第233話 無視出来ない影響力
「「………………」」
現在、学園長室で二人の男性が頭を悩ませていた。
一人は部屋の主である学園長。
そして、もう一人は……今年入学してきたイシュド・レグラというイレギュラー・オブ・イレギュラーな学生の担任であるバイロン・ガスラータ。
テーブルを挟んで座っている二人の前には、一通の手紙が置かれていた。
「…………これは間違いなく、イシュドが学園に入学してきたからこそ、送られてきた……のですよね」
「そうだね。確かに、過去に多少の交流があるようだけど、私が学園長に就任する前の話だ」
手紙の送り主は、カラティール神聖国の学園。
手紙の内容を簡単に要約すると、是非ともうちの生徒とそちらの生徒たちを交流させませんか、といったもの。
「学生同士の交流……何も、おかしい内容ではない。おかしい内容でないことは解っていますが………………頭が痛いと感じるのは、私だけでしょうか」
「安心してくれ、バイロン先生。私もだよ」
今現在も、主に他国が令嬢……もしくは王女をフラベルト学園に留学させようとしている。
それに関しては、国王がなんとか上手くあれこれ理由を付けて止めている。
しかし…………留学ではなく、生徒同士の交流会となれば、これが中々無理だと返すのが難しい。
単純に無理だと答えれば「あらら~~~? バトレア王国の学生たちは、うちの学生たちに負けるのが怖いみたいですね~~~。まぁ、そこまで怖いって言うなら、うちも無理強いは出来ませんけど」といった感じで、大雑把に言えばこの様な煽られ方をする。
そして、その様な煽られ方をすれば、バトレア王国としても「てめぇなァ……うちのイシュドさんが本気を出せばな! そっちの高等部一年から三年生全員、ついでに新米騎士の連中まで再起不能出来んだぞ!!!!!」といった感じで返すことが出来る。
ただ……世の中「いやいや、それは非常に有難い。是非ともうちの鼻が伸びきった生徒たちの長っ鼻をへし折ってやってほしい」といった、寧ろそれを望む学園も存在する。
「バイロン先生……イシュド君に、信仰心などの様なものがあると思うか?」
「…………イシュドは、考える頭を持たないバーサーカーではありません。寧ろ、そこら辺の生徒たちよりも思考力に関しては頭二つか三つ飛び抜けているでしょう。彼の周りの生徒多たちが、異常な狂戦士などといった風に呼ぶのも理解出来ます」
ファイトスタイルに関しては、力でごり押す、ガードされてもガードの上から効かせて叩き潰すといった戦闘スタイルも非常に好みではあるが、決して技術を軽視しておらず、本人も一定以上の技術力を有している。
鬼竜・尖が急激に身体能力を上昇させた方法に関する考察も、非常に興味深い内容であった。
だが……それらの狂戦士という枠にと囚われない技術力、思考力と信仰心に関しては話は別である。
「ですが、狂戦士という根っ子の部分は変っていない筈です」
「……大きな声では言えないが、神などクソ喰らえと、思ってるかもしれない、ということですね」
「そんな品の無い行動を取っていれば、天罰が下る……そう言われても、実際に天罰が下るかどうか確認する為に、喧嘩を売ってきた相手を叩きのめすでしょう」
想像出来る……容易に想像出来てしまう。
バイロンと学園長は、イシュドがニヤニヤと笑いながら喧嘩を売ってきた信仰心のある学生を殴り続け「おいおいどうした!! 全然天罰とやらが降ってこねぇじゃねぇか!!!!!」と煽り散らかす光景が、本当に簡単に想像出来てしまう。
「…………最悪、どうなると思う」
「……事と次第によっては、戦争に発展するかもしれません」
カラティール神聖国の国教は、他の国にも広まっており、支部も多く存在する。
なんなら、バトレア王国にも支部がある。
そんな宗教という大きな大きな影響力を持つ国と衝突すれば、カラティール神聖国と他の国が同盟を結んで攻め込んでくる可能性が高まる。
「そうだよね……イシュド君としては、寧ろ望むところなのかな」
「どうでしょうか。さすがに、その辺りの分別はついていると思いますが…………」
「それと、売られた喧嘩を買う買わないは別の話、ということだね」
バイロンと学園長も、ある程度イシュドの性格を把握していた。
だからこそ、大きなため息が止まらない。
「……学園長。この話、お断りすることは出来ないのでしょうか」
「私も、断れることなら断りたいと思ってるよ。ただ、カラティール神聖国の学園となるとね……陛下も、相当頭を悩ませてる筈だ」
「………………仮に、この話を受けるにしても、向こうの学園に生徒がイシュドに喧嘩を売った際、再起不能にされても……イシュドが神を冒涜するような言葉を口にしたとしても、国際問題に発展させない。その条件を飲んでもらうべきかと」
中々の無茶振り要求である。
しかし、フラベルト学園……バトレア王国としても、ここ何十年も学園に現れなかったレグラ家の人間を引き出した。
そのレグラ家の人間と交流させるのであれば、それぐらいの条件は飲んでもらいたいという気持ちもある。
「通ると思うか?」
「彼等は、わざわざ異常な狂戦士と交流したいと言ってるのです。本当に交流したいのであれば、それ相応のリスクを背負うべきかと」
イシュドは、決してサディストではない。
ただ、自分に対して調子に乗った態度を取り、喧嘩を売ってきた人物との戦闘では、饒舌に何度も何度も口撃を繰り返す。
彼がへし折り、粉々に砕くのは、何も肉体だけではない。
「そうだね………………とりあえず、その方向で進めよう」
もし、カラティール神聖国側にリスクを背負ってもらう方向で話が進む……そう決まった場合、今度はどの様にしてイシュドを説得するかという問題が発生する。
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