第327話 自然に身に付く

「ッ、学園長、それは」


「問題無い。彼の言う通り、学生たちからすれば、私たち大人は大人というだけで、汚いと……ズルい者だと思われるもの。であれば、これぐらいの物は担保として預けなければならないだろう」


「…………学園長がそうおっしゃるのであれば、私としましては、特に言う事はございません」


後ろに並んでいる男の反応からして、ロブストがアイテムリングから取り出した物が、本当にロブストにとって最高で最強の相棒たちであることが解る。


「どうかね、イシュド君。儂の愛剣たちは、担保になるかね」


「ここまでの物を出されたら、まだ足りないとは言えないっすよ」


ランク七の聖剣が二本に、ランク八の聖剣が三本。

人によっては、言葉に出すことはなくとも……親族の命より大切だと思う者がいてもおかしくない逸品たち。


全て売れば、文字通り一つの財産となる。


「そうか、それは良かった。では、提案したい依頼を紹介しよう」


ロブストは一枚の依頼書……という名の、報告書を取り出し、テーブルの上に置いた。


「………………へぇ~~~。これ、間違いないんすか?」


「既に何度か確認は取れているらしい」


「なるほど。ブラックウルフまで従えてる? ってなると、トップがそれなりの奴って感じがするっすね」


報告書には、ゴブリンがウルフ系のモンスターに跨り、ライダースタイルで冒険者などを襲っているという内容が記されていた。


ゴブリン、もしくはコボルトなどの人型モンスターがウルフ系モンスターと共闘し、人間を襲うというケースは、そこまで珍しくはない。


だが、Cランクモンスターであるブラックウルフが、他のモンスターを背に乗せて移動することは、滅多にない。

モンスター博士と呼ばれるほどの知識は持っていないが、これまでの戦闘経験から、イシュドはなんとなく覚えていた。


「Bランクのゴブリンが多くの同族、そしてウルフ系のモンスターを従えている可能性がある」


「……だけじゃなくて、ウルフ系モンスターの中にBランクがいて、Bランクのゴブリンと気が合って一緒に行動してるから、BランクウルフみたいなCランクのウルフ系モンスターが素直に従ってる可能性もあるっすよね」


「ふっふっふ、流石じゃのう」


「これでも、モンスターとの戦闘経験はそこら辺の奴らよりも多いんで」


戦闘経験が多くとも、ただ討伐する事だけを考えていれば、そういった考えに至ることはないのでは? ……とツッコミたい男女二人だったが、今イシュドと話しているのはロブストであるため、ぐっと口を噤んだ。


「Bランクのゴブリンとウルフのツートップ…………他のモンスターの事も考えれば、エリヴェラたちだけには任せられないって感じっすか」


「相手にもよるが、一対一の勝負であれば、エリヴェラやステラにも勝ち目はある。ただ、今のところイシュド君の様に奇襲に備えられるほど余裕を持って討伐出来るほどの力はない」


ロブストは情報収集などをこまめに行うタイプではあるが、それでもイシュドがこれまで戦って討伐してきたモンスターなどの詳しい情報は知らない。


ただ……イシュドがフラベルト学園からの依頼を受けた際、結果としておそらく実力はBランク以上だろうと推察されているモンスターを一人で討伐したいう情報は得ていた。


実際のところ、イシュドが学園に届いた依頼を受け、最終的にソロで戦うことになった噂のモンスター……鬼竜・尖はAランクモンスターであり、戦闘終了後はイシュドもそこまで余裕のある状態ではなかった。


だが、実際に生でイシュドという本当は多くの貴族や王族までもが恐れる一族、レグラ家の狂戦士を視た結果……Bランクモンスターであればよほど長く生き、戦い続けた個体でもなければ、数体同時に戦えるであろう戦闘力と生命力を感じ取った。


「そして、エリヴェラとステラにレオナ、その他の学生たちが組んで挑んだとしても、まだ経験が浅い彼等では不安が残る」


「数が推定、五十以上だとロブストさんの心配も解らなくはないっすね」


ここ数日、ヨセフたちと何度も何度も模擬戦を行い、エリヴェラたちが加わらずともヨセフとパオロ、ローザの三人だけでも複数のDランクモンスターを……Cランクモンスターが相手であっても、相性次第では二体から三体ほど同時に相手を出来る実力と連携度の高さを有しているのが解る。


だが、数というのはそれだけで純粋な暴力となる。


加えて、基本的に野性で生きているモンスターというのは、同族との連携などはあまり意識していない。

しかし、狩りを行う上で、勝手にどう動けば獲物を上手く狩れるかを考えて行動するため、下手に考える前に動けるようになってしまう。


人間たちの中に存在する達人たちと比べれば浅いものの、それでもまだ戦闘経験数が一流とは呼べない学生たちからすれば、脅威と感じる連携となりえる。


「でも、俺が参加すれば、あまりエリヴェラたちの為にならないから、俺はあんまり参加しないでほしい……ってところか」


「本音を言うと、そうだね。ガルフ君たちが共に戦うことで、それなりに余裕を持って戦えるようになる。ただ、イシュド君が本格的に参加してしまうと、全く緊張感のない戦いになってしまうじゃろう」


「実力を買ってもらえてるようで何よっりすよ。まぁ、それが心配ならそれは俺の方でなんとかしとくんで…………現場では、シドウ先生とアリンダ先生はそっちから派遣される人たちと一緒に居れば良いって感じっすかね」


「それが一番なんだけど、どうだろうか」


「…………良いんじゃないっすか。状況次第では予定変更するでしょうけど、今のうちに緊張感のある戦いを経験出来た方が良いっすからね」


「ふっふっふ。なんとも、儂たち側らしい言葉じゃのう。やはり、領地で生活している際、そういった経験も積んでいたのかな」


「訊かれたことに対して思った事を答えてただけで、そんな事はしてないっすよ。単純に、ある程度の安全が確保されてる状態でこそ、厳しい戦いや争いっていうのは経験しておくべきでしょう。いざ大人に、兵士や騎士に、魔術師なればおいそれと失敗は出来ないでしょうし」


「……その通りじゃな」


これまでのやり取りから、ロブストはもう少し目の前の青年と話してみたいと思ったものの、自分から呼び出しておいて、もう少し時間をくれと要求するほど傲慢ではなかった。

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