第357話 正解だ

「モンスターが武器を持つってのだけでもクソ面倒なのに、それが進化の切っ掛けになる、か……良いことじゃねぇのは解ってたけど、やっぱり一度でも街を奪われたらクソ面倒なことになりそうだな」


「だろうな」


フィリップの言葉に、イシュドはニンニクを刻みながら応える。


「これは俺の勝手な考えだが、モンスターには俺ら人間みたいに誰かに教えるっていう文化? が一般的じゃねぇ。だからこそ、出会ったことのない物に出会うってのが、進化の一つの切っ掛けになるんじゃねぇかと思ってる」


「な~~るほ、ど…………あれか。イシュドが前に教えてくれたあのモンスターも、似たような感じか」


「ん~~~……そうなんかもしれねぇな」


「? あのモンスターとは、いったいどういったモンスターなのだ」


フィリップは冷静だからこそ、敢えてあのモンスターという言葉を使った。

そしてイシュドも、あのモンスターがどのモンスターの事を察しているからこそ、口には出さなかった。


しかし……どのモンスターの事か解らないヨセフたちからすれば、当然気になってしまう。


「いや、あれだ。珍しいモンスターがいたって話だ」


「どういったモンスターっつわれても……」


フィリップは助けを求めるように、イシュドに視線を送る。


(……まっ、元々その話をした俺の責任か)


フライパンで肉を焼きながら、イシュドは一応……まだ伏せて、あのモンスターに関する情報を伝えた。


「基本的に、なんでそういう方向に進化したのか、理解出来ないモンスターがいたんだんよ」


「むっ…………イシュドは、その進化に納得が出来たのか」


「納得っつーか、あり得ない事が起こる世界だから、そういう個体が居てもおかしくねぇよなって感じで無理矢理納得? した感じかもな」


ヨセフたちだけではなく、あのモンスターに関してイシュドが喋ったのは実家の男風呂にいるときだったため、ミシェラやイブキたちも頭を捻らせて考え込み始めた。


「……イシュドは、その進化したモンスターと戦ったんだよな」


「あぁ」


「やっぱり、強かったのかな」


「強かったな。普通に危ねぇ場面が何回かあった」


いつ、何歳の時に戦ったのかまでは聞いていない。

しかし……あのイシュドが危ないと感じる場面があったという事実が、エリヴェラたちに小さくない衝撃を与える。


「っ……………………」


そこで、エリヴェラは何かを思い付いた。

だが……何故か、それを口に出そうとはしなかった。


(いや…………いやいやいや、そんな事…………でも……)


エリヴェラは完全に食事の手を止めて悩み込むこと数十秒……意を決して立ち上がり、イシュドの元に近づいた。


そして、小さな声で耳打ちした。


「正解だ」


「っ!!!!!!!!!!」


イシュドはエリヴェラの答えに対し、直ぐに正解だと答えた。


エリヴェラは頭の中に浮かんだ予想を口に出したにもかかわらず、信じられないと……驚きを隠すことが出来なかった。


「……本当に、そんなモンスターが……いたの、かい」


「いた。正直、俺は爆笑した。なんなんだこのモンスターはってな。でも、実際にいたんだよ。んで、クソ強かった」


「………………」


「エリヴェラ、お前みたいに歴史を振り返っても数人しか現れねぇ存在いるように、モンスターにもあり得ねぇだろって言いたくなる存在も現れるんだよ」


「…………」


「お前と、ステラとレオナの三人一緒に挑んでも勝てない高等部の一年がいるなんて、俺と出会うまでいるかもしれないとすら思ってなかっただろ」


「っ!! …………それは、そう……かな」


出発前に一度、連携にある程度慣れてきたエリヴェラとステラ、レオナの三人でイシュドに挑んだことがある。


勿論……刃が潰れた武器を使うのではなく、真剣。

当然、エリヴェラも聖剣と聖剣技を使用した。


だが……結果として、イシュドにクリーンヒット一つ与えることが出来ずに終了。

イシュドは多少の切傷を負ったものの、それでも終わってみればイシュドの圧勝だったことに変わりはなかった。


(結局、イシュドはバーサーカーソウルを使うことはなく……おそらく、本気で戦う時に使う武器も使わなかった)


イシュドは決して手を抜いてはいなかった。

ただ、縛りを設けた状態で真剣に戦っていた。


「んじゃあ、俺の話も信じられるんじゃねぇの」


「………………そうだね。あり得ないと断言するのは、俺の成長を止めてしまうかもしれない」


「良く解ってんじゃねぇか」


答え合わせが終わり、イシュドから肉のおかわりを貰い、元居た場所へと戻る。


(エリヴェラのあの表情……無理矢理納得はしたようだけど、それでもあり得ない、信じられないといった思いが非常に強かった。つまり、その感情は私たちにも通ずるところがある?)


(ちょっと笑っちまうほど驚いてたよな、エリヴェラの奴。って事は、うちらも聞けばあんぐらい驚いてもおかしくないってことだよな。ってなると…………)


エリヴェラが戻って来てから数十秒後、ステラとレオナは同じ考えに辿り着いた。


すると、直ぐに自分の口を手で覆った。


(………………………………それ、なら……色々と、納得出来ますね)


(えぇ~~~~~、マジか~~~~~~~…………そりゃあ、エリヴェラがあんなに面白い顔をするのも納得ね~~~~)


ステラは心の中でさえ、あり得ないという言葉を使わないよう、なんとか……なんとか堪え、エリヴェラの表情はイシュドの言動から、一応受け入れることが出来た。


対して、レオナはアンジェーロ学園の者たちの中でもそれなりに柔軟な考えが出来るタイプであるため非常に驚きこそしたが、全力で否定するような気持ちは湧き上がらなかった。


その後、イシュドから正解だと言われたエリヴェラにヨセフたちがどういったモンスターなのかと尋ねるが、同じ考えに至ったステラは彼等に「自分で答えに辿り着きなさい」と伝えた。


何故……という思いは多少生まれるものの、ヨセフたちはステラからの言葉ということもあり、それ以上無理にエリヴェラから訊こうとはしなかった。

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