第274話 あれは試合じゃない
「キリの良い時間をまでというのを考えると、あと二試合ぐらいかしら~」
二試合分の時間が経てば、おそらく昼食を食べるには丁度良い時間になる。
それを聞いて、イシュドはまだ試合を行ってないアドレアスに顔を向けた。
「おい、アドレアス。お前、誰と戦りたい?」
「そうだね……私は…………と戦りたいかな」
「おっ、良いね~~。俺は………の方だったから、丁度良いな」
「ぅおいおい、イシュド。お前、まさか計三試合もするのか?」
フィリップは別にそこまで急がなくても良いんじゃねぇのかとツッコむも、イシュドはチッチッチッ、と音を零しながら、人差し指を横に振った。
「フィリップ、俺はまだ一試合しかしてねぇぞ。最初のはただのウォーミングアップだ」
「いや、まぁ……あぁ~~~~、そうか。確かに、そうかもしれねぇな」
対ヨセフと対エリヴェラとの試合光景を思い出すと、フィリップだけではなく他の面々も確かに、と首を縦に動かした。
「んで、どうするアドレアス。先に戦るか?」
「……先にイシュド君に譲るよ」
「おっ、良いのかい? んじゃ、伝えてくるぜ」
イシュドはルンルン気分でエリヴェラたちの元へ向かった。
SIDE アンジェーロ学園側
「お疲れ様、エリヴェラ」
「どうも……」
「浮かない顔ね」
「はい。勝ちはしましたが、それでも勝利と呼べるか……怪しいものでしたから」
相手がザ・ハチャメチャイレギュラーな異常な狂戦士だったからといえど、エリヴェラは一度負けてしまった。
自分がアンジェーロ学園の看板を背負っていると思う程、驕ってはいない。
それでも……同じ一年生を相手に、イシュド以外の一年生に負けてはならない……絶対に負けてはならないと思っていた。
そう思っていたにもかかわらず、虚を突かれ、敗北まであと一歩のところまで追い込まれた。
(もし……あの時、イブキさんがコンビネーションを続けていたら、絶対に負けていた)
イブキはエリヴェラの顎先に右フックを決めた瞬間、勝ったと……この試合、自分の勝利だと確信した。
だからこそ、最後の一手……ダメ押しの一手を放つタイミングがワンテンポ遅れてしまった。
「それでも、あなたが勝利を諦めず、最後まで手を伸ばした結果です」
「……ありがとうございます」
まだ、やや納得出来ない部分はある。
それでも、ここまで自分を追い込んだ強者に勝てたことに対し、確かな喜びもあった。
「それにしても、あそこで締めに来るとは……本当に予想外の攻撃でしたね」
「だね~~~。あの……サムライ? の子、ちゃんと両足でエリヴェラの腕をガッチリ抑えてたしね。完璧な対応だったね」
「………………」
「? クルト先生、そんな珍しく真面目な表情してどうしたんだよ。腹でも痛いの?」
「おいおい、俺だって真面目な表情で考え込むことぐらいあるぞ」
心外だといった表情で言葉を返すも、エリヴェラとステラは苦笑いを浮かべ、他の面々はジト目を向けていた。
(ぐっ、こいつら……そうかよ、それなら絶対に教えてやらん!)
ステラとレオナがイブキの奇手、締めという行動に驚き、感心していた。
だが、クルトはその前の行動……スライディングで股をくぐるという行動に注目していた。
思い付いた内容は……くしくもフィリップと同じ内容だった。
その内容は……フィリップたちにとっては有利な内容であり、エリヴェラたちにとっては不利になる内容。
その内容が、これからもずっと続く訳ではないが、それでもどこで行われる一戦……特に頭が柔らかいフラベルト学園の学生にとって、戦況を覆す一手になり得る。
クルトはそう確信するも、レオナたちの失礼な態度(自業自得)に対し、大人げなく……教えようとはしなかった。
「はぁ~~~~……まぁいいわ。んで、時間的に……後二試合ぐらいだ。誰が戦るんだ?」
アンジェーロ学園側の面々は、既に全員一試合終えていた。
エリヴェラ、ヨセフとしてはさすがにもう少し休憩したいと思っており、逆に他の面々はもう一試合ぐらいならと思っていた。
そんな中……フラベルト学園側の、実質的なトップ……イシュドがやって来た。
「よぅ、ステラさん。もう動けるか?」
「え、えぇ。勿論動けますよ」
「オッケー、んじゃあ……俺と存分に殴り合おうぜ」
とりあえず、女性に伝える言葉ではない。
ステラが徒手格闘を軸として戦う者であっても、もう少し伝え方というものがある。
「ッ……分りました、よろしくお願いします」
申し込まれたのだから、受ける。
それは当然の流れであった。
二対一で挑ませてほしいといった内容の頼みであれば、さすがにそれはと断るのもおかしくはない。
ただ、一対一のタイマン勝負をしようと申し込まれたにもかかわらず、言い訳をして逃れようとするのは……ただの臆病者。
「まっ、……くっ!」
それでも、ヨセフやローザなどは直ぐに止めようとした。
待ってくださいと……喉に出かかった言葉を、なんとか飲み込んだ。
「………………」
変わらず毅然とした表情を崩さないパオラも、無意識に拳を握る力が強まっていた。
彼等は、決して臆病者ではない。
ただ……イシュドとエリヴェラの戦いを観て……あれほどの攻撃を放ったにもかかわらず、イシュドにはまだまだ余裕が残っていたことが解らないほど愚か者ではない。
壊されるかもしれない。
交流会で行われる試合であり、当然ながら殺しなど御法度である。
ステラがイシュドに対し、真っ当な態度で接していることも考えれば、万が一やらかせば責められるのはどう考えてもイシュドである。
「皆さん、心配いりませんよ」
勝ちますから……そう言いたいのではない。
ステラも、イシュドとエリヴェラの戦いを観て、今の自分とは……立っているステージが違うと感じた。
だが、それと同時に立っているステージが違う人間が、瞳に闘志を宿しながら、徒手格闘を軸に戦う自分に対し、自分と存分に殴り合おうと申し込んでくれたのだ。
寧ろ、ワクワクする気持ちが湧き上がってきていた。
こうして、二人とも本日二戦目となる試合が行うことが決定した。
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