第300話 健全な肉体
「ッシャアアアアア!!! どんどん来いやッ!!!!!!!」
昼食を食べ終えた後、体力を完全に回復させたイシュド達。
現在はロングソードを使うミシェラと、双剣を使うイブキが共にイシュドを攻めていた。
「フッ!!!! セヤッ!!!!! 疾ッ!!!!!!」
「ッ!!! ッ!!!! 破ッ!!!!!!!」
ロングソードを使うミシェラが前で攻め、双剣を使うイブキが比較的後方から斬撃波を放つという、珍しい陣形で戦う二人。
イシュドはミシェラの斬撃を躱しながら、魔力を纏った拳でイブキが放つ斬撃波を粉砕していた。
(十分解っていた筈ですが、改めて傑物だと、思い知らされますね)
イシュドは魔力を纏っているだけで、強化系のスキルを使用していない。
にもかかわらず、あっさりと自分が放つ斬撃波を粉砕している。
しかも、ミシェラの斬撃を躱しながら。
(まだまだァアアアアアアアアアッ!!!!!)
ミシェラは、双剣を使わない自分の攻撃など、当たる訳がないと思っている。
だからといって諦めて攻撃を行っているわけではない。
諦めるという行為が最も無意味だと解っているからこそ、ミシェラは一々落ち込むことなく時間が来るまでフェイントを織り交ぜながら斬撃を行う。
「二人共お疲れさん」
「「…………」」
相変わらず最後の仕留め方は腹パンであるため、二人は軽く悶絶していた。
いつも共に行動しているメンバーであろうと容赦しない……それがイシュドである。
「デカパイはあれだな。割と中間距離系の武器の扱いに慣れてきたんじゃねぇの? そこまで慣れてきたんなら、イブキやガルフが相手なら、多少戦りやすくなってるかもな」
「……後で、試して、みますわ」
「イブキはあれだな。遠距離攻撃を主軸にしつつ、時折虚を突いて接近してくるタイミングがマジで良かった。タッグ戦での双剣の役割的に、新しいやりなんじゃねぇのって感じたな」
「そう、言ってもらえると、光栄です、ね」
イブキは本職の人間には劣るものの、知人に侍ではなくそっちの道に進んだ者がおり、多少ではあるが足音や気配の消し方は学んでいた。
それを活かし、双剣を使うのに遠距離で戦いながら、虚を突いて接近戦を仕掛けるという戦法を行った。
だが……結果としてそれらの戦法は完全にイシュドに対応されてしまった。
イシュドはタイミングは完璧だったと言うものの、一度もまともに食らうことはなく、回避……もしくは手刀で受け流していた。
(……嘘ではないのでしょう。となると、答えは……一つだけですね)
イブキの奇襲に対し、イシュドはただ来た攻撃に反射しただけ。
だからこそ、本当に虚を突かれたとしても問題無く対応することが出来たのだ……少々信じられないが、それしか納得する内容がなかった。
それ以降も、イシュドは対戦相手のツーマンセル、もしくはスリーマンセル。
色んなメンバーが普段組まない様な面子と組み、イシュドに挑み続けた。
「いやぁ~~~~、よく戦った戦った。シドウ先生、時間的にはとりま終わりっすか?」
「そうだね……確かに、丁度良い時間かな」
結果、イシュドは全戦全勝。
何名かはイシュドの体に傷を付けることが出来たが、誰が誰と組んでも、イシュドを倒すことは出来なかった。
(多分無理だろうな~とは思ってたけど、まさかあそこまで上手く倒されちゃうとはなぁ~~~……まさに戦いの申し子、って感じだな)
クルトは最後の最後に行われた模擬戦を思い出していた。
最後、イシュドと模擬戦を行ったのは……ステラ、レオナ、エリヴェラ、ガルフのフォーマンセル。
今回の訓練の間で、初めて行う一対四の戦い。
まず、学生の間では見られない形の模擬戦。
彼女たちレベルの実力者であれば、逆に一対四の一側になるものだが、当然の様にステラたちは四側にいた。
そして……誰一人として、四人で戦えばなんとかなるだろう、と考えている者はいなかった。
全員、普段使わない得物を使用してはいたが、四人がかりで本気でイシュドを倒すつもりで戦った。
ただ……イシュドは事前に語っていた通り、四人となるとイシュドも抑えて戦っていれば、割と危機感を感じる。
模擬戦とはいえ、負けることをよしとはせず、それまでの模擬戦とは違い、タイムリミットまで待つことはなく、ある程度イシュドからも仕掛けていた。
他の模擬戦時よりも集中力が高まっており……これまた結果的にイシュドは一発も良い攻撃を食らうことなく、素手で四人を対処してしまった。
(改め、て……対人戦、技術の、レベルが……違うと、感じる、ね)
同じ素手だけで戦う戦闘者として、手刀なども含めてイシュドの戦いっぷりは、是非とも参考にしたいものだった。
(…………無理だと解っていても、頼むべきね)
午後の訓練が終わった後、夕食も訓練場で行われた。
本来であれば、外に出てどこかしらの店で食べる予定だったが……先日の会計で、思った以上に消費してしまう知り、毎日外食する訳にはいかなくなってしまった。
「……二人とも、よく食べるな」
よく食べるのは、先日の外食で解っていた。
だが、ヨセフは午後の訓練を終えた後のイシュド、ガルフの食いっぷりを見て、思わずつぶやいてしまった。
「ぷは~~~~。ここの学食が割と美味いのもあるし、なにより動いた後は、ちゃんと食わないとだろ。健全な精神は、健全な肉体に宿るって言うしな」
「ふ、ふむ?」
色々と端折ってはいるものの、ヨセフはイシュドの言いたい事が、どういうことなのか、何となくは解った。
しかし、同時に健全な肉体は解るが、健全な精神とは? という純粋な疑問が浮かんでしまった。
「まっ、細剣使いとして生きてくって決めたヨセフとかアドレアスとかなら、あんま必要以上の筋肉を付けるのはあれだが、ちゃんとがっつり食うってのも大事だぜ」
イシュドの言葉に、同じくアンジェーロ学園側で一番もりもり食べているレオナは何度も頷いた。
「そ、そうか」
貴族の令息であるヨセフとしては、食事というのは行儀良く、そして食べ過ぎてしまわない程度の食べるのがベストだと思っていた。
(……礼儀だけ、気を付けていれば構わない、か)
ほんの少しだけ意識が変わった彼は、普段よりも少し多めに食べ……多少苦しさを感じながらも、イシュドに言われた通り座り続けるジョギングを行い続けた。
そして、ほんの少し時間がズレ、学生たちの通りが少ない場所で、イシュドとステラがいた。
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