第241話 どちらが優れてる?

王都を出発してから二日目の朝。

アリンダは先日の夜、シドウとバーで呑み続け……少々キャパをオーバーしてしまった。


しかし、自身が二日酔い状態だと判断すると、直ぐに状態異常回復のポーションを使用。

普通に考えて二日酔いを治す為に状態異常回復のポーションを使うなど、勿体なさ過ぎる使い方である。


だが、アリンダは現在学園にいないとはいえ、仕事中だということは忘れておらず、迷わず状態異常回復ポーションを使用し、二日酔いを治した。


生徒たちに二日酔いを放置していたなどと学園に報告されては、評価アップで昇給に繋がるどころか、減給に繋がってもおかしくなかった。


「そういえば、交流戦なんだから、例の二次職で聖騎士に転職した一年生と、僕も戦っても良いんだよね」


「そりゃ良いに決まってるだろ。別に何かを懸けて戦ってるわけじゃないんだから、俺がそいつと戦った後に、ガルフたちと戦っても問題無いだろ。そうっすよね、アリンダ先生」


「そうね~。互いの情報や技術、その他諸々を交換し合う会なんだから、例のヤバい聖騎士の子とはイシュド以外の面子が戦ても問題無いよ~」


「だってよ。つか、やっぱりガルフもそいつの事は気になってたか」


無邪気に笑みを浮かべるイシュドに対し、ガルフは少し複雑そうな笑みを浮かべながら答えた。


「そうだね。聖騎士っていう事は、やっぱり高い攻撃力を持ってるでしょ。だから……僕の闘気が、護身剛気がどこまで耐えられるのか気になってね」


「なるほどな~~~。確かに、そこは比べたくなる要素だな」


「……聖騎士とは、防御力にも長けている職業なのではなくて?」


ミシェルの記憶が正しければ、聖騎士という職業は攻撃力だけではなく、防御力にも長けているという認識だった。


「あぁ………………俺の感覚だと、確かに攻撃力よりも防御力の方がやや優れてるって感じではあるな。攻撃力に関しちゃあ、聖騎士の反対の暗黒騎士の方が強いからな」


「それは……実体験かしら?」


「おぅ、実体験だな」


レグラ家には暗黒騎士だけではなく、珍しいと思われること間違いないが、聖騎士の職に就いている者もいる。


「あれ? でも……」


「ガルフ、あの人はまた別だぜ。三次職じゃなくて、四次職まで転職してるんだからよ」


「あっ、そっか」


「「「「「「「「???」」」」」」」」


レグラ家の中にいる、間違いなく珍しいと思われる職……聖騎士の職に就いていた者の一人が、ガルフがレグラ家に滞在している間に指導を受けていた人物、アレックスである。


アレックスは三次職で転職する際、聖騎士に転職。

それまではイシュドの認識通り、攻撃力よりも防御力にやや優れた能力値であったアレックス。


しかし、四次職の際に転職出来る職業に転職した際……その能力値が逆転した。


決して暗黒騎士や、そういったタイプの職業に転職した訳ではない。

依然として聖の名を持つスキル、技を使えるが……それでも現在は防御力よりも攻撃力の方が優れていた。


「まっ、ガルフの場合闘気は防御だけじゃなく、攻撃にも活かせるんだ。そっちの方面でも比べあるのは良い経験になるだろうな」


「……イシュド。私は何を思って、その聖騎士の学生と戦えば良いだろうか?」


「え?」


そこは自分で考えるべきなのでは? と返したいところ。


だが、イブキの瞳に真剣な気持ちが宿っており、イシュドはとりあえず面白さを優先してあることを提案した。


「そうだなぁ………………イブキの持ち味は、やっぱり攻撃の切れ味、切断力だから、そいつが盾を持ってたらその盾をぶった斬るのを目標に戦ったらどうだ?」


「なるほど……それは、明確な一つの目標と言えますね」


「イシュド~~。聖騎士の職に就いてる奴らって、全員盾を持ってるもんなん?」


「絶対に持ってるとは断言出来ねぇけど、聖騎士って職業の強味を考えっと、丸盾や通常サイズの盾、もしくは割と大きめな盾を持って行動する方がメリットがある。だから、よっぽどそいつが自分は攻撃一筋で生きていく!!!! みてぇな目標を掲げてねぇ限り、盾は使うと思うぜ」


「ほ~~~~ん……んじゃあ、短剣一本だけで戦んのは厳しいか」


「おっ!! んだよんだよ、フィリップも随分とやる気じゃねぇか!!!!」


理由は解らないが、イシュドとしては自分の周りにいる同学年の中で、一番センスがある者が強者との戦闘に興味を持ってくれるのは、普通に嬉しかった。


「いや、まぁ……折角交流戦に参加して、わざわざ他国に向かうからな。一回ぐらい手合わせしとかねぇと勿体ねぇかなと思ってよ……つか、イシュドだってその聖騎士の奴だけじゃなくて、まずはクリスティールパイセンが戦う相手とも戦ってみてぇって思ってるだろ」


「はっはっは!!!! そりゃ当然戦ってみてぇと思ってるよ。会長パイセンと同じく、卒業するまでには三次職に転職出来そうな奴なんだろ。それに、素手で殴り合える相手となりゃあ、是非とも殴り合いてぇじゃねぇか」


同級生たちの中で、純粋な身体能力であれば闘気を纏えるガルフが、徒手格闘の技術であればイブキが頭一つ抜けている。


しかし、二人とも専門の武器は徒手格闘ではないため、基本的に模擬戦や試合などでイシュドが誰かと殴り合うことはない。


だが、アンジェーロ学園の戦う聖女と呼ばれている女子学生は、殴り合いの戦いが大得意。


つまり……試合でイシュドが思いっきりその女子学生の顔面を殴ったとしても、特に問題という問題はない。

ブーイングの嵐が飛来するかもしれないが、イシュドという人間はそんな状況でこそ更に悪魔的な笑みを浮かべながら拳を振るう男。


「……イシュド。相手が女性だからもう少し気を遣って戦った方が良いと、と言うのがナンセンスなのは解ってる。ただ、いくら久しぶりに行う殴り合いの戦いが楽し過ぎたとしても、治癒魔法などでどうしようも出来ない怪我を負わせてはダメだよ」


「解ーかってる解ってるって。ようは、バーサーカーソウルを使わなきゃ良いんだろ。そんぐらいな熱くなったとしても問題ねぇって」


「「「「「……」」」」」


普段からバーサーカーソウルを使ってないイシュドに全く勝てないどころか、クリーンヒットと言えるダメージすら与えられてない五人は、イシュドの返答を聞いて全員何とも言えない表情を浮かべるのだった。

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