第257話 厄介なのは……

「シッ!! 破ッ!!!!」


「ッ、フッ!!! セヤッ!!!」


氷刃が振るわれ、鉄拳と鉄蹴が砕こうと……へし折ろうと振るわれる。


鉄拳は時に鉄刀へと変わる。

それもあり、幸いにも今のところクリスティールの体に青痣はないものの、いくつか切傷が刻まれていた。


対して、ステラにも氷刃による切傷が刻まれていた……筈だった。


「ほ~~~ん……なんか、珍しい力を持ってんな」


後方から二人の戦いを観戦しているイシュドはステラの抑圧されても尚、あっちへこっちへ揺れている胸だけに意識を向けていた訳ではなく、ある変化に気付いていた。


「イシュド。私の見間違いでなければ、ステラさんの体に刻まれた切傷が、徐々に治っている様に見えるんだけど……幻覚では、ないよね」


「安心しろ、アドレアス。ちゃんと幻覚じゃねぇよ。ありゃ回復魔法……いや、聖光魔法か? どっちにしろ、戦う聖女って名前に相応しい手札を持ってんな」


イシュドとシドウの推測は正しく、ステラが就いている二次職は重拳家。


突き出す拳は鉄拳に、振るう脚は鉄脚となる。

それは間違いないが……基本的には、回復魔法や聖光魔法を会得することは出来ない。


「イシュド。ありゃあ……普通は会得しないスキルを会得するけど、特定の技、魔法しか使えないって感じか?」


「多分な。ありゃそういう類な人だ。ちゃんと……トップはトップで、普通じゃないおかしさを持ってたみたいだな」


イシュドは一次職の時点で魔戦士に就き、三次職では変革の狂戦士に就いている。

それもあって、このガサツさや見た目で魔法を使える。

ただ……それでも回復魔法は使えない。


マジックアイテムを使用すれば戦闘中にも回復は出来るが、自身の力だけでは出来ない。


「ッ…………」


「そんなのズリぃじゃん、って顔してんな。デカパイ」


「……正直、そう思いましたわ。ですが…………それは、ステラさんの熱心な信仰心が繋がった結果なのでしょう。それに……あの速度であれば、まだ分が悪過ぎる戦いではないと、思いますわ」


「へぇ~~~。珍しくクリスティールパイセンの事なのに、随分と冷静じゃねぇか」


ミシェラの言う通り、ステラの体に刻まれた傷が治る速度は「チートだろ!!! そんなの反則だ!!!!」と騒ぎたくなる程、どこかの黒の剣士ほど回復速度は速くはない。


徐々に徐々に癒えていく。

当然、特定のモンスターが持つ再生力とは違い、傷を癒す度に魔力が削られていく。


(つっても、重拳家って職業を考えりゃ、あんまり魔力量は多くねぇと思うんだが…………回復魔法か聖光魔法を持ってるからか、どうやら魔力量も普通じゃねぇみたいだな)


傷を癒す速度はチートだと叫びたくなる程早くはないが、それでも厄介な力であることに変わりはない。


事前に知っていれば、決着は一撃……もしくはフェイクを織り交ぜ、五撃目までに終わらせるという倒し方がある。


だが、それを知るまでにそこそこ体力と魔力を消費してしまった以上、やや火力不足で仕留めきれない可能性がある。


「……三対七で、クリスティール会長がやや不利といったところでしょうか」


「イブキの言う通り、概ねそんなところだな。永続的な回復も厄介だが……唯一? 会得してる属性魔法も、まぁまぁ厄介だな」


「イシュド、あれはまぁまぁどころでは済まないかと」


クリスティールが双剣士でありながら氷魔法を会得してる様に、ステラは重拳家でありながら土魔法を会得している。


風や雷であれば速さを、火であれば一撃の火力を引き上げることが出来る。


ただ、土もそれらの付与効果に負けておらず、固めれば頑強なグローブ……手甲や脚甲に変化する。


「クリスティールパイセンも目は慣れてる。時折くる手刀に関してはちょいちょい食らってるが……多分、まだ動くのに影響は出ねぇだろう……ただ、このまま同じ展開が続くなら……そろそろ勝ち目が薄くなってくるな」


どちらの勝ち目なのか。

それは聞かなくとも……全員解っていた。


(接近戦が出来るのに、回復手段を持ってる…………ん~~~、改めてトップはトップでぶっ壊れてるな。二次職で聖騎士に転職したって点に関しちゃあエリヴェラの方がある種の才は勝ってるんだろうが……戦闘スタイルの強さは、ステラパイセンの方が厄介だな)


イシュドの個人的な感想ではあるが、仮に身体能力が自分と同等レベルと仮定した場合、エリヴェラとステラ……どちらの戦闘スタイルが厄介かと尋ねられれば、イシュドは迷わずステラの方だと答える。


「ッ!!! …………」


今回もまた……珍しく、ミシェラはイシュドの言葉に対し、過度な反応を示さなかった。


ただ拳を強く握りしめ、試合から眼を逸らさず……クリスティールの勝利を祈ることしか出来なかった。





(間違いなく強いと、予想はしていましたが、ここまで、とは…………広さを知らなければ、ならないのは……私の方、でしたね)


流れるように氷刃を振るい、時に放ち……偶にステラの蹴撃に劣らない蹴りを叩き込む。


その全ての無駄がなく、ステラの拳や蹴りも遠すぎず近過ぎず、適切な距離で躱していた。

対応としては……完璧だった。


ただ、現状として、クリスティールの攻撃はステラの体力をそこまで削っていなかった。


ステラはステラでクリスティールという同学年の強敵との戦いによって、精神力が徐々に徐々に削られていた。

致命傷は与えられずとも、切傷による傷を癒すことに魔力も消費している。

しかし、根本的な体力に関してはステラの方が一回り上だった。


交流会というイベントを考えれば、無理に決着をつける必要はない。


それでも、ステラはここの戦いでは……クリスティールとの戦いでは、どうしても勝利を得なければという思いがあった。


対してクリスティール…………同じく、冷静な頭はこの戦いは交流会というイベントで行われている戦い。だから、無理に決着をつける必要はないと考えている。

だが…………双剣士の、戦闘者としての心が、現時点で勝率が半分を越えていないと解っていても、諦めてたまるかと燃え滾っていた。


「ふっ!!!!」


「っ!?」


だが……無情にも、懐に入られたステラの手甲による一撃と肘鉄により、クリスティールの手から双剣が零れ落ちた。

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