第373話 戦王

(チッ!!! 二人が抜けたら抜けたで、やっぱりキツイなッ!!!!)


まだまだスタミナに余裕がある切り込み隊長と、一時的な防御力であれば聖騎士であるエリヴェラよりも上であるガルフ。

この二人が抜けるだけで、フィリップは現状を維持し続ける辛さを感じた。


(……一刀必殺を、狙った方が良さそうですね)


圧倒的な中衛をこなさなければならないフィリップの表情に焦りが見える。


そのため、イブキは一旦刀を収め、逃げて逃げて……ゴブリンライダーの攻撃、ウルフ系モンスターの爪撃を躱し続けた。


(今ッ!!!!!!!!)


タイミングを見極め、抜刀。


居合斬りの要領から放たれた斬撃波は……一度に四体ものゴブリンを切断した。


斬撃波が放たれると分かっても躱せないタイミングを狙って放たれた斬撃波は見事、一刀必殺の目的を果たした。


「喝ぁあああああツ!!!!!!!!!!!」


「「「「っ!!!!????」」」」


ウルフ系モンスターとしては、いきなりいつも自分の背に乗っていた相方が消えた状況であり……牙を失った獣ではないものの、慌てるなというのは無理な話であった。


そこで体技スキル、咆喝を発動。

精神攻撃に対して対抗するスキル技であり、他者に対して圧を掛ける技でもある。


慌てた状況でそういった技を受けたウルフ系モンスターは……ダッシュでその場から走り去ってしまった。


(ひとまず、これで、いきましょうか)


ゴブリンとウルフ……別々で行動しているのであればまだしも、主にゴブリンライダーとして戦っている以上、主導権を握っているのはライダーであるゴブリン。


そのゴブリンを失ってしまった以上、立て直す前に心が折れてしまえば……そこから立ち直るのは不可能に近い。


本来であれば、その逃走をブランネスウルフが一喝し、その必要はないと……まだまだ自分たちは戦えると鼓舞するのだが、ブランネスウルフは現在ガルフとミシェラの奮闘もあり、手が離せない状況となっていた。


(本当に、良い仕事してくれるな、イブキ。ただ…………多少は、いけるか)


先程の居合・桜乱や普段より範囲を広げた斬撃波など、普段の戦闘よりも魔力の消費が早い。


戦闘が始まってから身体強化のスキル、全身に魔力を纏う強化も行っており……ケチっていては負けるが、それでも消費が早過ぎれば直ぐにガス欠になってしまう。


「イブキっ! 飲め! 時間は稼ぐ!!」


「っ、了解」


どのようにして? とは尋ねなかった。


出会ったばかりの時はともかく、共に過ごしていくうちに、口ではあれやこれやぐちぐちと言うものの、やる事はしっかりとやる男である事を知っている。


イブキは素直にフィリップの言葉を信じ、マジックポーションの入った瓶を取り出した。


「ゥ、オ、ォォオオオオァアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!」


吼えた。


珍しく……本当に珍しく、フィリップは吼えた。


ローザの守りはヨセフ、パオロ、エリヴェラの三人に任せ、イブキの周囲の状況を把握する為だけに全神経を注いだ。


そして……全力で吼え、猛り、短剣を振るい、相手の腕を掴んではぶん投げ、器用に空中で蹴りを叩き込む。


「どう、だ!! イブキッ!!!」


「お見事です」


たった数秒、されど数秒。


友を真似るがごとく吼え、猛り動いたフィリップの働きにより、イブキは無事魔力の回復に成功。


再び柄を握り、愛刀を振るい始める。


だが……次の瞬間、命を刈り取る凶刃が二人に襲い掛かる。


「ッ、ァアアアアアアッ!!!!!」


奥から放たれたのは……一振りの戦斧。


二人が全力で回避を選択しようとしたタイミングで、エリヴェラがなんとか盾で弾き飛ばすことに成功。


「っ……助かったぜ、エリヴェラ」


回避しようという判断は取れていた。

迅速に、最速で避けようと頭と体も判断していたが、実際に避けられるかはまた別の話。


だが完全に避けられるかは不確定であり、余波だけでダメージを受けていた可能性もあった。


「聖騎士として、これぐらいはね」


頼りになる言葉を告げるエリヴェラだが、その額に冷や汗が一つ、流れていた。


(弾いた斧が、投擲した者の元へ戻っていった……斧技スキルの効果か、それとも戦斧に付与された効果か……どちらにしろ、侮れないね)


戦斧の持ち主が戦場に現れ……更に気を抜いては駄目だと、少しでも気持ちが退けばそのまま持っていかれてしまうと本能が叫ぶ。


(こ、この圧は!!)


(身に覚えが、あります、わね)


(この感じ……なるほど。視なくても、解ってしまうな)


他のゴブリンたちと比べて、三回りほど体が大きいゴブリンの名は……ゴブリンキング。


以前ヨセフ、ローザ、エリヴェラの三人が遭遇したキングリザードと同じく、王の名を冠する上位種。


ただ強いだけではない。

同族を纏め上げ、率いるリーダー……王たる個体の圧が彼等を襲う。


「ギギャアアアアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!!」


「ッ、ォォォオオオオァアアアアアアアアアアアア゛ア゛アア゛ア゛ッ!!!!!!」


間一髪であった。

ゴブリンキングは以前ガルフたちが戦ったミノタウロスと同じく、主の咆哮というスキルを会得していた。


エリヴェラが以前ソロで討伐したキングリザードも同じスキルを会得しており、嫌な予感がしたエリヴェラは即座に吼え返した。


「……ギギャギャ」


「はぁ、はぁ……悪いけど、二度も同じ手には、掛からないよ」


エリヴェラの雄叫びに、スキルの効果は付与されていない。

それでも、聖騎士が腹の底から上げた雄叫びに……間違いなく、ヨセフたちの心は奮い立たされた。


「ッ!!!!!」


予定通りに事が運ばなかった。

主の咆哮が通っていれば、エリヴェラやステラたちと言えど、Bランクモンスター相手には痛い隙が生まれてしまう。


通っていれば、面倒な人間との戦いを早く終わらせられた。

であればどうするか?

答えは一つ……真正面から叩き潰す。


「っ!!!! その方が……私も、戦りやすいよ!!!!!」


迫る凶刃に聖剣で返す。

結果は……互角。

両者、共に弾かれて下がる。


(巨狼が飛び出て来た時点で、その予想は……消しておくべきだったね)


ライダーとして有名な個体であれば、Bランクであっても単体であれば戦い慣れていないのではないか。


答えは……ノー。


ゴブリンキングは、一人でも戦えるからこそ、ブランネスウルフという強き相棒と認め合った。


エリヴェラの目の前に立つキングは、身体能力よりも指揮能力が長けていたからこそ王に至ったのではない……前に出て戦い、率いることが出来た猛者だからこそ、王に至った戦王。


侮れば……直ぐに凶刃の錆びにされてしまう。

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