第198話 本来の二対二であったならば……
「ハッハッハッ!!!!!! 良いぞ、良いぞ良いぞ!! その調子だ!!!!!」
「「ッ!!!!!!!!」」
現在、休日ということもあり、イシュド達は朝から訓練を行っていた。
そしてイシュドはルドラとヘレナとの一対二の試合を楽しんでいた。
(予想通り、やっぱりこの二人の連携度は高いな!! おそらく、今はガルフたちよりも上だろうな!!!!!)
ガルフたちは夏休みにイシュドの実家で訓練と実戦漬けの日々を送り、その間に普段の面子でのタッグ戦の練度は急上昇。
しかし、幼い頃からフレアの護衛として生きていく道を選び、進んでいた二人は五年以上前からタッグを組んでの戦い方を学んでいた。
その練度は短期間の間に濃密の訓練と実戦を積んでも越えられない壁があった。
「いやぁ~~~、中々綺麗な連携だね。フィリップもそう思わないかい?」
「あの必死な表情を見ると、綺麗とは思えねぇけど……つっても、俺らの誰かがタッグを組んだところで、あそこまで上手く攻められはしないだろうな」
先日の昼休み時、取り巻き達を捨てて……試練を突き付け、一時別れたアドレアスが無理矢理イシュドたちと共に行動することとなった。
「……先日の戦い、もしあの二人がしっかりとタッグバトルを行っていれば、もっと危うい勝負になっていた……というのは、私の読み間違いかしら」
「いえ、まさに読み通りです。そうですよね、ガルフ」
「はい。あの連携度を見ると、試合が始まった直後に一対一の状況をつくれて本当に良かったと思います」
普段からイシュドと共に行動している四人の中で、タッグバトルを行うのであれば、片方がフィリップかミシェラである必要がある。
ガルフとイブキも不得手と言える不器用さはないが、ミシェラの方がパートナーに合わせるのが上手く、フィリップは更に頭一つか二つ抜けた器用さでパートナーの動きに合わせられる。
とはいえ、相手が完全に二対二の陣形を組む前にイブキが居合、ガルフが闘気全開で渾身の一撃を叩き込む……という短期決戦の形で終わらせられなくもない。
「なんにせよ、あのイシュドが良い顔で笑ってんだ。あの二人の連携度は、学生の中じゃトップクラス……いや、トップなんじゃねぇの?」
「……少々感覚が麻痺していますが、やはりそれを笑いながら対応しているあの男は色々とおかしいですわね」
「あの二人が二人で戦う、もしくは守る為の練度を高めていた間、イシュド君は一対多数での練度を高めていた。そう考えれば納得出来そうじゃないかな」
「発想が怖いですが、実際そうなのでしょうね」
護衛二人の連携度が褒められている。
それは同じく訓練場にいる二人の主、フレアとしては嬉しいことだった。
ただ、彼女は勝つことは無理と解っていても、二人がイシュドと……まだ戦えることを祈っていた。
(二人共、苦しいとは思いますが……頑張ってください)
言葉を送る事しか出来ない。
イシュドの強い奴にしか興味がねぇという言葉を突き付けられ、改めてそれしか出来ない自分に対して情けないという気持ちが大きくなっていた。
それでも……二人の主として、フレアは武運を祈り続ける。
「まぁ、それでも無理だろうね。バーサーカーを使わず、身体強化系のスキルを使わず……更には武器も使ってない」
「三次職に転職してねぇと、話しにならねぇってことだろ。そんなの今更な話だぞ」
「でも、あの男は確かに笑ってますわ。つまり、普段以上に集中しているとも捉えられますわ」
「あぁ~~~、それもそうか。けど、そんなのあの二人には関係ねぇだろうし…………とりあえず結果は解り切ってんだ。俺たちは俺たちでやろうぜ」
フィリップの言葉通り、ルドラとヘレナは最後まで本気でイシュドを倒すつもりで己の武器を振り続けたが、二人とも強烈な腹パンを食らってノックアウト。
「はぁ、はぁ……っ…………ふぅーーーー。ありがとう、ございました」
「おぅよ。まっ、それはこっちのセリフでもあるぜ」
「? どういうことかしら」
一対二という状況で挑んだにもかかわらず、結果としてルドラの細剣とヘレナの大剣もイシュドの体を皮一枚斬れなかった。
結果としては、最悪も最悪。
自信喪失とまではいかないが、決して小さくない衝撃を受けた。
「お前らが高等部の何年までここにいるのかは知らねぇけど、このまま伸びれば……タッグでの戦闘に関しては俺が今以上にワクワク出来そうだからな」
現状の戦闘力を考慮すれば、伸びしろに関してはルドラとヘレナの方がある。
二人が三次転職を果たす様なことがあれば、それこそイシュドも嬉々としてバーサーカー以外のスキルを使用して存分に二人との戦闘を楽しめる。
「…………レグラ家に生まれた者たちは、皆あなたの様な方ばかりなのですか?」
「ん? うちの実家の事が気になるのか」
「ま、まぁそういう事になりますね」
ルドラとしては、イシュドとレグラ家、両方とも気になる存在であり、それは先程まで共に戦っていたヘレナも同じだった。
「俺は鍛えんのが早かったから、一個上の兄貴よりも強かったんだよ。他の歳上の従兄姉とかよりも強かった。そういう状況になった場合、普通の貴族だったら……いや、普通の貴族って言い方は多分よくねぇんだろうな。悪い意味で貴族らしい奴らなら、どうする」
「……裏で情報を操作し、悪い噂を流す。数で潰そうとすることもあるでしょう」
「はっはっは!!!! やっぱりそういう事があるんだな。けど、レグラ家の人間は違ぇんだよ。負けたくねぇって思う奴がいたら、もっと訓練を積んでもっと実戦を重ねる。幸いにも、実戦相手になるモンスターは腐るほどいるからな」
「な、なるほど。しかし、訓練はともかく、実戦を何度も重ねていれば、当然実戦で死んでしまう可能性も……」
「おぅ、当然あるぜ。幸いにも俺を含めて直系? の人間は誰も死んでねぇが、従兄弟姉妹たちは何人か死んでる」
「その口ぶりからして…………強さを求めた結果、死んでしまうのも致し方なし、と」
「オーケーオーケー、言いたい事は解るぜ。けどな、リスクを背負わない戦いを積んだところで、本当の意味で強くなれるか?」
「「…………」」
「異常なんだろうが、お前らはお前らで経験があんだろ。ただ、俺や他のレグラ家の人間は、その経験を恐れてねぇだけだ」
フレアを守るために、フレアに仇を為す者を潰す為に鍛え続けてきた二人は……イシュドの言う事を理解は出来た。
そして、戦闘力という点に置いて目の前のイシュド一人であっても確実に良好な関係を保たなければならず……そのカギを握っているのがルドラとヘレナ。
それを再度感じ取った二人は、更に強くならなければという向上心が強まった。
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