第210話 僕が守るよ
「なぁ、そろそろ休憩しねぇか」
「そうだね」
王都から依頼を達成する為に出発したガルフたちは、目的の街まで……走って移動していた。
勿論、バカみたいに全力疾走はしていないが、それでも魔力を使わない状態で約ニ十分ほど走り続けていた。
「ふぅ~~~、潤うぜ。しっかし、一応納得したけどよぉ……やっぱ走って移動って結構バカじゃねぇか?」
「ん~~~……言いたい事は解るけど、一般的には一年生だけでBランクモンスターの討伐に向かうって時点で、結構バカだと思われる……よね?」
「まぁ、そりゃそうだな」
ガルフも頭が回るようになったのか、冷静にそもそも自分たちはかなりバカな事をしている……だからこそ、走って目的の街へ移動するという行動自体、それと比べれば対してバカな行為ではないと返した。
「けどよ、イシュドから空飛ぶ絨毯を借りても良かったんじゃねぇか?」
「それは僕もちょっと思うけど…………僕はさ、まだ貴族っていう人たちが何を考えてるのか深くは解らないけど、多分僕達がイシュドから空飛ぶ絨毯を借りたら、そこを指摘されそうな気がして」
「……イシュドから借りる、ってところを指摘しそうではあるな」
一応貴族という人間であるフィリップは脳裏に浮かんだ面倒な貴族たちに対し、舌打ちをしながらその通りだと認めた。
「今回の依頼、僕たちにとってはかなり難易度が高いという事自体は解ってるからね」
ガルフにとって、イシュドがいない状態でBランクモンスターに挑むのは、良い挑戦だと思っている。
決して一人で挑むのではなく、フィリップやイブキ、アドレアスといった頼れる仲間たちと共に挑む。
それでも、危険が伴う挑戦であることは自覚していた。
「イシュドがあれだけ仮想ミノタウロス役をやってくれただろ。いや、Bランクモンスター相手に油断するなってのは解るけどよ」
「でもさ、やっぱりは仮想は仮想で……本物はしっかり僕たちを殺す気でくるでしょ。そう思うと、やっぱり改めて気を引き締めないとって思って」
鬼竜・尖との戦いで、ガルフは確かな手応えを感じていた。
鬼竜・尖が覚醒してからはイシュドが相手をしたが、それまでの鬼竜・尖が相手であれば……ガルフは自分たちが勝てるという可能性を十分感じていた。
ただ、百パーセント、絶対に勝てるイメージはなかった。
モンスターの中では特異なタイプとはいえ、それでもBランクモンスターを相手に四人で挑み、勝率はおおよそ五分。
「ガルフ君たちが以前戦った鬼竜・尖以上の強さを持っているとは限らない……って考えは、油断に繋がっちゃうかな」
「イシュドの実家に滞在していた時、オーガが剣鬼という上位種に進化したことを考えれば、そういった考えは油断に繋がるかもしれません」
「…………一応訊いておきたいんだけど、今回そういった変化が起こりそうになれば、全員で仕留めるよね」
オーガが剣鬼へと進化する際、対戦相手であるイシュドはその進化が終わるまでジッと待っていた。
「勿論」
「Bランクモンスターを相手にするってだけで超大変なのに、更にクソヤベぇ奴の相手なんか御免に決まってんだろ」
「少し興味はありますが、まだ私たちの手には余るかと」
フィリップは当然の反応として、ガルフとイブキもアドレアスの意見に同意だった。
ミノタウロスが進化すれば、いったいどの様なモンスターになるのか。
勿論、と即答したガルフもイブキと同じく多少興味はあるものの、己の部は弁えていた。
(Bランクモンスターが進化するという事は、つまり鬼竜・尖の時みたいな事になるってことだよね…………ッ!! うん、駄目だね……絶対に、駄目だ)
ガルフの脳裏に、自分の視界から消え……フィリップの直ぐ傍に移動した鬼竜・尖の変化を思い出す。
あの時ガルフとイブキ、ミシェラだけではなく、狙われたフィリップですらまともに反応出来なかった。
「後は、ミノタウロスをぶっ倒した後に、他のモンスターが襲って来ねぇでくれっと助かるな」
「………………そうだね。ミノタウロスと遭遇する場所も、なるべく最寄りの街に近いところが良いね」
四人の中で、誰かが体力と魔力を余裕を持たせていれば、終戦後の襲撃にも対応出来るのでは……そんな考えが一瞬だけ浮かぶも、直ぐにかき消した。
(レグラ家が治める領地に生息しているモンスターが他の地域で生息している同種族より強いとしても、Bランクモンスターが強敵である事に変わりはない……一人でも余裕をもって、なんて考えは甘かったね)
イシュドが全て相手していたため、夏休みの約半分をレグラ家で過ごしていたアドレアスはBランクモンスターと戦う機会はなかった。
それでも、イシュドとBランクモンスターの戦闘光景は脳裏に焼き付いていた。
「それと……ねぇとは思うけど、ミノタウロスが他のモンスターを引き連れてねぇと良いんだけどな」
「それはさすがに心配し過ぎじゃないか、フィリップ」
「そうは言うけどよ~、イブキ~~~。何があっか解らねぇだろ」
めんどくさがり屋だからこそ、面倒な戦いにならないか不安になる……といった理由だけではない。
オーガとはリザードマンの特徴を併せ持ち、加えて高い再生能力を持っている。
その時点で面倒が過ぎるというのに、全く聞いたことがない方法で身体能力を爆上げし、フィリップの首を取ろうとしてきた鬼竜・尖。
イレギュラーが起こるとしたら、それぐらいの変化が起こるかもしれないと、フィリップの中でイレギュラー予想が大きくなってしまっていた。
「……フィリップ」
「なんだ?」
「何かあったら、僕が守るよ。イブキも、アドレアスさんも……僕が守るよ」
根拠がない……とは言えないが、それでもガルフにしては珍しい宣言だった。
だが、そういった言葉を虚勢で使うタイプではないと知っているからこそ、フィリップの口から小さな笑い声が零れた。
「ふっ。んだよ、急にカッコ良いこと言いやがってよぉ~~~」
「そ、そうだったかな?」
「はぁ~~、そんじゃあ俺はそうなる前に、出来るだけサポートして無事終わらせられるようにしねぇとな」
「では、私もイレギュラーが起こり、ガルフの身に危機が降りかかれば全身全霊で斬り裂きましょう」
「二人と同じく、僕は持って生まれた者として、仲間を守るよ」
友人たちの返しに、今度はガルフの口から嬉しさの籠った笑みが零れた。
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