第288話 歴史に、名を残す
「結構良い宿用意してくれたんだな」
一通り観光案内をしてもらい、夕食も食べ終えた後……また後日という流れで解散。
イシュドたちはアンジェーロ学園が用意していた最高クラスの宿に泊まっていた。
「そりゃそうだろ。あれだぜ、イシュド。一応こっちには王子様がいるんだぜ」
「そういえばそうだったな」
完全に忘れていた訳ではないが、普段から一緒に行動しているため、アドレアスが王子だという感覚が抜けていた。
「ふふ。おそらく、僕がいなくてもイシュドがいれば同じような待遇だったと思うよ。もしくは……少しランクが下がっていたとしても、昼前の様な戦いっぷりを披露していれば、上の方たちが自然と変えなければと思って、今ぐらいのランクになっていたと思うよ」
「イシュドは一人で三人も倒したからね」
「最初の一人はカウントしてねぇ……つったら、デカパイの奴が怒りそうだな」
部屋は男女別に別れているため、現在イシュドたちの周りにミシェラはおらず、彼らの会話がミシェラたちに届くこともない。
「……どうだろうな。ミシェラは観た感じ、割と余裕を持って戦ってた感じがするし、あんまり苦労して勝ったって感じはないんじゃねぇかな」
「確かに彼……ヨセフ君はイシュド君に負けてしまったが、それでも弱くはなかったと思うよ」
「アドレアス~~~、お前がそれを言っちゃうとなぁ~~~…………ミシェラの前ではどうかしらねぇえけど、そのヨセフの前で言ったら、挑発されてるって受け取られるかもしれねぇからな」
「うっ………………思ってる事を伝えるというのは、難しいね」
アドレアスはヨセフと同じく細剣使いではあるが、技術力はヨセフを完全に上回っている。
それはヨセフの先輩にあたる人物、レオナ・ガンドルフォが認めている。
同じ細剣使いに……しかも歳上の学生ではなく、同学年から褒められれば、それは挑発されている、もしくは煽られていると受け取られてもおかしくない。
「そういえば、フィリップも後衛顔負けの遠距離攻撃合戦をしてたよな。フィリップは渋々って感じでやってたのかもしれねぇけど、ありゃ完全にあっちの……ローザって奴の心を折ったんじゃねぇか?」
「どうだろうな……まっ、あれぐらいで心がボキバキ折れるなら、そもそも今回の交流戦なんかに出られないんじゃねぇの」
確かに渋々ではあったが、文字通り後衛職の人間を相手に、後衛職としての仕事をさせず、完璧に自分との遠距離攻撃合戦に集中させた自覚はある。
なので、自分のやった事が大したことはない、とは言わなかった。
「というか、やったことに関しちゃあ、イシュドの方がえげつないだろ。ヨセフって奴にはあえて重量級の武器で戦うし、エリヴェラとの戦いじゃあ、途中から聖剣と光属性? の盾を取り出して戦り合ってたじゃねぇか」
「フィリップの言う通り、あれは…………うん、えげつないという言葉が正しいかな。あれで彼の心が折れず、寧ろ闘争心が燃え上がっていた……向こうの人たちの表情から察するに、戦いの中で成長したのは……あまりこういう言葉を使うのは良くないかもしれないけど、奇跡だと思うよ」
アドレアスの言葉に、フィリップとガルフ、レブトの三人は躊躇うことなく頷いた。
「そうか? まぁ……ぶっちゃけ、俺も最初はあぁいう対応をすれば、どういう反応をするかって考えてたけど、多分あれぐらいで潰れるような玉じゃなかったろ」
「結果論じゃなくてかい?」
「おぅ。元々、二次職で聖騎士になった時から、周囲からプレッシャーは半端じゃなかっただろうからな……エリヴェラからすれば、今更って感じだったんじゃねぇか」
「…………二次職で、聖騎士に就けるってなった時、エリヴェラさんは……迷わなかったのかな」
二次職で聖騎士に就ける。
その際に、迷いはなかったのか。
そんなガルフの言葉に、フィリップは首を捻った。
「なんで迷うんだよ」
「なんでって……フィリップなら、絶対に迷うでしょ。だって、そうなれば絶対に周りの人たちが放っておかないんだよ」
「うっ……そ、そうだな。俺の場合は、そうかもしれねぇ。でも、エリヴェラにとっちゃ、念願叶った聖騎士だろ。あんまり躊躇う気持ちはねぇと思うけどな」
「でもさ、過去に二次職で聖騎士に就いた人は、長い歴史の中でもたった数人だけなんでしょ。つまり、嫌でも歴史に名を残すことになるよね」
「あぁ~~~~、なるほどな。それは確かに……多少躊躇いはするか」
ガルフの言う通り、エリヴェラがカラティール神聖国の歴史に名を残すのは、既に決定事項。
このまま過去、二次職で聖騎士に就いてきた者たちと同じく、大きな功績を残して亡くなるのであればまだしも、あまりぱっとしない経歴のまま亡くなれば……不名誉な形として歴史に名を残すことになる。
二次職で聖騎士になれただけ凄い。
それは確かに間違いないのだが、歴史に名を残してしまった故に、必ず大きな壁を越え、大きな功績を手に入れなければならない。
歳若い者であっても、過去の歴戦の聖騎士たちと比べられることが確定した……そのプレッシャーがいかほどのものか、全く解らないわけがなかった。
「エリヴェラの場合、周りに敵も多そうだしな」
エリヴェラの実家は男爵家。
フィリップの様に実家が公爵家であればまだしも、実家の権力があまり強くなると……表面上は仲良くしようと近寄ってくる者たちは、心の中でエリヴェラを見下すことは珍しくない。
エリヴェラとて実家の権力は強くなくとも、貴族社会を生きてきた故に、それなりの洞察力は備わっている。
ある程度見抜くことは出来る……見抜くことが出来るからこそ、人間不信に陥る可能性が高い。
「……あいつの場合、既に覚悟が決まってたんだろうな」
「それは……どういう事?」
「自分は聖騎士になって、多くの民を救う、大切な人を守る。幼くして、その覚悟が決まってたからこそ、二次職という早い段階で聖騎士という職を掴んだ……からこそ、躊躇いはなかったと俺は思うぜ」
確かな実力と素質、なにより並々ならぬ覚悟を秘めていたからこそ、若くして選ばれた。
だから、エリヴェラに躊躇いや気負いはなかった……というのが、イシュドの考えだった。
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