第197話 本当に、ただの腰巾着

細剣使いのルドラ、大剣使いのヘレナがガルフたちの相手に丁度良いという理由で、フレアが自分と共に行動することを許可したイシュド。


自分はまだ気に入られていない。直ぐに気に入られる程……イシュドがチョロい男ではない事は理解している。

故に、上手くイシュドの気に障らない程度に声を掛けていた。


「……あのよ~~~~。んで、てめぇがここに居んだよ」


「いやぁ~~、なんだから面白そうだと思ってさ」


授業を乗り越え、昼食中の今……何故か、イシュドの隣にバトレア王国の第五王子、アドレアスがニコニコと笑みを浮かべながら居た。


(俺、このバカ王子に学園では基本的に話しかけてくんな的な事を伝えたよな? 俺がボケてなかったら、キッチリ伝えたと思うんだが)


本人が思っている通り、イシュドはまだボケておらず、基本的に話しかけてくんな的な事を伝えたという記憶は幻の記憶という訳ではない。


「噂の留学生であるフレアさんがイシュドと関わってると聞いてね。王族であるフレアさんが関わってるなら、私もイシュドと関わって良いと思ってさ」


「~~~~~~~~~~~ッ!!!!!」


一応、一応アドレアスの考えは、理屈が通っている。


ただ……アドレアスはアドレアスで面倒な取り巻き、腰巾着たちがいたのをイシュドは覚えている。


「はぁ~~~~~~……お前さぁ、あのボンボンな取り巻き達はどうしたんだよ。簡単にお前が俺と関わるのを認めるほど、大人しい連中じゃねぇだろ」


取り巻きの面子を多少なりとも知っているミシェラとフィリップも昼食を食べながら、そこが気になっていた。


「私の隣に立てるぐらい強くなるまで、関わらないでほしいと伝えたら、あっさりと引いてくれたよ」


「「「「「…………」」」」」


腰巾着たちとの関りを断とうとした言葉を聞いて、大なり小なり差はあれど……イシュドたちは引いていた。


「お前………………鬼だな」


「そうかい? あまりにも彼らが離れようとしてくれないから、少し強めに僕の意志を伝えただけだよ」


「そりゃそうかもしれねぇけど、お前の隣に立てるぐらいって……無理があんじゃねぇのか?」


アドレアスは今年の激闘祭トーナメントでフィリップと優勝争いをした、間違いなく高等部の一年生の中でトップクラスの実力者。


夏にはイシュドにディムナと共に土・下・座をして共に訓練をさせてほしいと頼み込み、更に高みへと登った。


「珍しいね。彼らのことを心配してるのかい?」


「んなわけねぇだろ。ただ、随分と無茶な言葉で突き放したんだなと思ってな」


「そうかな。確かに私はある程度強い部類に入るとは思うけど、それでもイシュド君ほどではない」


「当たり前だろ。俺とまともに戦り合いてぇなら、三次職に転職してから………………あぁ~~~~、はいはいはい。なるほどねぇ」


「どうやら、私の考えを解ってくれたみたいだね」


イシュドという存在は、学生の中で絶対的な帝王、暴君である。

仮に王都の全学生が部隊を組んで挑んだとしても……返り討ちにされてしまう。


だが、フィリップは一旦置いておき、彼の隣に並び立とうと日々精進しているガルフ。

いつか絶対にぶった斬ると誓い、日々刃を研ぐミシェラ。

心の内に宿る気持ちの正体はまだ把握出来ていないものの……自身の故郷に強い興味を持っているイシュドへの嬉しさ、そして強さへの敬意を示すかのように研鑽を続けるイブキ。


彼の周りには、本気でイシュドに追い付こうと努力を重ね続ける者たちがいた。


そんなガルフたちと比べて、アドレアスの周りにいる腰巾着は、本当にただの腰巾着であり……アドレアスの強さに並び立とうなどという気持ちは全くなかった。


(あの腰巾着共にとっちゃあ、この王子様は友人やライバルじゃなく、使える主? みたいなもん……いや、第五であっても王子だから、将来的に甘い汁を吸えると思って近づいたか? 何を思ってあの腰巾着共がこの王子に近づいたのかは知らんが、傍にいたくせにこいつの思考を察せなかった連中がバカなだけか)


アドレアスが周りの者たちに恵まれていなかった。

それは解らなくもない……解らなくもないが、それはそれで友人の様に同行されるのは面倒極まりない。


「はぁ~~~~…………囲い共がバカな騒ぎを起こしたらどうするつもりだ?」


「私が直々に殺せば良いかい? 私の知人に害を為そうと……つまり、王族の知人に害を為そうとするのであれば、殺しても特に問題にはならないよ」


(こいつ……なんか、考え方が俺に似てきたか?)


聞き耳を立てていた生徒たちがそこそこドン引いている中、アドレアスは普段通りの表情のままであり……自分の考えが間違っているとは、欠片も思っていなかった。


(アドレアスの奴、なんか前と結構変わったな。王族としてのアドレアスの仮面を取っ払って、一人の人間としてのアドレアスになった……みたいな感じなのか?)


(よっぽど王子として振舞うのに、自我を押し付けていたということでしょうか? これまでのアドレアスからは考えられない発想ですわ)


同年代の令息、令嬢であるフィリップとミシェラはアドレアスの変化に驚きはしたが、その変化が悪いものだとは思わなかった。


「……ったく、昼飯ぐらいのんびり食いたかったぜ。そんなにてめぇ自身も強くなりてぇなら、飽きるまでガルフたちとバトってろ。それと、後で後悔しても知らんからな」


「第五王子である私は、王位継承権とは関係無い存在に等しい。仮にチャンスが回ってきたとしても、私はそれを望まない。であれば、国を……民を守るために少しでも強くなろうとするのは当然だと思わないかい?」


「だから、後悔なんかするわけがねぇってか…………さっきも言ったが、勝手にしろ。んで、周りにいた元腰巾着共が何かしようとしたら、責任もってお前がなんとかしろよ」


元腰巾着共が問題を起こせば、自分が殺せば良いと口にした。

そんなアドレアスの態度は嫌いではなく……寧ろイシュド好み。


ただ、それはそれとして、二人の王族と共に行動することになるのはやはり面倒が過ぎる。


なんとも言えないモヤモヤが頂点に達し、イシュドは昼休みギリギリまで昼食を食べ続け、無理矢理モヤモヤを解消した。

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