第237話 確かめ方?

「はぁ、はぁ、はぁ……参り、ましたわ」


「おぅよ。つか、そこまで全部絞り出すまで戦うのは、結構珍しいじゃねぇの?」


イシュドとしては殺気戦意闘志、クソ増し増しで戦ってくれるのは非常に有難い。

ただ、クリスティールがイシュドとの模擬戦で、ガス欠状態まで己の全てを絞り出して戦うのは珍しかった。


「そうかも、しれません、ね…………私の、現在地を確かめたかった、といったところでしょうか」


「ふ~~~ん? まっ、激闘祭のエキシビションマッチで戦った時と比べれば、ちゃんと強くなってるぜ。それぐらいマジになって戦ってくれれば、俺が楽しめるぐらいにな」


戦っていて、イシュドが楽しいと感じていた。


イシュドと関りがある者としては、それは確かに自身の強さの現在地を確かめられる指標と言えた。


「それは……良かったです」


「……なんか知らんが、ちっと焦ってんのか?」


「顔に出ていましたか」


「顔っつーか、雰囲気?」


腹芸に関しては社交界で十年以上生き続けているクリスティールの方が得意ではあるが、雰囲気から察するという感知力に関しては、戦闘経験が豊富なイシュドも負けていなかった。


「雰囲気、ですか。そうですね……おそらくですが、私が参加すれば、向こうからも一人……そういった立場の方が参加する筈です」


「ほ~~~ん? なんか、面白そうな話じゃん」


交流戦に関してはまだ公にしてないシークレットの情報であるため、訓練後に二人はミシェラがイシュドにアドバイスが欲しいと頼んだ場所に移動。


「んで、カラティール神聖国にも、会長パイセンみたいな人がいるんだったな」


「戦う聖女……そう呼ばれている方がいます」


「戦う聖女? なんか面白そうなだな。戦乙女みたいな感じか」


「そういった認識で合っています」


この世界では……少なくとも、この時代ではイシュドの前世の時代の様に、調べたい情報を直ぐに調べられるほど優れたネットワークがない。


その為、クリスティールが耳にした戦う聖女と呼ばれている学生の情報も、今現在の情報ではない。


しかし、決して無視できない情報であった。


「彼女は、二年生の時に同級生たちを守るために、数十体のCランクモンスターを討伐しています」


「へぇ~~~、そいつは凄ぇんじゃねぇの」


他の者が聞けば、たかが学生がそんな事出来るわけがないと否定するであろう内容だが、イシュドからすれば確かに凄いと多少驚く内容ではあるが、特別珍しい強さではなかった。


「三年生になった今なら、Bランクモンスターでもソロで討伐出来る強さを持ってる可能性が高いってことか」


「えぇ、その通りです」


「そりゃ焦りもするかぁ……あれ? 確か、会長パイセンこの前依頼でBランクモンスターをぶっ倒してなかったか?」


イシュドがボケていなければ、クリスティールは数週間前にレックスリザードという亜竜であるリザードたちの王をソロで討伐していた。


「条件は五分みてぇなもんだろ」


「かもしれませんね。ですが…………この学園の生徒会長として、私は負けたくありません」


イシュドという絶対的な存在がフラベルト学園に入学したことで、少なくとも今現在フラベルト学園の顔は……代表はイシュドになっている。


それは良い。

あのエキシビションマッチで、先程の試合で改めて実力差を痛感した。


それでも、生徒会長として、学園外の学生には負けられない。


それが今のクリスティールが持つ、小さな……それでいて、本気の覚悟だった。


「良いんじゃねぇの? 会長パイセンはそういう……立場とか重圧? とかに負けるようなタイプじゃなさそうだしな」


「ふふ。あなたにそう言ってもらえると、少し自信が持てますね……しかし、イシュド君。よくカラティール神聖国の学園からの提案を受けましたね」


「意外か?」


「えぇ、とても。学園長から話を聞いた時、数秒ほど固まりました」


イシュドの強さを身を持って知った時も心底驚かされたが、イシュドの実力や性格を知っているからこそ、今回の件はより驚かされた。


「イシュド君は、神の存在や信仰には興味がないと思っていたからね」


「確かに興味ねぇな。そもそも、神に出会ったとか証明出来ないだろ」


「…………お願いだから、向こうに行った時、そういう事を極力言わないと助かるわ」


「向こうの態度次第だな。それによ、天国とか地獄とか、そんな死後の世界も本当にあるのか、なんて……誰が証明出来るんだ? …………って、思ったけど、ワンちゃんあれか……そこに関しちゃあ、あれだ……あれだよ、なんだっけ……ネクロマンサー? に転職すると手に入る、死霊魔法だったか? あれを使えば、もしかしたら解るのかもな」


気になる内容ではある。

確かめるのであれば、候補に入る確かめ方である。


ただし……普通に考えて、倫理に反する実験方法であり、教会を敵に回す考え。


そんなイシュドの言葉を聞いた瞬間、クリスティールは心臓がキュっと締め付けられた。

当然、恋ではない。


ただ、本当に心臓に悪過ぎる考えを聞いてしまい、失神しかけた。


「…………イシュド君。その、考えは、訊かなかったことにします」


「ん? そんな不味いことだったか? まぁ、宗教国家の連中を相手に、ネクロマンサーが云々、死霊魔法でどうたらこうたらって口にしたら、さすがにブチ切れるか」


「解ってるようでなによりです。お願いですから、向こうの方々がブチ切れたら、それはそれで面白そうだからという理由で、わざと口にしないでください」


「ちっ、良く解ってんじゃん。とりま、会長パイセンが考えてる通り、神や宗教には興味ない。ただ、中々面白そうな連中がいるっぽいからな」


「確か、イシュド君たちと同じ一年生で……聖騎士の職に就いている方が、いるらしいですね」


「そうなんだよ。バイロン先生が教えてくれたんだけど、そいつ……二次職で聖騎士の職に就いたんだろ。んな怪物、うちの領地にいねぇぞ」


レグラ家に仕えてる者たちは基本的に戦る気満々、荒々しさ全開という者が多いが、それでも中には信仰心を持ちながら戦っている者もおり……中には聖騎士の職に就いている騎士もいる。


だが、二次職で聖騎士に転職した経歴を持つ者は、レグラ家の歴史を振り返っても、過去に一人もいない。


「とにかく、面白い旅行になりそうだろ」


「面白い、で済めば良いのですけどね」


「はっはっは!!!! 旅行ってのは、多少の刺激があった方が面白いだろ。まっ、バチバチに戦って、んでキッチリ勝とうぜ。会長パイセン」


「っ……そうですね。交流戦であろうと、勝負は勝負。キッチリ勝ちましょう」


二人は拳を合わせ、イシュドは普段通りの荒々しく戦意に満ちた笑みを浮かべ、クリスティール……も自信に溢れた女神の笑みを浮かべた。

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