第356話 食べるのが好きだから
「そっちはどうだった」
「一度だけゴブリンライダーたちと交戦したね。正直……思っていた以上に、厄介だと感じたよ」
改良型水晶を使い、火が沈む前に集合したガルフたち。
今は夕食の準備をしながら、初日の間に交戦したモンスターの情報などを交わしていた。
「それ、俺たちも同じ感想だったな。人間が馬に乗るのと違って厄介だよな~って話してたぜ」
「こちらでも同じ感想が出たな。ゴブリンライダー以外に関しては、Cランクの熊系モンスターと遭遇した」
Cランクモンスターとの遭遇。
ゴブリンとウルフ系モンスターの群れという存在を除けば、森の中でトップクラスで危険な存在と言える。
「エリヴェラたちが対処したんか?」
「いや。私とローザ、パオロさんの三人で対処した」
戦力的に考えれば、ステラとレオナ、エリヴェラの三人の誰かが対処した方が、体力や魔力の消耗が少なくて済む。
しかし、ヨセフたちが望んだということもあり、ワイルドグリズリーの相手はヨセフたち三人で行った。
「へぇ~~~~、どうだったよ。ヨセフからすれば、面倒な相手だったんじゃねぇの?」
「その言葉が、そっくりそのまま返そう、フィリップ。しかし、お前の言う通り私にとっては面倒な相手だった。だが……上手く戦えたという自信はある」
「ヨセフと同じくですね」
イシュド、シドウ、クルトという三人の猛者に挑み続けた甲斐があったと……その成果を身に染みて感じた三人。
「……こんなところだな。んじゃ、更に移してくか」
イブキが絶妙にホカホカの米を炊き、ガルフとエリヴェラがメインで野菜などをカットし、イシュドがニンニクなどを使いながらモンスターの肉を焼いていく。
「俺は俺で勝手に食ってるから、先に食っといてくれ」
体力も魔力もすっからかんになるほどの戦闘を体験していないが、それでも全員が適度に動いて探索し続けていたため……一旦更に盛りつけた程度の焼肉では足りない。
そのため、イシュドはキッチン側で米や焼肉をちょっとずつ食べながら、ひたすら味付けをしながら焼き続けていく。
「なんつーか、本当にこう……不思議と似合ってんね」
「そうね」
イブキから話は聞いていたが、それでも実際にイシュドが調理をする姿を見たのは、今回が初めてのレオナたち。
夕食の準備を行う際、イシュドがあっという間に指示を出し、今も食い盛り学生たちの為に肉を焼き続けているイシュドの姿を見て……物凄くギャップを感じていた。
(解ります……その気持ち、非常に解ります)
別大陸に来て、米が主食ではない国でホカホカの米が食べられることに感謝しながら、イシュドの調理姿を見てギャップを感じている二人に激しく同意するイブキ。
「……あの男に対して、謎は深まるばかりだな」
「そうか?」
「あぁ。戦闘行為を好む者が、鍛冶師の道にも進むというのであればまだ理解が及ぶが……どうして料理なのだ?」
ステラやレオナほど強いギャップを感じてはいないが、それでも調理姿が堂に入っているとは感じていた。
「飯食うのが好きだからなんじゃねぇの?」
「…………そうでしょうね」
「……ですわね」
クリスティールとミシェラはイシュドの調理姿にギャップを感じるよりも、過去にイシュドとガルフに高級料理店の料理をご馳走した時の額を思い出し……一瞬だけ美味しい筈の料理から味が消えた。
「そういう、ものか…………話を戻すが、他に何か変わったことはなかったか」
「変わったことねぇ……それらしいことはなかったよな、ガルフ」
「うん、そうだね。特に変わった事はなかった……と思うけど、少し気になる個体は何体かいたかな」
「? そんな変わったモンスターと遭遇したか?」
フィリップの記憶にはそういったモンスターはおらず、ミシェラやレブトも同じ感想だった。
「外見に物凄く特徴があるとかじゃないんだ。ただ、コボルトとか、ボア系のモンスターが……少し、お腹が空いてるように見えたんだ」
「……今日はまだ飯を食えてないとか、そういう状況じゃなくってことか」
「うん。多分……二日か三日は、満腹になれるほど食べられてないんじゃないかな」
「低ランクのモンスターが減っている、ということか?」
ヨセフの言葉に、ガルフは小さく頷く。
「食えるものが減ってる、ねぇ…………ってことは、ゴブリンとウルフ系モンスターの群れが、思ってた以上に拡大してんのかもしれないね」
「その可能性が高そうね。でも、生まれたばかりのゴブリンが直ぐに昼間に遭遇したゴブリンと同じく戦えるとは思えないかな」
「ゴブリンたちとしては、食料は欲しい。しかし、DランクやCランクのモンスターを狙えば戦力が減る可能性が高いからこそ、低ランクのモンスターが狙われているという事ですね」
ゴブリンらしからぬ思考……と考える者はおらず、更にそこから考えを広げていく。
「食料が減れば……場所を移しますわよね」
「だろうな。さすがに知能が高い上位種が生まれたとしても、農業を行うって選択肢は出てこねぇだろうから、群れが大きくなればなるほど場所を変えねぇとってなるだろうな」
「…………森の中から村に、村から街に移動するかもしれない」
ゴブリンとウルフ系モンスターに襲撃されれば、村程度の戦力では即座に潰され、街であっても……Bランクモンスターが二体もいれば、大きく数を減らしたとしても……乗っ取られてしまう可能性は無きにしも非ず。
「……なぁ、イシュド。そうなればどうなると思う」
「そこで俺に話を振るんかよ」
昼食時と同じく、イシュドはなるべく今回の依頼に関する会話には参加しないようにしていた。
「つか、そういう話を振られても、俺や俺の実家はそういうのが起きねぇためにモンスター共をぶっ殺してたから、あんまり情報らしい情報は知らねぇぞ」
「んじゃあ、イシュドの個人的な考えはどうだ」
「…………ウルフ系モンスターはどうなるか知らんけど、間違いなくゴブリンの戦力は増えるだろうな。んで、それなりの街を落したんなら、武器屋で武器を拾い放題だ。それが、成長や進化の切っ掛けになる可能性はあるかもな」
レグラ家が逃がしてしまったモンスターが他の街を侵略したケースはないため、本当にイシュドの個人的な予想。
しかし、この場にイシュドが普通の狂戦士ではないことを知らない者はおらず、全員の顔に緊張が走った。
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