第302話 合意の上であっても
イシュドは……野郎である。
性別的な意味ではなく、性格的な意味で野郎である。
大人の店に通うことは良くあり、女性冒険者と合体したことも何度もある。
そういった部分だけでいえば、遊び人と思われることもあり、本人もそこを否定しようとは思わない。
そんなイシュドから見て……ステラという女性は、合体出来るな即座に合体したい相手である。
実際、ステラから自分が出来ることがあればなんでもする、払えるものがあればなんでも払うと告げられた瞬間、驚くと同時に真っ先に胸に目が行った。
おっぱい星人なところがあるイシュドにとって、おそらくさらしで抑えられても尚、大きな存在感を漂わせるステラの胸は、まさに至宝。
それら以外の要素も含めて即座に合体したいという欲望に嘘は付けない。
ただ、第一に状況が状況だった。
「い、イシュド。大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だよ…………ったく、なんか前にもこんな事あったな」
互いに合意の上で合体するのはともかく、その過程に至るまで、何かしらの取引を行い、対価として致すのは……イシュド的にあまりよろしくない。
(つっても、ムスコは正直だよな~~~~)
イシュドのムスコは非常に欲望に正直であり、既に臨戦態勢になってはいるが、思考に関しては理性を捨てていなかった。
人と獣の差は理性があるか否か……それを表現するのに、ピッタリな現象が今のイシュドに起きている。
イシュドとしては、そういった状況に興奮を覚えてしまうものの、そこで乗ってしまっては力に物を言わせて襲うに近いと思っており、イシュドの中では越えてはならない一線という認識だった。
取引内容としては、ステラの財産と呼べる技術との取引と考えれば……寧ろたった一晩で足りるのか? という疑問が浮かび上がるが、それはイシュドにとってあまり関係無い。
「とりあえず、女がそういう事を軽々しく言うなっての」
「っ! 私は本気なの!!!」
「尚更悪いっつーの」
「っ!!!!!?????」
物理的指導だと言わんばかりに、ステラの額に高速デコピンが叩き込まれた。
強化スキルは使用しておらず、勿論指に魔力を纏ってなどいない。
とはいえ、それでも耐える準備が出来ていなければ、イシュドのデコピンは非常に痛い。
「~~~~~~~~~っ!!!! な、何をするんですか!?」
「尚更悪い発言だったからな。女なんだから、もうちょい自分の身を大切にしろっての」
男女差別……と捉えられるかもしれないが、この世界ではイシュドの様な考えを持つ者は珍しくなく……というより、今回に関しては全面的にイシュドが単純に正しかった。
「わ、私はこれからも戦い続けるんです!!」
「だろうな。そりゃ解ってるけど、それとこれとは別問題だろ。貴族出身ならそういう部分まで上手くいくとは限らねぇだろうけど、仮に既に決まってる相手がいねぇなら、別にその時まで保ってたらいいだろ」
貴族の女性となれば、夫となる人物と結婚して夫婦になるまでに一度も体験したことがないというのは、非常に評価が高い。
寧ろ経験があれば、評価は下がってしまう。
勿論、感じ方は男性側によって差異はあるが、基本的には貴族界隈での一般常識にそった評価をする令息が多い。
「後な、俺はこれからまだまだ遊ぶつもりなんだよ。だから、やって万が一があって責任を取れって言われても嫌なんだよ」
「っ!!!!! …………なる、ほど」
仮に万が一が起きても責任を取りたくないと宣言したイシュドに対し、信者であるステラとしては見逃せない。
ただ、わざわざ自分が人気のない場所を選んだ理由を思い出し、加えてわざわざイシュドがそこまでぶっちゃけた事に注視し……とりあえず、怒る内容ではないと判断した。
(そうですね……責任を取りたくないという考えを隠すのではなく、こうして話してくれている……それを考えれば、遊び人と呼ばれている方々よりもよっぽどまとも……なのよね?)
そういった知識が薄いということもあり、少々判断に迷うステラ。
しかし、ひとまず自分の行動に関して、少し不誠実な発言はあれど、軽々しくそういう頼み方をするのではないと止めてくれたイシュドに感謝した。
とはいえ、後払える物といえば、基本的に金だけになってしまう。
ステラは実家から送られてくる小遣い、受けた依頼得た金、討伐したモンスターの素材を売却した金なども含めて、貯金するか自分以外の事に使うことが多い。
故に、それなりに貯まってはいるが、イシュドの技術という財産に対して釣り合うかどうか怪しい……と、ステラ本人は思っている。
「いや、あれだぜ。ステラに女としての魅力がねぇとかじゃないけど、仮にじゃあそういう流れでやって、当然内密にやると思うけど、万が一バレたりしたらどうなるよ」
「一応、正当な取引の上で、合意の上での好意だけど…………揉め事に、なるかしら」
「百パーセントなるだろ。最悪、戦争勃発じゃね」
「なっ! そ、それは少し話が飛躍し過ぎじゃ……」
「世間一般的には……いや、まぁ大体の認識が蛮族ってのは間違ってねぇからな。うちの未来の聖女が、隣国の蛮族に汚されたって一部のバカが騒ぐだろ」
そんなことはない……と、直ぐには言えなかったステラ。
信者であっても、全員が全員真面目な信者ではないということは、ステラも気付いていた。
「言っとくけど、そうなったら俺はこちの連中をぶっ殺すことに躊躇はしねぇ。次会うのが学園とかじゃなくて戦場とかになるのは嫌だろ」
「……そうね」
でも、それじゃあ……と、どうすれば良いのかと、ステラはあからさまに落ち込んでしまう。
「おいおい、何をそんなに落ち込んでんだよ。別に対人戦の技術ぐらい、対価とかなしに教えてるっての」
「っ!!!!???? …………イシュド、先程までの会話内容を、忘れましたか?」
イシュドの技術には、それだけの価値があるからこそ、自分に出来ることがあれば何でもするし、払える物はなんでも払うと伝えたステラ。
だが、イシュドはそれに対して、別に特になにもしなくて良いし、払わなくても良いと返した。
「忘れてねぇよ。ただ、価値観の違いってやつだ。俺にとっては、別にタダで教えても構わねぇんだよ……そいつが、覚悟を決めてる奴なら、尚更な」
良い意味で強くなろうと貪欲な者を、イシュドは拒まない。
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