第242話 お前たちは、知っている
「…………確認しました。お気を付けて」
国境の警備員に自国からカラティール神聖国に向かう理由を提示し、危ない物も持ってないという確認をされ……国境を越えてカラティール神聖国に向かっても構わないと伝えられた。
(あれが……噂の、レグラ家の人間か)
国境の警備を担当する騎士は固定されてない。
その為、大都市の情報が入ってこないということはなく、現在国境の警備等を担当している騎士もイシュドの存在に関してはある程度知っていた。
パッと見の印象は……体がガッチリとした悪ガキ。
だが、騎士としてある程度の強さを有しており、ついでに同世代の者たちと比べて優れた眼を持っている騎士は…………仮に本気でイシュド・レグラと戦った際、自分が勝てるかどうか解らなかった。
少なくとも、自分は騎士で向こうは学生なのだから、自分が負けるはずがない……といった根拠のない自信を口にすることは出来なかった。
(…………学生時代に、あのような怪物がいないくて、心の底から良かったと思うな)
現在、騎士は三次職に転職しており、国境警備の期間が終わり……また前線で戦う日々を送れば、四次職に転職できる可能性を持っている。
そんな騎士から見ても、同世代にいなくて良かったと……逆に現在、同じ世代にいる騎士候補や魔術師候補の学生たちが可哀想に見えた。
(そういえば、カラティール神聖国のアンジェーロ学園に、交流会という名目で向かうのだったな…………本当に、大丈夫なのか?)
自国の学生と、他国の学生が交流会を行う。
そこだけを聞けば、特に問題が内容に聞こえる。
だが、騎士の耳に、イシュド・レグラという人間は理不尽に暴力を振るう人間ではないが、敵対してきた人間は容赦なく暴力を振りかざすという情報が入っていた。
(情報でしか知らない彼に対してこんな事を言うのもあれだが……信仰心など、欠片も持っている様には思えない…………衝突必至なのではないか?)
正当な目的を持って入国、寧ろイシュドたちは招待されている側。
そのため、国境の警備員があれこれ心配する必要はないのだが……それでも、結果どうなるのかはやはり気になってしまう。
「……今更なのですけど、カラティール神聖国に入国したのですから、普通に歩いて移動した方が良いのではなくて?」
「クソ面倒だから却下。カラティール神聖国で冒険しようって目的で入国したんならともかく、聖都って呼ばれてる場所に行って、アンジェーロ学園の学生をボコボコにスンのが目的だろ」
「イシュド、今回の目的はアンジェーロ学園の学生たちと交流することだよ」
「交流する中でボコボコにすんだろ? 次から交流会したかったら、今度はてめぇらがバトレア王国に来いよって伝える為によ」
「それは…………そうだね。悪くはない、かな」
将来的に、王権に関して関われるとは思っておらず、関わる気もないアドレアス。
だが、どうしても気持ちとしては国を統治する者の立場となって考えてしまうことがあり……そういった面から考えると、今後の付き合いも含めて……交流会を行うのであれば、アンジェーロ学園の学生たちがフラベルト学園に来る方が、色々と都合が良い。
「ってことで、お前らも頑張ってボコボコにしてやれよ」
「おいおい、んな簡単に言ってくれるなよ」
「そうか? お前らなら……完封は無理だとしても、戦況に点数を付けるなら、七対三ぐらいでこっちが比較的有利な戦況を維持して勝てると思うけどな」
「イシュド、私たちを評価してくれてるのは非常に嬉しいです。ただ、世界は広く、別の国に移れば、それだけ多くの原石がいるわけです」
イブキはこの大陸に、バトレア王国に……フラベルト学園に入学してから色々と驚かされた。
だが、心底驚かされたのは……イシュド・レグラという人間にだけだった。
大和の同世代の中で、確かにイブキは上から数えた方が早い強さを持っていた。
しかし、それでもその世代で最強……負けなしの女帝などではなかった。
その為、ガルフたちの様な同世代の中でも優秀な戦闘力を持つ者は、珍しいと言えば珍しいが、希少過ぎる存在という程の存在ではなかった。
「世界は広い、ねぇ…………そうだな~~~。それを言われちまうと、実家から出てなかった俺としては、反論できる言葉はねぇな。実際、二次職で聖騎士に転職した奴なんて、うちにはいなかったからな~~」
才能が違う……そういった言葉で片付けられない何かしらの差がある。
二次職で聖騎士に転職したという内容は、それだけ強過ぎる衝撃を持っている。
「でも、他の連中なら、そこまであれなんじゃないか?」
「……イシュド。君がそこまで言える根拠はなんなのか、聞いても良いか?」
まだ一年も経っていないが、それでもガルフたちの成長を見てきたシドウとしても、彼らが他国の優等生が相手でも、簡単に負けるとは思っていない。
だが、ボコボコにする……ほぼ完勝することは不可能だと考えている。
「…………戦闘力に限って言えば、一番神に近い人間を知ってるか否か。その差ですかね」
「「「「「「ッ……」」」」」」
一番神に近い人間……またカラティール神聖国の住民たちが聞けば、ブチ切れそうな言葉ではあるが、ガルフたち五人はその言葉を聞いて、直ぐにある人間の姿が思い浮かんだ。
ロベルト・レグラ。
自分たちが束になって挑んでも、今のところ勝てるイメージが湧かない。
そんな怪物の全力を容易に受け止め……赤子扱いする者がいる。
「自分の上の存在を知ってるからって、戦闘力が飛躍的に伸びることはなくても、そういった存在を知ってる事で、並大抵のことで絶望することはないんじゃないっすかね」
「なるほど……確かに、それは強敵に挑む上で大事な要素だね」
絶望することが悪いことではない。
ただ、絶望を体験した後……そこから直ぐに這い上がれるかが問題となる。
這い上がれる力がある。それだけでも十分、その者が上に登れる力がある証明になる。
しかし……戦闘中に絶望した場合、直ぐに這い上がれなければ……待っているのは敗北か死か、その二つしかない。
「だから、二次職で聖騎士に転職した同級生はともかく、他の連中にはとりま負けないと思ってるっすね」
プレッシャーか、それとも背を押す期待か……闘志の炎を更に燃え滾らせる燃料か……それは、彼らの瞳を見れば、直ぐに解った。
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