第234話 クソ喰らえな良い選択
「「…………」」
バイロンと学園長が頭を痛めている頃、二人のダンジョンが無言で向かい合っていた。
「……はぁ~~~~。さっさと本題に入れよ、デカパイ。俺に用があるんじゃねぇのかよ」
現在、二人は珍しく学園の使用されてない部屋で向かい合っていた。
「あなた、ここ最近……フィリップに、何を教えましたの」
「あぁん? 別になんも教えてねぇぞ」
ミシェラをからかっている訳ではなく、イシュドはただ模擬戦や試合を行っているだけで、ここ最近フィリップに何か細かいことを教えてはいなかった。
「っ……では、何故…………」
どうして、ここ最近自分との勝率がまた傾き始めたのか。
それに関して尋ねたいのだが……プライドというのはこういう時、非常に厄介である。
「なんで、何故、どうしてって訊かれても、知らねぇもんは知らねぇっての。もしかしたら、フィリップらしくねぇけど、陰で頑張ったりしてんじゃねぇの?」
イシュドとしても、ここ最近起こったフィリップの変化に関して、何故変化したのか……その理由に関しては、全く知らないので答えたくとも答えられない。
「まっ、最近のフィリップはまた戦い方が上手くなったって感じがすんな。ガルフの奴は俺との試合以外で護身剛気を使ってねぇからあれだが……つっても、対フィリップだと護身剛気を使ったところでって話ではあるか。現状だと、イブキが一番上手く戦えてるってイメージだな」
戦い方の上手さという点に関しては、アドレアスやルドラも負けていない。
だが、現在変化している途中であるフィリップの対処に関しては、イブキが頭一つ抜けていた。
「ッ!!! ………………すぅーーー、はぁーーーーー……これから先、どうすれば私は進めますの」
「…………おいおい、もしかしなくても、今俺にガチのアドアイスを求めてんのか?」
バカにしているという訳ではなく、イシュドは本気でそこそこ驚いていた。
あのデカパイが小さなアドバイスを求めているのではなく、本気で……自分が進むべき戦闘スタイル、双剣の道に関してアドバイスを求めている
「俺をぶった斬るって常日頃から言ってただろ。その俺にそんなアドバイスを求めんのか?」
「どうせ私が新たな強さを手に入れても、それは既にあなたの知っている強さでしょう。であれば……それを知った上で、あなたの予想を上回る強さを手に入れれば良い」
(ふ~~~~~~ん……んだよ、普段と違って、プライドなんざクソ喰らえな良い選択をするじゃねぇか)
強くなる為なら、倒すと決めた相手の助言も受け入れる。
ただ……ミシェラは、その上でイシュドの予想を上回ってみせると宣言した。
実に…………実に、イシュドの好みな回答であった。
「つってもなぁ~~~。ぶっちゃけた話、お前がこれまで以上に強くなるなら……速さと持久力。そこを鍛えるしかねぇだろうな」
「速さと、持久力」
「フィリップとの戦闘で苦手意識が増してても、正面からあいつが捌き切れねぇ斬撃を叩き込んでやれば良い」
「……っ…………動きが捉えきれない時は、感覚で補えと」
「はっはっは!!!!! なんだよなんだよ、今日は随分と物分かりが良いじゃねぇか」
「私の頭では、理屈的な答えが思い付かない。そしてあなたならどう対応するのか、それを考えただけですわ」
「良いじゃん良いじゃん。既に解ってるとは思うが、現実の話として、実戦でしか得られねぇ感覚ってのは存在する」
先日、何かしらの意識が変わったイシュドの動きに、警戒心マックスではなかったとはいえ、一瞬見失ったイシュドは考えることを止めて意識、感覚に判断を任せた。
「これから依頼を受ける中で、その感覚を磨くことを意識するということですわね……しかし、そうなると受け流しが上手い相手にやれませんの」
「やられんだろうな」
「なっ!!!!!????? わ、私は真剣に相談してますのよ!!!!」
「解ってる解ってるっての。けどな、その課題に関しちゃあ、サクッとどうにかなる話じゃねぇんだよ」
受け流しの上手い相手にはどう対応すれば良いのか。
その質問に対しての答えは……ある。
一応それなりのイシュド的な対応策がある。
「今それを下手に意識すりゃあ、今んとこ……フィリップとの勝利は三対七ってところか? そっから更に崩れて、下手すりゃお前の勝率、一割以下になんぞ」
「ぐっ……………………解り、ましたわ」
実戦で勝つために、訓練を行ている。
訓練時の模擬戦試合でどれだけ負けようとも、本番で勝てれば問題無い。
それは間違いないのだが……とはいえ、勝率が一割以下になる……フィリップにボコボコのボコボコにされまくるのは、さすがに耐え切れない。
「それにしても、あなた……本当に、よくこれだけ人を成長させる道を提示できますわね」
「お前らが自分の職業にしか向き合ってないからだろ。まっ、単純に強くなるってんなら、それが一番正しいんだろうけどな」
「……引っ掛かる言い方ですわね」
「てめぇらがいつも言ってんだろ。俺は異常な狂戦士だってよ」
当然ながら、イシュドは自身が転生者……鬼島迅、その時点でこの世界では普通ではないことを自覚している。
(つっても、あれこれ思い付くのは前世でゲームとかやってたお陰だけどな)
とはいえ、イシュドが出来るのはこういう道もあるぞ、と提案することまで。
その道を信じて進むか否かは、提案された本人が決めること。
「…………私の速さと持久力が増せば、その次の段階に何が必要なのか、教えてくれるのでしょうね」
「あぁ、そうだな。美味い飯を奢ってくれりゃあ、ちゃんと教えてやるよ」
「なっ!!!!????」
待ちなさい!!!! と文句を言う前に、イシュドが部屋から出てしまった。
「ッ、ッ、~~~~~~~~~~ッ!!!!!!!!!」
一応、今回の問いに関しては、何も要求せずに答えてくれた。
ただ……次のステップに関する内容を教えるには、飯を奢らなけれと告げられた。
依頼を受けていれば、その道中で手に入るモンスターの素材によって懐は潤うものの、イシュドの食欲にかかれば……あっという間に焚火が消え、冷え切ってしまう。
爆発しようにも爆発し切れない感情。
なんとか冷静になったミシェラは何度も深呼吸を繰り返し……むせてしまった。
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