第211話 お話することもあった
「ここが、レブラだね」
数日間、走って休憩して走って休憩してを繰り返し、ようやく目的の街に到着したガルフ一行。
「なぁ、今日はもう休もうぜ。やるにしても、情報収集ぐらいで良いだろ」
依頼を受ける為に、公欠扱いされる時間を考えれば、目的地まで走って休憩してを繰り返して移動する……そうした方が良いと納得はした。
一応納得したが、それでも疲れるものは疲れる。
「そうだね。そうしよっか」
時刻はまだ昼過ぎ。
周辺の森を探索しようと思えば探索できるが、四人はまず街に入り、これからミノタウロスを討伐するまで泊る宿を探した。
「…………」
「相変わらずあれだな、ガルフ。来たことねぇ街に来ると、ワクワクしてんな」
「これまで基本的に村から出たことがなかったからね。そりゃワクワクもするよ」
「その気持ち、私も解りますよ」
イブキはフラベルト学園に留学するまで、生まれた街から移動した経験がゼロではなかった。
ただ、文字通り別の大陸に来たイブキにとって、見るものすべてが新鮮。
感覚としては、ガルフに近しいものがあった。
「宿探しが終わった後は、冒険者ギルドで情報を集めるのかな?」
「冒険者ギルドねぇ…………」
「そうやって情報を集めて、目的のモンスターを探したって聞いてたけど?」
「合ってっけど、思ったより面倒な時が多いんだよ」
鬼竜・尖の情報を得る為に冒険者ギルドへ足を運んだ際、イシュドが冒険者たちの事を良く解っているからこそ……ついでに理解力があり、冷静な頭を持っている若手冒険者がいたこともあり、面倒な問題に発展しなかった。
しかし、それ以降の依頼では情報収集の際に、イシュドが理解ある対応をしても……バカな態度を貫き通した結果、仕方なくお話をしたケースもあった。
「貴族の令息だからって、調子に乗ってんじゃねぇぞ。みたいな事を言われるんだね」
「概ねそんな感じだな。イシュドが理解ある態度で接しても、上から目線で語ってんじゃねぇとか……会話する気がねぇって感じで結構うんざりするぜ」
冒険者が、自分たち貴族の子供をあまり快く思ってないという事はフィリップも解っている。
とはいえ、貴族の令息だからといって、これまでフィリップ自身が見てきた屑どもと同列に見られるのは……それはそれで頭にくるものがあった。
(つっても、鬼竜・尖の時に俺たちに警告してきたまともな冒険者からすれば、他の考え無しに俺たちみたいな存在にバカ絡みしてくる連中と一緒にしないでくれって思うだろうな…………はぁ~~~。どっちもどっちって話か)
考えるだけ無駄だと思うも、そう簡単に割り切れることはではない。
「では、冒険者ギルドで情報を集めずに探索しますか? 情報を集めずとも探すことは、不可能ではないかと」
「ありっちゃありだよな~~。ちなみに、お前らは何を知っておきたい」
「……走って探せば、見つけられる。それを前提に考えるなら、ミノタウロスがどのレベルの武器を持ってるのか、かな」
「ガルフと同じですね」
「確か、ミノタウロスは大斧を持ってるケースが多かったね。どういった大斧を持っているのか知っていれば、対処もしやすくなりそうだ」
三人の考えに、フィリップも概ね同意だった。
「大剣を持ってる奴もいるみてぇだが、基本的には大斧だろうな。それかハルバードか……どっちにしろ、リーチが長げぇ物を持ってんだろうな。んで、どれぐらいの物を持ってたら、切り替えるつもりだ?」
ミノタウロスという怪物の戦闘力を考えれば、出し惜しみして戦うなど、愚策も愚策。
しかし、フィリップを除いて三人は今よりも成長する為に強敵と戦いたいと思っている。
「ランク五を、越えてたらかな」
「「同じく」」
「……へーへ―、解ぁったよ」
Bランクの暴牛、ミノタウロスがランク五の武器を持てば、鬼に金棒状態。
フィリップからすれば、ランク四であっても抑えず持っている手札を使いところだが、自分の意見はパーティーの中で超少数派。
(そもそも奪った武器がミノタウロスに馴染んだとしても、ランク五まで変わるケースは少ないだろ……奪った武器が元々ランク五とかじゃねぇ限り)
ミノタウロスがBランクということを考えれば、フィリップが考える最悪の可能性が現実にある確率は……決して低くはない。
「あっ、ここなんていいんじゃないかな」
「ほ~~~~ん…………アドレアスにしては、良いチョイスなんじゃねぇの」
アドレアスが指さす場所にある宿屋は、決して値段が安くはない。
安くはないが、高過ぎもしない丁度良い宿だった。
従業員から宿泊代を聞き、フィリップたちは即決。
平民のガルフからすれば中々のお値段だが、これまで依頼を受ける中で討伐してきたモンスターを冒険者ギルドで売却してきたことで、懐はそれなりに潤っていた。
「それじゃあ、情報収集をしよう」
「ってなると、やっぱ冒険者ギルドか」
「そこまで億劫なら、私が頑張るよ」
始めて依頼を受けるということもあって、アドレアスはそこそこワクワクしていた。
冒険者ギルドで情報収集など、寧ろ進んでやってみたかった。
「……んじゃ、頼むわ」
普段であれば「王族のお前が頑張ったら絶対に面倒になるだろ」とツッコむ筈だが、レブラまでの移動で疲労が溜まっていたためか、フィリップは特にツッコむことなく任せることにした。
「ふふ……やはり良いところだね」
少し休憩した後、予定通り情報収集の為に冒険者ギルドに訪れた四人。
アドレアスはイシュドの実家に訪れた際に何度か訪れたことがあり、特に緊張感はなかった。
(珍しいタイプなのは解ってたけど、やっぱり変だよな、こいつ)
不敬と判断されてもおかしくない言葉を心の中で呟くフィリップ。
ただ、そう思っているのはフィリップ一人だけではなく、しっかり常識を持っているので同じく声に出していないだけだった。
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