第220話 ビリヤード?
(中々にきつい仕事だね)
ガルフたちとミノタウロスとの戦闘が始まってから、シドウはとある木の枝に腰かけていた。
案の定、ガルフたちを気に食わない者たちが動いていた。
フィリップやアドレアス、他国からの留学生であるイブキがいるにもかかわらず、誰かの遣いである者たちが動いていた。
しかし……その者たちも、上手く足跡を残さない様にガルフたちを潰そうと動く。
その者たちは、ある粉末を使い、周辺に生息しているモンスターたちをガルフたちの元へ誘導しようとしていた。
自分たちは直接動かず、自然界に生息しているモンスターを使って殺す。
姑息で狡猾……それでも、自分たちの足音をの残さないという問題に対して適切な答え。
とはいえ、シドウもこっそりとガルフたちの後に付いて行き……王都を拠点としている裏の組織の元へ向かい、イシュドから貰った金を使って雇い、そのモンスターたちを抑えてもらっていた。
「……シッ!!」
とはいえ、早めに全滅させておきたいため、シドウはガルフたちとミノタウロスの戦いを気にしながらも、枝の上で刀を持ち……突きの構えを取り、狙いを定めて離れた場所にいるモンスターに突きを放ち、仕留めていた。
まるでビリヤードの様な構えを取り、スナイパーの真似事をしていた。
その光景をイシュドが観ていれば、間違いなくテンションが上がり、凄ぇ凄えと騒いだ。
(おそらく……妙な粉? を撒き散らした者たちはいないようだな)
逃げ足が速い。
できればそいつらを殺しておきたいところだが、下手に探して妹と妹の友人たちに危害が及ぶ瞬間を見逃す訳はいかない。
「っ!!!???」
後は雇った裏の連中たちに任せておけば大丈夫だろう。
そう思えるほど狙撃? で数を減らしたシドウはミノタウロスとガルフたちの戦いに意識を完全に戻す。
そのタイミングで、ミノタウロスに変化が訪れた。
怒りから覚めて冷静さを取り戻した……のではなく、完全に感情が怒り一色になってしまった。
そして数秒後……離れた場所でガルフたちの方へ行こうとしているモンスターを始末していた裏の者たちのところまで声が届くほどの怒号が響き渡る。
その声に同じモンスターたちも震え、恐怖を感じた。
裏の者たちはそういった隙を逃さないプロであるため、ミノタウロスの怒号はある意味有難かった。
(あれは、不味いね)
怒りが爆発した結果、一皮剥けた。
そう捉えるほどの怒号を放つミノタウロスに対し、シドウは先程までと同じく刀をビリヤードの棒の様に扱い、いつでも狙えるように構えた。
というか……もう速攻で放つべきだと思った。
主の咆哮を発動したミノタウロスの怒号は、これまでシドウが対峙してきたモンスターの中でも上位に食い込む圧を放っていた。
いくら妹であるイブキや、フィリップ達が同世代と比べて頭二つ三つ抜けた実力を有していても、あれには耐えられない。
そんなシドウの予想は当たっていた……ただ、そんな中でただ一人、予想に反して駆け出し、狙われたイブキを守ろうとする者がいた。
(あれに耐えたのか!? しかし、闘気を扱える彼、でも…………)
離れた場所にいるシドウだったが…………その光景に、見覚えがあった。
以前にも……これまでの人生で、何度か実際に見ることができた。
それは人が高い高い壁を越えて成長……進化すると言っても過言ではない瞬間。
(イシュド君が、ガルフ君に目をかける理由が良く解る)
先程までのガルフであれば、たとえ万全な状態であっても無事に受け止められることが出来ない渾身の雷斧を、ガルフは闘気の応用技である護身剛気を体得し、見事受け止めることに成功。
ここまでだろう……シドウがそう思ったと同時に、残った他の面子が弾かれたように動き出した。
アドレアスが渾身の風刺を放ち、ミノタウロスが気を取られた間にフィリップが気を失ったガルフを回収し、ミノタウロスに向かって舌を出し、渾身の煽りを放った。
その煽りに何の意味があるのか。
全体を見渡しているシドウは直ぐに理解した。
(…………それもまた、一つの境地と言えるか)
これまた、成長と捉えられる。
目指す境地の一つである明鏡止水とは程遠く……それでも、絶対にお前を斬り殺すという殺意自身の身に集約し、人刃一体というある種の境地に至った。
その殺気は、敵対者に対し、必ず恐怖を与えるものだった。
シドウが知っている必要時間よりも早く、居合・三日月を発動したイブキ。
恐怖心を耐えられたが故に反応することが出来たが、三日月の効果が発動されたこともあり、ガードという行動は意味をなさず……そのまま斬り裂かれ、臓物を零しながら崩れ落ちた。
(……良いね。ほんの少し、彼らが羨ましいと思えた)
元気な爽やかお兄さんといった見た目のシドウだが、実際のところ結構バーサーカーな部分があり、まさに死闘を演じた妹たちを見て羨ましいと思った。
(さて、イブキたちは無事ミノタウロスを討伐した。となれば、肩を貸して街まで同行しても良いのか? でも、街に戻るまで……王都の学園に戻るまでが依頼だと思えば、ここで手を貸すのは……あっ)
匂いに誘導されて集まったモンスターは討伐し終え、ミノタウロスとのガルフたちの戦いに意識を向けすぎて、全く関係無いモンスターの接近に気付かなかった。
不自然かもしれないが、彼らを少しでも休ませるために討伐しよう……そう思ってまた構えた矢先、フィリップが勢い良く立ち上がった。
「っざけんじゃねぇぞてめぇ!!!!!! ひき肉にして喰い殺すぞおおおおおおおッ!!!!!!!!」
完全に輩としか思えない言葉を吐き出し、アドレアスの制止を振り切って駆け出した。
(………………ぷっ、あっはっは!!! いやはや、彼の事を少し見くびっていたかな)
センスがある、おちゃらけた態度に反し、友人想いなところがある。
そういった部分はシドウも解っていたが、強さに対する飢えは今一つだと感じていた。
しかし、頼れる友人たちが動けない状態であれば、疲労が溜まっている自身の体に鞭を打ち、真っ先に動ける男なのだと知り……シドウは彼の評価を改めた。
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