第238話 事情が異なる嫉妬

「シッ!! ハッ!!!!」


「……おいおいガルフ。もう今日はその辺にしといたらどうだ?」


カラティール神聖国にあるアンジェーロ学園との交流戦が伝えられ、交流戦に参加出来る生徒として選ばれたガルフ。


当然、フィリップはミシェラたちも選ばれた。


その日以降、イシュドたちと訓練を終えた以降に行う自主練の時間を増やしていた。

勿論、自主練の時間が増えたからといって、学業面が疎かになるようなことにはなっていない。


「もう少し……もう少しだけ」


「それ、さっきも言ってたぞ」


「うっ」


因みに、二人は同じやり取りを二度ほど繰り返していた。


「ほら、休むのも訓練の内って言うだろ」


「そうだね…………」


「ったく、何を悩んでんだ?」


何かしらの悩みを抱えている、もしくは焦りを持っていると感じたフィリップ。

やれやれといった表情を浮かべながらも、少しでも解消出来ればと、友に声を掛けた。


「……アンジェーロ学園から参加する生徒の話を、聞いたでしょ」


「あぁ、一応覚えてるぞ。世の中、俺らが知らないだけで、ぶっ飛んだ化け物ってのは意外といるもんだな」


以前にフィリップにとっては、歳の近い人物の中で化け物と言えばクリスティール、ディムナ辺りだった。


しかし、今年になってイシュドという自分がこれまで怪物だと思っていたクリスティールを遥かに超える戦闘力を有する、真の怪物と出会った。


そんな怪物と比べれば、現時点では劣るであろうものの……衝撃度合いで言えば、決して負けない存在がいることを知った。


「二次職で聖騎士に転職した奴なんて、歴史を振り返ってもマジで殆どいねぇだろうな。クソ天才なのか、神か天使に愛されてんのか……それともある種ぶっ飛んだ奴なのか…………ガルフはどれだと思う」


「僕は………………ある種ぶっ飛んだ人だと、思うかな」


「へぇ~~~、その心は?」


「歴史を振り返っても殆どいない……バイロン先生は、片手の指があれば足りるって言ってたよね」


「そんな事言ってたかもな」


「……僕は、あまり信仰心とかないけど、やっぱりそれを持つ人は多分大勢いる。仮に信仰心を持っていなくても、聖騎士って……なんかかっこいいって思う人もいると思うんだ」


「あぁ~~~~……まぁ、解らんくはねぇかな」


なんかかっこいいから、聖騎士になろう!!! というスタンスで聖騎士の職に就けるほど、容易にチャンスが手に入るものではない。


それでも、ガルフの言う通り聖騎士になる、転職するという目標を持つ者は多くいる。

当然、その中には戦闘の才だけではなく、聖なる職に特化した才を持つ者もいた。


その世代、その時代であれば稀有な才も、長い長い歴史を振り返れば、小さな一つの才であり……特異点等と呼ばれるほど常識外れの才ではない。


「だからこそ、その人は……本当に強いと思う」


「だろうな~~。俺ら一年の中で、イシュドを除けば…………防御力はガルフが勝ってて、一撃の切れ味、攻撃力はイブキが勝ってるってところか」


「つまり、単体ではどうしても総合的に劣るってことだよね」


「まぁ、転職した職業によって得られる力はバカにならねぇからな……ガルフ、もしかしてそいつに嫉妬してんのか?」


まだ出会ってもいない、情報を耳にした相手に嫉妬。


普通に考えておかしい……というわけではない。

目指す場所がおおよそ同じであり、互いに戦闘職。


同じ国で生活してないとはいえ、本来であれば三次職に転職する際に候補として現れる職に、二次職で転職したとなれば、とりあえずその結果に嫉妬するのは特におかしいことではなかった。


ただ、ガルフの場合は少し事情が異なる。


「っ…………そう、だね。口にすると、ちょっと恥ずかしいけど……多分、僕はその人に嫉妬してる」


「なっはっは!!!! 別に良いんじゃねぇの? 変に隠すより、そうやって素直に認めてんなら、ダサくねぇしな」


「そうかな?」


「そうだろ。ここでカッコつけて変に隠してたらダセぇけど、ガルフは素直に認めてんだろ。イシュドがその一年に強い興味を持ってるのに嫉妬してるってよ」


「うっ…………」


改めて人に嫉妬してる理由を語られると、それはそれでまた別の恥ずかしさがあった。


だが、フィリップの言う通り、ガルフはイシュドが強い興味を持ったアンジェーロ学園に通う一年生に嫉妬していた。


(多分……同じ一年生だから、だよね)


これまでイシュドが学生に興味を持つことは何度かあったが、それでもこれから先を一番期待していたのは、ガルフだった。


しかし、そもそもの話……いったいどういった人物であろうとも、二次職で聖騎士に転職した……その話が事実であるならば、もうそれだけでバトルジャンキーであるイシュドが期待するなというのは、無理な話であった。


他国の人間である以上、容易に関われる人物ではない。

交流戦以降、全く……互いに学園を卒業してからは、一切関わらないかもしれない。


それはガルフも解っているが、やはり理解と納得は別感情だった。


「けどよ、あんま意識し過ぎんのも良くねぇと思うぜ」


「自分の戦闘スタイルが、変に崩れるかもしれないから?」


「いや、それもあるかもしんねぇけど……ガルフ、お前はもうちょい自分の武器をちゃんと振り返った方が良いぜ」


「僕の武器………………闘気、だよね」


「そうだ。その闘気って武器はお前が憧れてて、追いつきたい、横に並んで一緒に戦いたいって思ってるイシュドでさえ、体得してない武器だ」


フィリップの言う通り、イシュドは闘気を体得しておらず、今のところその気配はない。


レグラ家に仕える騎士たち、レグラ家出身の者たちであっても、闘気を体得してる者はかなり少ない。


「んで、お前はこの前のミノタウロス戦で、応用技の護身剛気を会得した。その他大勢の連中からすれば、お前だって嫉妬される対象なんだぜ?」


「でも……僕の場合は、運が良かったからで」


「バ~~~~カ。運も実力の内って言うだろ。とりま、お前はお前で凄ぇんだから、もうちょい胸張れって話だ」


「…………ありがとう、フィリップ」


「礼なら、今度美味い酒でも奢ってくれ」


「ふふ、分かったよ」


自信を持て、ではなく……胸を張れ。

そう言われたガルフは、なんとなく言葉に込められたフィリップの考えを察し、やはり自分が友人たちに恵まれていると感じた。

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