第219話 刀そのものに

学園で出会った友人……親友のイシュドに追い付きたい、横に並びたい。

そう思えば思うほど、イシュドは自分と違うのだと、思い知らされる。


才能云々の話ではなく、自分とイシュドを比べて……人間として、違うと感じた。


本気で戦った事は何度もある。

それでも、自分にはあそこまで狂気と相手を飲み込もうとする殺気を放てるのか?

野蛮な蛮族と世間で言われているが、それを微塵も感じさせない思考力があるか? この先、持てるようになるのか?


そういった差を並べ、比べれば比べるほど……差を思い知らされる。


(僕は、守れる人間に、男になるんだッ!!!!!!!!!!!!!!!)


闘気という、イシュドが持たない力を手に入れた。

それでも……イシュドの強さには追い付かないと感じた。

その事実を、ガルフは改めて認めた。


それが…………大きな切っ掛けとなった。


目標との差を認め、目標は目標であり……自分が辿う道は彼が通った道ではないと悟った。


「っ!!!!!!!???????」


その結果、闘気の応用技術……護身剛気を会得し、ミノタウロスが放った渾身の雷斧による一撃を受け止めた。

吹き飛ばされることなく、圧し潰されることなく見事、耐え抜いた。


「破ッ!!!!!!!!!!!!!」


友が動いた。

そして、見事仲間を守り抜いた。


だが……その友は、既に限界が来ていた。

それを瞬時に把握したアドレアスは声でバレることなど「知ったことかッ!!!!」と吐き捨て、全力で声を張り上げ……全てを込め、風刺を放った。


「ブッ!!!???」


ミノタウロスは済んでのところで反応して横に跳ぶも、風刺は脇腹を貫通。

そもそも四人と戦う前から傷を負っていたミノタウロスにとって、決して無視できないダメージだった。


「ぃ、よいしょ!!!!!!!」


その隙に、フィリップはミノタウロスの前を通り過ぎるという……意識がどの方向に向いてるか次第では、雷斧を振り下ろされて両断されていたかもしれないリスクを無視し、気を失ったガルフを全力ダッシュで回収。


「ハッハッハ!!!!!! ざまぁねぇな、暴れるしか脳がねぇ牛公が!!!!!!」


「ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


少しは薄れた……そう思っていた苛立ちが、ストレスが一気に限界値を越えて爆発した。


ここにきて、なんともい嬉々とした煽り顔を見せ、盛大に喧嘩を売るフィリップ。

イシュドが観ていれば、さすがフィリップだと間違いなく爆笑していた。


だが、何もフィリップは無策で最上級の煽り顔でミノタウロスの意識を自身に引き付けた訳ではない。


「………………」


「っ!!!!!!!!????????」


それは、大和の侍たちが目指す一つの境地……明鏡止水とは程遠い殺気。


イシュドの様に全方向に喧嘩を売るような、場違いな弱者を排除するようなものではなく、鋭く……ただただ鋭く、斬り殺すという意思だけが籠った殺意。


刀は所詮、人斬り包丁。


であれば、その刀を扱う人間は?


同じく、ただ標的を斬り殺す刃と化す。

刀人一体……それがイブキの至った答えだった。


「居合・三日月」


この戦い、イブキはメインアタッカー。

その役割を最後まで捨てず、友人たちの折れない心を信じ……最後までその役を果たす為に動いた。


ガルフが自分を守り切ってくれた時から、後方に下がり、抜刀の構えを取り……余力を一滴も残さず絞りだす為に深く……深く深く、意識を鎮めた。


そして今、イブキが使える最強の居合技……三日月


「ッ!!!!!!!!! ……? っ!!!!!?????」


ミノタウロスは反応した。

フィリップに盛大な煽りをかまされたが、それでも……本人は認めたくなくとも、この戦いの中で初めて鬱陶しさや怒りではなく……恐怖を感じ取った。


運が良かった……そう言うしかない。

ギリギリで、ミノタウロスは大斧を盾にする構えを取れた。


だが、運が良かったのはそこまで。


「へっへっへ…………とりま、一件落着、って感じか?」


居合・三日月は放つまでに時間が掛かる。

ましてや、イブキはまだ使い慣れてない技ということもあり、本来であればもっと長い為が必要だった。


それでも、殺気という感情を刃にする……刀を持つ自分を一振りの刀にする。

そんな思いが功を為し、ミノタウロスが恐怖を感じるほどの殺気を放ちながらも、いつも以上の集中力を発揮し、放つことが出来た。


「そう、ですね……正直、もう、限界です」


加えて、三日月はただ溜が長い斬撃刃を放つ居合ではない。

溜めが長いというデメリットに対するメリット…………相手によって、斬撃刃の性質を変化させることが出来る。


イブキが望んだ変化は……ただ鋭く、ミノタウロスの命を切断する鋭さを求めた。

変化内容としては、贅沢ではないかもしれない。


それでも、研ぎ澄まされた三日月の刃は大斧ごとミノタウロスを両断した。


「正式な解体は、後で行おう」


「おぅ、そうしようそうしよう。今から解体とか、絶対に無理だ……つかよ、解体はギルドに任せても良いんじゃねぇか?」


「専属の解体師が、いるらしいね…………うん、そうしようか」


ダメージは少なくとも、二人のメンタルはがっつりと削られていた。


(一時間ぐらい、休むか? その後に二人を背負って街に……いや、一回マジで休んじまったら、今日の内に戻れるか?……てか、まず魔力を回復しとかねぇと)


アドレアスもフィリップと同じ考えに至り、まずはと魔力回復のポーションを飲み干した。


「ぁん?」


「ブルルルゥ……」


自分たちに向かって歩み寄る存在に気付いたフィリップ。


そこにはアルバードブル。Cランクの暴れ牛がいた。

ミノタウロスに虐められていた、巣を壊された。そんなミノタウロスを殺してくれた人間に感謝の言葉を伝えたい……なんて思いは欠片もなかった。


ただ……偶々血の匂いに惹かれて向かった先に、疲労が溜まっているであろう人間がいた。

当然、アルバードブルにとって、モンスターにとって人間も食い物。


「んだぁ、その眼はぁ…………俺らを食う気か?」


ガルフは、イブキは動けない。

自分が動かなければ……そんな優等生の様な感情ではない。


「っざけんじゃねぇぞてめぇ!!!!!! ひき肉にして喰い殺すぞおおおおおおおッ!!!!!!!!」


「っ!? ふぃ、フィリップ!!!!!!」


アドレアスの制止の声は届かず、フィリップは考えを纏めるのを邪魔された、最悪のタイミングで近寄って来たアルバードブルに怒りを爆発させた。


駆け出す前に残っていた僅かな理性が、アドレアスがいれば二人を守れると判断し、空気読まずのクソ牛を殺すことだけに全力を注いだ。

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