第365話 くだらなくは、ない
「っ、シッ!!!!」
(守りてぇ気持ちと、自己犠牲の結び付き、ねぇ…………流石生徒会長。ちゃんと後輩のこと見てんな~~~)
現在、三体のオークを相手に、ガルフはレブトとフィリップの二人と共に戦っていた。
オークは上位種ではなく通常種ということもあり、闘気や護身剛気を使えば短時間で終わらせることも可能だが、ガルフは敢えて闘気を使わずロングソードを振るい、戦っていた。
(……普通の相手だと、まぁ問題ねぇ。言われずとも闘気も使わねぇところを見ると、色々と解ってる……成長してんな~~って思えるな)
身体能力や戦闘技術だけではない。
思考力も成長している……文句なしの成長具合である。
ただ、ガルフにあれこれ教えているイシュドとしては、先日の夜にクリスティールと話した内容が頭から離れない。
(護身剛気……闘気を体得しただけじゃなく、応用技術まで会得したと聞いた時は、単純にテンションが上がったが……昨日の話を真剣に考えるなら、もうちょい護身剛気を会得した切っ掛けや根本はなんなのか……考えねぇとあれだな)
そこまで考える必要があるのか?
過保護が過ぎるのではないかと思う者もいるかもしれない。
だが、イシュドからすれば将来的に自分と並び、バチバチに戦ってくれる有望株であり、親友でもある。
故に、細かいところまであれこれ考える事を、特に過保護とは思っていなかった。
「何を考えてますの」
「別に、大したことじゃねぇよ」
「そうとは思えませんわね。眉間に皺が寄ってましてよ」
「小姑クソ婆だな」
「ッ!!!!!!! そ、その口に刃をぶち込みますわよ」
現在自分がいる場所が学園ではなく、モンスターという敵が多数存在する場所だということを理解しているため、大声を出すことはなかったミシェラ。
しかし、だからといって怒りが消えることはなく、小さな声で恐ろしいことを口にするも……イシュドにとっては脅しにもならなかった。
「期待してるわ」
「このっ……はぁ~~~、もういいですわ。それで、何を悩んでましたの」
「まだ言うか」
「まだ言いますわよ。真剣に悩んでいるように見えましたわ」
憎きノット・オブ・ノット紳士、イシュドの悩みなどどうでも良い……というのが基本的なスタンスであれば、現状を考えるに、もしかしたら依頼に関わる悩みかもしれない。
そう思うと、やはりミシェラとしては気になってしまう。
「……ガルフの奴が、ダチや仲間を守りてぇって気持ちと自己犠牲が直結しねぇと良いんんだが、って思っててな」
「守りたい気持ちと自己犠牲……それは、どう違いますの」
「何かを守りてぇって気持ちは、そいつの欲だ。自分のプライドにしろ、他人にしろ……それらを守りてぇって気持ちがそいつの欲だからこそ、満たされるんだ」
「…………そういう事、なのでしょうね」
ミシェラとしては、何かを守るという行為が、欲という言葉で言い表すことに思うところがあるものの……これまで何度も狂戦士とは思えないイシュドの発言にハッとさせられてきたため、ひとまず反論せずに聞き入れることにした。
「対して、自己犠牲ってのは、目的の為に自分の欲や幸せを捨てて何かに尽くすことだろ」
「……そこに、欲は絡みませんの」
「さぁ、そこは知らん。人によっちゃぁ、満たされてんのかもな」
「それなら、別に良いのではないですの?」
「勝手なイメージだが、自己犠牲が軸になってる奴は、自分の限界値を知らねぇ。いや、知ってたとしても、それでもなんとかしようって動きそうだろ」
「…………」
よく勝手なイメージでそこまで語れるなと、ツッコむことなくミシェラは聞き続ける。
「他人の為に動こうとしてんだ。限界を越えようって気持ちやエネルギーはねぇだろう。そうなるとどうなか……解るだろ、デカパイ」
「己の限界を見誤り、命を落とすということですわね」
「そういうこった」
ガルフは、一応騎士志望でフラベルト学園に入学した。
であれば、その精神は騎士道精神に近く、決して不必要と断じることはないのではないか……そんな考えが心の中に浮かぶも、「だからお前は胸にしか栄養がいってねぇんだな、デカパイ」と言われる未来が浮かび、ミシェラは悔しさをにじませながらも、ぐっと唇を引き結んだ。
「…………イシュドにとって、それはくだらない命の使い方ということですのね」
「いいや、別にくだらねぇとは思ってねぇよ」
「そうですの?」
「あぁ。だってよ、少なくとも俺はそんな生き方出来ねぇからな。ダチの為に戦うことはあっても、基本的に俺が楽しみたいから戦ってんだ」
大前提として、イシュドは自分が楽しみたいがために行動している。
「人によっちゃあ、自己犠牲で動いてる連中のことを偽善者って言うだろうが、世の中その偽善に命を救われた連中もいんだろ」
「…………」
「それはそれで、凄ぇ事やってるとは思うぜ。そいつが幸せなのかどうかは別としてな」
「幸せ……そこが、あなたの判断基準なのですの?」
「……そうなのかもな」
イシュドにしては、珍しい判断基準だと感じたミシェラ。
もう、ただ粗暴なだけの人間ではないことは解っているが、それでもほんの少し驚きを感じた。
「けどよ、ダチのこれからの人生が幸せになってほしいって思うのは、別におかしいことじゃねぇだろ」
「そうですわね。何も、おかしい事ではありませんわ」
友人の幸せを願う。
その思いにおかしい事など、ある筈がない。
ミシェラとしても、ガルフは良き学友であり、共に研鑽を重ねていく良きライバル。
彼女としても……平民でありながら、折れず負けずに一歩ずつ進んでいる友人には幸せになってほしい。
「…………」
「な、なんなのですの、その顔は」
「いや、デカパイがノータイムで俺の言葉に同意するなんて、なんか気持ち悪ぃなって思ってよ」
「ぶっ殺しますわよ」
ならどうすれば良いんだという怒りが爆発し、全くもって令嬢らしくない言葉を零すミシェラであった。
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