第217話 鬱陶しい

鬱陶しい、鬱陶しい、鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい!!!!!!!


感覚自体は冴えていたものの、ミノタウロスの心は怒りで埋め尽くされていた。

つい先程、従えていた部下たち……少なくともそう認識していたモンスターたちに謀反を起こされた。


部下にした、自分の言うことを聞く。

それだけでミノタウロスは他種族のモンスターたちを自分の傘下に収めたと思っていた。


だが……誰かを従えるというのは、そう簡単なことではない。

ゴブリンの上位種がゴブリンの通常種を従えるのとは話が違う。

加えて、傘下に収めていたモンスターの数は一体だけではない。


一体だけであれば、絶対にミノタウロスには勝てないと諦めていたかもしれない。

しかし、数の力で勝っていれば?

そんな考えが浮かべば、まだ完全に折れてはいない牙を突き立てようとするのも、無理はなかった。


「ブバアアアアアアアアア゛ア゛ッ!!!!!!」


「っ、はっ!!!」


「破ッ!!!!!!!!」


「ほいほい、ほいっと!!」


だが、同族や人間の気配がない場所へ向かい、傷を癒そうと思っていたところで、現在戦闘中の四人の人間と遭遇してしまった。


何故もっと警戒しながら移動しなかったのか。

そう嘆く前に、ミノタウロスはまず自分が逃げられない事を悟った。

それと同時に……休息の邪魔をするな!!!! という怒りが大爆発。


感覚が冴えていたため、これまで殺してきた対して強くない人間どもではないと直ぐに把握し、最初から強化系のスキルを使用し、雷属性の大斧に魔力を注いで雷を纏う。

そして全力で大斧を振り回し、人間どもぶっ潰そうとした。


「ッ、とッ!!!!!!」


「っ!!」


しかし、全くもって殺せない。

もう何十と戦斧を振るっているにもかかわらず、まだ一匹を殺すどころか、有効打の一つすら叩き込めていない。


理由は……冴えている感覚が把握していた。


自分にはない力を持っている人間が受け流し、今度は躱しながら……敢えて通り過ぎた部分に得物をぶつけ、バランスを崩そうとしてきた。


「ふはっ!!! んだよそれ、やるじゃねぇかガルフ!!!」


後方から仲間のナイスプレイに歓声を送る人間。

こちらもまたチマチマと遠距離攻撃を飛ばしてくる。

頭部や眼など、ミノタウロスでも当たれば戦闘に大きな支障が出る部分ばかりを狙ってくる。


そんな物、躱すか自慢の角で弾き飛ばせば良い話。

ただ……それに意識を使い過ぎると、鋭い痛みを的確に入れてくる人間が近寄ってくる。


「えぇ、フィリップの言う通り、お見事、です!!!!」


一度も見たことがない武器が、高速で振るわれ……脇や脚に鋭い痛みが走る。

幸いにも、体のどこも切断されてはいない。


それでも、ミノタウロスは生物の血が通う生物の本能的に、血を流し過ぎてはいけないと解っている。


「~~~~~~~~~ッ!!」


怒りに心を支配されていれど、感覚が冴えていたことが幸いし、ミノタウロスはただ攻撃だけを行うのではなく、敵の攻撃を対処することも選択肢にいれるため、一度下がった。


「逃がさないよ!!」


「っ!!!!!」


チクチクと、当たれば深く突き刺さる突きを放っていた人間が、いきなり多数の鋭い攻撃を放ってきた。


「~~~~~~ッ!!!!!!! ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!」


吼えた。


ミノタウロスは全力で吼えながら、雷の戦斧を全力で振るった。

これまでターゲットに狙いを定めて戦斧を振るっていたが、もう一々狙って振るうことを止め……纏めて叩き潰すという攻撃方法を選択。


(っ!? チッ、クソったれが……嫌なやり方に切り替えやがったな)


一人だけを狙うのではなく、纏めて狙って潰す。

それは一件、隙が大きくなり、イブキやアドレアスの攻撃が通り易くなるように思える。

実際に二人のスピードがあれば、生まれた大きな隙を狙い、それなりのダメージを与えることは出来る。


だが……当然、リスクがある。


リスクにビビッててBランクモンスターが倒せるわけがない?

確かにその通りではあるが、鬼竜・尖の時とは違い、そのリスクに不運にもぶつかってしまった場合……切傷を食らってしまうが、まだ戦える。自分でなんとかポーションを飲んで直ぐに戦線復帰出来るような攻撃ではない。


フィリップ、イブキ、アドレアスの三人が風にもミノタウロスの大雷斬を食らってしまえば、なんとか真っ二つになるのは避けられるが……防いだ骨はバキバキ。

飛ばされれば木々に激突して胴体の骨に罅が入るか、最悪折れる。

そして骨が派手に折れれば、当然内臓にもダメージが入る。


両腕に甚大なダメージを負ってしまうと、地力でポーションを飲むことが出来なくなってしまう。


パーティーの中で、唯一その攻撃力に対抗出来そうな防御力を持っているガルフであっても、受け方を間違えれば容易に吹き飛ばされてしまい、腕へのダメージは抑えられても、木々への激突は避けられない。


(怒り狂ってる様に見えて、実はクールだったりすんのか? 暴牛なら暴牛らしく、考え無しに動いといてほしいもんだぜ!!!!)


心の内でミノタウロスに対して悪態を突くフィリップ。

しかし、実際のところミノタウロスは苛立ちが爆発した結果、ちまちま一人ずつ潰すのではなく、一気に全員纏めて叩き潰そうという結論に至った。


「居合・桜乱……飛燕ッ!!!!!!」


一旦近距離から責めるのを止めたイブキは居合・桜乱……遠距離バージョンを発動した。

一振りごとに速度が加速。

ほぼ一瞬にして四つの斬撃が飛ばされた。


いくら剛腕、怪力のミノタウロスとはいえ、迫る方向が異なる斬撃四つを全て粉砕するのは不可能。


(王手には至りませんか)


数、魔力、体力共にまだミノタウロスを上回っている。

ただ、一向に脳内に鳴り響く警報が収まらない。


(まだ、何かを隠している?)


再度距離を詰めて刀を振るうが、中々喉元に刃を突き立てられない。


数十秒後、ほんの少しの間最前線の役割をアドレアスに任せ、再び居合・桜乱、飛燕を発動しようとした。


その次の瞬間…………森が、大地が震えると錯覚するほどの怒号が放たれた。

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