第285話 案外一番かも
(な、なんなんだ……この男は、いったい)
自分をハンマーという重鈍な武器で、削り取るという攻撃で倒した時から……薄々気付いていた。
ここ最近、自分が全く勝てていない同級生、エリヴェラ・ロランドを相手に余裕の勝利を得て……完全に気付いた。
この男は、普通じゃない。
狂戦士たちの中でも、特異な狂戦士なのだと。
桁外れ……文字通り、ステージが違う。レベルが違う。
そう感じさせる実力を、戦闘力を持つ狂戦士なのだと嫌でも気付かされた。
とはいえ、それだけであれば、まだありきたりな言葉である「世界は広い」という言葉で納得出来る部分はある。
正直なところ、ヨセフにとって二次職で聖騎士に就ける者など、伝説の様な存在だったから。
ただ、目の前にいる狂戦士の男は、ただ強いだけではなかった。
(この……男の頭の中は、どうなっているのだ)
頭の中が気になる。
そんな自分が一生思うことはないだろう、マッドサイエンティスト染みた言葉を、ヨセフは心の中で無意識に呟いた。
特異な狂戦士なのだから、戦闘に関しては普通の狂戦士の様な力任せの思考ではなく、変わった思考を持っている……そこまでなら、まだ理解が及ぶ。
しかし、先程ステラの問いに対する答えは……貴族の令息や令嬢に関する部分は、「それは貴族の令息であるお前が口にしても良いのか?」とツッコミたいところではあったが、ヨセフ自身……理解出来る部分は無きにしも非ずであった。
だが……後半の平民の子供に対する考えは、世界の礎など……戦士として生きる者がまず考えないであろう事を特異な狂戦士は多少悩みながらも、サラッと口にした。
(この男は……狂戦士、なのか?)
当然、口にはしなかった。
口にはしなかったが……ヨセフは思ってしまった。
目の前の狂戦士に対し、気持ち悪いと。
あまりにも、相反するものが混ざり合っている存在。
吐き気がする程の嫌悪感などを感じることはないが、それでも……どこか気持ち悪さをぬぐい切れなかった。
「あっはっは!!! あんた、本当に面白いね。本当に狂戦士なのかい?」
同じく、目の前のこいつは本当に狂戦士なのかという疑問は持ちながらも、三年生であるレオナ・ガンドルフォはヨセフの様にイシュドに対して気持ち悪さなどは特に感じなかった。
ただ……ただただ面白い人間だというのが、彼女の感想だった。
「本当に狂戦士に決まってるだろ。俺は戦うのは大好きだが、それだけにしか興味がないって訳じゃねぇんだ。他の狂戦士と違う部分つったら、そこが大きく関係してるのかもな」
他の狂戦士という職業に就く者たちも、戦闘以外に興味を持つ者はいるが……その興味とは、女を抱く事と酒を呑むこと。もしくはギャンブル。
正直なところ、イシュドもそれら全てに当て嵌まってはいる。
娼館にはよく通っており、十五も越えたということもあり、エールだけではなくワインやカクテルも少しずつ飲み始めている。
金は大量にあるため、中毒者たちの様にのめり込まず、適度にカジノで楽しんでいる。
ただ、イシュドはそれ以外にも料理や弟のスアラが夢中になっている錬金術や鍛冶も興味をも持っており、まだ十歳にもなっていないスアラに投資したり……世話になっている親方の鍛冶場に投資している。
他の狂戦士たちと比べれば、その辺りが大きく違う点と言える。
「なるほど~? たとえばどんな事に興味持ってんの?」
「……イシュドなら、料理ではないでしょうか」
「「「「「「「っ!?」」」」」」」
レオナからの問いに、イシュドの意外な部分と言えば料理が上手いところと、記憶に刻み込まれているイブキが、無意識にポロっと零した。
「「「ゲホっ、ゴホっ!!!」」」
「ま、マジか……あんた、料理出来んの?」
後輩数名が気管に料理が入ってしまったことでむせているのを無視し、レオナは心底驚きといった表情でそれは本当なのかと尋ねた。
「まぁな。うちの実家の厨房で働いてくれてる料理人達には負けっけど、一応それなりには出来るんじゃねぇの? まっ、貴族の令息とか令嬢は基本的に料理とか作らねぇから、案外俺が一番上手いのかもな」
貴族や王族の子供たちが料理をしない……それは、当たり前のことである。
全員がバカにすることはないが、料理が趣味であると知られれば、変わり者だと見られることが多い。
とはいえ、貴族の令息が……しかも普通ではない、特異、異質であるとはいえバーサーカーが……令嬢も含めた上で、自分の方が子供たちの中で一番料理が上手いのかもしれないと口にした。
レオナに関してはただ単純にイシュドが作る料理に興味がある、食ってみたいと思った。
しかし……他の女子面子は、イブキを除いて料理経験など本当になく、料理を作る者としてのプライドもないにもかかわらず……もの凄く上から見下ろされたと感じた。
(い、イシュドは……ど、どのレベルまで料理を、出来るのかしら?)
ステラはモンスターの討伐、素材の売却などで稼いだ金などを使って孤児院の子供たちなどに炊き出しを行っているが、それでもザ・料理……と言えるような料理ではない。
勿論、料理になると突然力の制御がコントロール不可になるような事は起こさず、食材のカットや皮むきなどは慣れたものではあるが、本格的な料理となると……そもそも知識が圧倒的に足りない。
(~~~~~~~~~~ッ!!!!!!!)
イシュドは料理が出来る。
そんな事は前から知っていたミシェラではあるが、こうも堂々と自分より上宣言をされると……何故かある筈のないプライドを刺激された様に感じる。
(イシュド君が作った料理か……今度、俺もイシュド君に作ってもらおうかな)
大和でも武家の男が料理を作ることは珍しいものの、シドウはそのような偏見を持っておらず、妹のイブキから話を聞いた時から食べてみたいと思っていた。
「あっはっは!! お前、本当に面白いな」
「そりゃどうも。けどあれだぜ、実際にやってみなきゃ、その面白いって部分に気付かないもんだぜ」
イシュドも最初こそ前世の料理を今世でも食べたいという思いから料理人達にアイデアを伝えていたが、実際に自分で作ってみてから料理を作る……調理という行為に面白さを感じた。
(ふっふ……あっはっはっはっは!!!!! こりゃまいったね。どの部分を比べても、うちの生徒たちじゃ太刀打ちできないってもんだ)
クルトは表情には出さず、心の中で大爆笑しながら、これまでイシュドが積み重ねてきたものに賞賛を送った。
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