言葉をご存じだろうか?
スランプそれは自分の調子が長い間良くないことを表す言葉。
彼はスランプである。
猪瀬のデビュー作 『少年と愛』はそこそこ売れたがそれからはスランプに陥りいい作品を書けないでいる作家だ。
猪瀬はいつもの打ち合わせの場所メイド喫茶エンジェルに来て、担当編集を待っていた。
担当編集はいつも来るのが遅い。
マイペースというか何て言うか、
猪瀬はその待ち時間でお客さんを観察するのが趣味となっていた。
この店は面白く、色々な客が来る。
オーソドックスなオタクの人や、メイドさんに悩みを相談しに来る人、そして幼い少女?
猪瀬はこの場には似つかわしくない少女に違和感を覚えたが、この町なら普通なのかなと思えてしまう。
この町は秋葉原、色んな人が集まる町だ。
そんな小説の導入のような事を考えていると扉が開き、よく知った茶髪の長身の女性が来た。
「すいません。送れましたぁ!道が混んでまして~」
「あなたいつも徒歩でしょうに」
担当編集の矢崎の言い訳に無理を感じながら、猪瀬は矢崎さんの分の珈琲も頼む。
「いやーありがとうございます! 」
「お礼なんて良いですから速く打ち合わせしましょう。」
猪瀬はいつものようにこの人の奇行に付き合うのが嫌なので、話を続ける。
打ち合わせを続けていくなか、俺はついにスランプと言う悩みを打ち明けた。
それを聞いた矢崎さんの反応は
「そういう作家はよく居ますよ! 落ち込まないでください!落ち着いてやって行きましょう!」
と俺を励ました。
だが、猪瀬は落ち着けなかった。
次書き上がるのはいつだ?
数ヶ月?
数年?
その不安が猪瀬を潰そうとする。
猪瀬は何をかいていいか分からなくなっていた。
このまま小説家をつづけて担当の時間を減らしていいのかと思うときすらある。
自分に才能は無いのか。
なんて考えを延々と繰り返す負のスパイラルに入っていた。
猪瀬はそのスパイラルをダークノーエンドスパイラルと名付けた。
その考えを矢崎さんに伝えたところ。
「ダークノーエンドスパイラルってどこのバトル漫画ですか猪瀬先生。」
担当の矢崎は腹を抱え笑いながらテーブルに突っ伏した。
「そんなに笑わなくてもいいじゃないですか!
こっちにとっては死活問題なんですよ!?」
「悪かったですって、猪瀬先生コーヒーでも飲んで落ち着いて。お姉さんアイスコーヒーミルクマシマシで二つね!」
矢崎はまるでラーメンでも頼むようにおかしな言い方でアイスコーヒーを頼む。
矢崎は自他共に認める変人である。
打ち合わせにメイドカフェを指名してくる人で、よく分からない人。
それが周りからの矢崎の印象である。
「それで次回作のアイデアすら思い付かないと。」
矢崎は突然冷静になり冷たくそう告げる。
「はい。もう引退したほうがいいんですかねー」
「そんな台詞軽々しく言わないでくださいよ!先生の小説を心待ちにしてる人がいるんですから。」
そうそこも猪瀬の悩みの種の一つである。
いっそのこと、まったく売れなかった方が思いきりがついたのかもしれない。
初出版作が、そこそこ流行ったのが功を奏したのか不幸なのかわからなくなっていた。
そんな重い空気を感じたのか。
「そうだ先生、これ興味ありません?」
と矢崎は鞄を開け、一冊のノートを取り出した。
「こういうのって作家に見せていいんですか?守秘義務とか大丈夫ですか? 」
「まぁまぁ、それは私と先生の仲ですしね♥️、 私の自信の作家さんの作品なんです。」
矢崎は耳元でこそこそそう告げる。
彼女が美人という事もあり羨ましいと周りの視線を感じるが猪瀬は全然そんな気分にはなれなかった。
才能がある作家...それが羨ましく、暗い気持ちになってしまう。
「怒られてもしりませんからね。どれどれ『エルフ』?シンプルなタイトルですね。」
そんな黒い気持ちで猪瀬はその小説を読み始める。
「アイスコーヒーミルク多めです~」
そんな中ウェイターのメイドがアイスコーヒーを運んでくる。
「ありがとねお姉さん!所でLINEやってる?」
「打ち合わせ中にナンパしないでくださいよ。」
「ごめんなさい。デート中に他の人にうつつ抜かすなんて彼女失格ね!」
「誰が彼氏ですか!誰が!」
俺を励ますためにそんな風にボケる。
こんな風なノリが毎回続く。
「それでどうでした。面白いでしょ?」
矢崎は笑顔で爛々としながらそう告げる。
「そうですか?ストーリーはいいですが、文才は無いですね。」
猪瀬は担当に認められている嫉妬と、その作品の設定の作り込みに驚きながら才能の違いを感じ辛い評価をしてしまった。
「誰の文才が無いですって!?」
隣の席に座っていた金髪の幼女が立ち上がり怒り心頭な顔でそう告げる。
「えっ、もしかしてこの『エルフ』作者の子!?」
矢崎さんの方を見ると笑いを堪えながらお腹を抱えている。
「どういうことよ矢崎さん! すごい人に合わせるって聞いてついてきたのに普通のおっさんじゃない!」
「誰がおっさんだ、23だ! このロリ女!」
「まぁまぁ落ち着いて、二人とも」
矢崎は周りの視線が気になったのか、この場を納めるためにそう告げる。
笑いを堪えてなかったら百点の行動なのだが。
「説明してください矢崎さん! 誰なんですかこのロリ女?」
「誰がロリ女よ18よ! 結婚だって出来るんですからね!」
「まぁまぁ、落ち着いて、こちらの方はエノーラさん、期待の新人作家さんです。そしてこちらは猪瀬さん、ベテラン作家さんです。」
「期待の新人作家? そんなエノーラなんて名前聞いたことないけど?」
「猪瀬なんて名前聞いたことないわよ?」
二人は同時に告げる。
「おっ、二人案外相性よかったり?」
矢崎はニヤニヤしながらそう告げる。
「そんなわけないです!」
「そんなわけないわ!」
また同時にそう告げる。
「ほらまたー。この仲良さなら猪瀬さんに執筆頼んで良さそうですねー」
「「は!?」」
矢崎からのありえない発言に耳を疑い、二人は目を点にした。
「ええ 猪瀬さんには文章力がありますし、エノーラさんにはストーリーの作り込みが凄くいい。この二つが合わされば最高じゃありません?」
「そんなカレーとケーキを合わせるみたいな理論あげないでください!!」
「こんなやつが執筆者ですって!? ストーリーが台無しになるわ!」
エノーラはテーブルを叩きそう告げる。
「猪瀬さんこんなに煽られてますよ? 見返したくありません?あっ猪瀬さんには無理か~」
矢崎はこれを待っていたかの用にむかつく顔でそう挑発する。
「やってやろうじゃねぇか!」
その挑発は猪瀬の逆鱗を刺激した。
猪瀬は店を出て今までに無いほどのスピードで自転車をこぎ家に高速で向かう。
急いで帰った猪瀬は早速パソコンをつける。
自分を罵倒したあの女を見返してやろうと暑くなり執筆を始める。
彼女はストーリーは上手いが文法はイマイチというチグハグな小説だ。
そんな小説に猪瀬は妙な感じを持っていた。
妙ななつかしさを感じていた。
猪瀬は昔に読んだことがあるような不思議な感覚に襲われた。
「なんであの男を紹介したの?」
エノーラはチーズケーキを口に運びながら疑問を編集の矢崎に投げ掛けた。
「何て言うかあなた達似てるんです。勿論顔がとかじゃありません。」
「じゃあどんな所が似てるって言うのよ?」
「完璧主義者って言うか。作品を生かしきれてないと言うか。」
矢崎は遠くを見ながらコーヒーに口をつけ告げる。
「でも猪瀬ってやつは本を出してるんでしょ?それで生かしきれてないってどういうこと?」
「猪瀬さんは確かに本は出しました。でも結果は散々でした。文才はあるが作品にこだわり過ぎました。ハッピーとは言いきれないエンドで読者からの批判が多かった。編集長はその終わり方が気に入らず変えさせようとしました。ですけど私と猪瀬さんは違いました。」
「ふーん それでどうしたの?」
エノーラはケーキの最後の一口を食べ、聞く。
「この終わりを変えるなら死んだ方がましだってビルから飛び降りようとしました。それで編集長がおれてそのまま出版されました。」
矢崎は大笑いしながらそう告げる。
「ふーん」
エノーラはコーヒーを飲みながら考える。
私ならどうしただろう?
延々と書き続けたのだろうか?
作家になるのは夢だ。
だが書きたくもない作品を書くのだろうか。
「出来たぞロリ女!! 」
猪瀬は扉を勢いよくあけエノーラに向かって呼吸を見出しながら叫ぶ。
「うるさいわよ! そんなに叫ばなくても分かってるわよ!見せてみなさい。」
エノーラは猪瀬の原稿が入ったパソコンを奪い読み始める。
「悔しいけど面白いわね」
エノーラは悔しそうな顔をしながらそう告げる。
「だろ! お前の幼稚な文よりは幾分かマシだ!?」
猪瀬は勝ち誇り笑顔を浮かべる。
「2話からはこれぐらい面白く書いてやるわよ...」
エノーラは小さな声で呟く。
「2話からじゃ駄目なんです。」
矢崎はやれやれと言った顔できっぱりといい放つ。
「何で!? 」
エノーラは驚いた顔でそう投げ掛ける。
「家の編集部は一話で判断します。面白いかどうかを」
「何でよ! 最後までみて面白いかどうかを判断しなさいよ!」
エノーラは疑問を矢崎に問いかける。
「家の編集長は掴みでがっしりハートをつかむ作品しか使いません。」
「そんな自信作だったのに...」
「ならいっそ、二人の共同で出しませんか? 」
「「共同!?」」
「折角私が作った設定をなんでこいつに上げないと行けないのよ!」
「そうですよ!俺が書き上げたのになんでこんな奴に上げなきゃならないんですか!?」
二人はお互いの自信があるのを他人に上げるのに憤りを感じる。
「だって折角二人で書き上げたのにもったないなくありません?」
「それなら私が書き直せばすむ話でしょ!?」
「でもあなたが狙ってたコンクールに間に合いませんよ?」
「クッ!そういえばもうすぐねコンクール。
し、しょうがないから共同製作ってことにしてあげる!! 」
彼女の決断に猪瀬は凄いと感じた。
自分のデビュー作。
それは作家にとって命より大切なもの。
それを他人との共同製作で出す。
勝つために自分を捨てるのと同じだ。
矢崎は突然かかってきた電話に出る。
「はいはい 佐藤先生が来ましたか~コーヒーでも出して待たせておいてください。」
矢崎は鞄の準備を始める。
「まだ話は終わってないわよ分配の話とか!」
「すいません~用事出来ちゃいまして」
矢崎はそう言い走ってメイドカフェを後にする。
「ちょっ!待ちなさいよ!」
エノーラは窓から叫ぶ。
その声を無視され矢崎は走り抜けていく。
「えーとお会計2万円になります~」
メイドさんが悪そうにそう告げる。
「2万円!? なんでそんなにすんのよ! メニュー表見せなさい!」
エノーラは驚きメニュー表を見る。
「コーヒー一杯3000円!? ぼったくりじゃない!?そんなお金持ってきてないわよ! あんたある?」
エノーラの慌てた顔を目にし、猪瀬はどこか懐かしさを思い出しながら財布を確認する。
「あぁ、当たり前だろ。」
猪瀬はそんな小さな事でも優位にたてたことに
気分を良くする。
「一万円しかない何でだ!? あっ!」
猪瀬は自分の来しなを思い出す。
「おっ!姫野先生の画集でてんじゃん! でもいい値するなぁ。まぁ、今日は多めにもってきたしいけるだろ。最悪矢崎さんに借りればいいし。」
自分はよく一緒に仕事をする姫野先生の画集を買ったことを思い出す。
「す、すいませんこの画集でなんとかなりませんか?」
猪瀬は震えながら画集を見せる。
「ごめんねー うちそういうの駄目なんだ。 」
「あんたカ、カードとかないの?」
涙目でエノーラはそう告げる。
「そんなものねぇよ!」
「ならどうすんのよ!」
「なら皿洗いとお手伝いですねー」
メイドさんが笑ってはいるが、目が笑っていない。
「似合ってますよ~」
メイドさんはエノーラのメイド姿を見て写真を撮りながらいい放つ。
「凄く似合ってるぞ!そのメイド服」
猪瀬は元気が無さそうなエノーラを励ます。
「作家デビュー日初日にメイドカフェでメイドやってるって何なのよー! もうメイドカフェなんてこりごりよ!」
二人は早くこの拷問を終わらせようと仕事を急ぐ。
終わる頃には二人とも疲れきっていた。
「おつかれさん」
「ありがと」
猪瀬はエノーラの後頭部に缶コーヒーを当てる。
最初の険悪な雰囲気はなんだったのかすごく仲良くなっていた。
「..あげるわよ...」
「ん?なんて?」
猪瀬は聞き返す。
「認めてあげるっていってんの!」
エノーラは顔を赤くして猪瀬を認める。
「ありがとよ、だが次の話はかかないからなエノーラ」
「……じゃなくて」
「? 何か言ったか?」
猪瀬はがまた聞き返す。
「
そういい放ちエノーラもとい夢咲は走り去る。
その顔はトマトのように赤く、発熱していた。
「これが若さですねー」
矢崎は影に隠れながら写真を撮る。
「ヤーちゃん良かったの? 作家さんを働かせたりして」
「いいのいいのあの二人にはいいイベントだったでしょ」
矢崎は友達のメイドの
「あの二人いい化学反応起こすと思いません? 」
「どうだろうねー 拒絶反応起こしちゃうかもよ? 」
「本当はわかってるんでしょ? 大御所作家のアイルさん?」
「その名前で呼ばないでってばーもう引退したんだから。」
椿はぽかぽかと殴る。
「その年でその殴りかたは辛いですよ~」
「またそんな事言う! メイドさんは永遠の18歳なの!」
椿は呆れた顔をした矢崎にそう言い訳をする。
「星になるか無名のまま終わるか。頑張りどころですよ猪瀬さん」
突然神妙な顔をした矢崎はそらをみてそう語る。
「そのときはメイドカフェで雇ってあげようかなー」
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