第176話 生きようとした結果の果てに
オーガとリザードマンの融合体である鬼竜・尖。
四人が体感した通り、人との戦闘に……一対複数の戦いに非常に慣れている。
だが、ガルフたちも複数人で戦うことには慣れている。
一番の理由としては……レグラ家で過ごしている間、偶にイシュド対四人で戦っていたことがあるから。
その際、イシュドは身体能力を制限して戦っていたが、結局一度も四人が勝つことはなく終了。
(あの時ほど、大きな壁は、感じない!!!!)
どれだけ叩いても蹴っても斬っても削れない巨大な壁。
それがイシュドに四人で挑んだ時の感想。
しかし……現在戦闘中の鬼竜・尖には、そこまでの頑丈さは感じなかった。
(ここッ!!!!)
「ッ!!」
四人の中で一番の殺傷能力を持つイブキの斬撃を回避する鬼竜・尖。
だが、それは躱される前提で放たれた斬撃。
続けざまにフィリップの斬撃刃、ガルフの渾身の一閃……そしてミシェラの双剣乱舞が放たれた。
(うんうん、四人とも様になってるな~~~~)
四人の戦いっぷりを観て、非常に満足気な笑みを浮かべるイシュド。
ミシェラの双剣乱舞によって複数の切傷が刻まれた。
これがようやく与えたファーストダメージ。
先を考えれば長く感じるが、それでも四人がまだノーダメージであることを考えれば、希望のファーストダメージとも言える。
「……あぁん??」
しかし、ミシェラが双剣でダメージを与えた個所を見ると……数秒後には塞がり、元通りになっていた。
(……完全に治ってやがんな。もしかして再生のスキルでも持ってやがんのか? だとしたら……あいつらにとっては、中々にクソ面倒な相手になるな)
文字通り、圧倒的な回復力を持つスキル、再生。
魔力を消費することで傷を癒し、欠損した部位を再生して元通りにすることが出来る。
かつてイシュドも同じく再生スキルを持ったモンスターと戦ったことがあり、面倒だと感じた経験がある。
(あんな特別な個体なら、再生とか面倒なスキルを持っててもおかしくねぇか)
一人で勝手に納得するイシュド……しかし、そもそもその考えが間違っていた。
鬼竜・尖は再生のスキルを持っていない。
では何故、鬼竜・尖は瞬時に刻まれた切傷を癒し、元通りにすることが出来たのか。
それは、鬼竜・尖が誕生した秘話が関係していた。
数か月前……あるオーガとリザードマンが対立していた。
二体は上位種ではないものの、同族を纏めるカリスマ性を持っていた。
そして互いの存在を目障りに思っていた二体は遂に激突。
結果……その二体だけではなく、付き従っていた同族たちも殆ど全滅した。
ただ、そこであまりにも予想外な事件が起きた。
同族を率いていた二体は非常に珍しい個体であり、共に本来は得ることのない再生のスキルを有していた。
二体は相打ちの様な形で倒れた為、両者の死体は重ね合う様に倒れた。
大量の血が流れ、四肢も一部欠損し……互いに急所と呼べる場所を貫かれていた。
もはや、再生は不可能…………意識が薄れゆく中、そう悟りながらも両者は再生を使用し続けた。
その結果、今の魔力量、残っている体の組織、血液だけでは再生出来ないと判断した。
すると……互いが互いの体を取り込み始めた。
足りない部分を互いの体で補い合い、鬼竜・尖という怪物が生まれた。
「おいっ!! こいつ、再生系の能力を、持ってるぞ!!!」
「そう、見たいですわね!!!」
戦闘が始まってから数分が経過し、フィリップたちも鬼竜・尖が持つ能力に気付いた。
ただ、最悪な事に……鬼竜・尖の再生能力は、スキルによる効果ではない。
故に、魔力を消費しない。
「疾ッ!!!!!」
「破ッ!!!!!!」
イブキの斬撃の切れ味はまだまだ健在であり、ガルフも闘気の使用を解禁。
闘気に関しては、これまで戦ってきたモンスターとの戦いは訓練だと思いながら望んで来たため、鬼竜・尖はガルフの闘気という力を知らなかった。
それもあって数回ほどガルフの斬撃が鬼竜・尖の体を斬り裂いた。
(……あの個体、本当に学習能力が高ぇな。戦闘に関しちゃ、そこら辺の兵士や冒険者より学習能力が高ぇんじゃねぇか?)
切傷の深さに多少の不安を覚え、直ぐに防御と回避を優先した戦闘スタイルに変更。
絶妙に距離を取りながら四人との戦闘を続け、二十秒ほどでガルフが与えた傷も癒えてしまった。
(削れない訳では、ない。しかしこの個体……本当に堅牢だ)
(この個体、本当にモンスターですの!!!???)
(こいつはぁ……モンスターと戦ってる気が、しねぇな)
(もう闘気の強化幅に、対応された!?)
今のところ拮抗は崩れていないものの、鬼竜・尖も防御と回避だけを繰り返している訳ではない。
絶妙に移動しながらロングソードを攻撃に使い、四人の連携を分断しようとしている。
(あの個体、今も学習中か? ガルフたちも相手の呼吸を外すように戦ってはいるが……その外し方まで読まれてインプットされると、いよいよヤバくなってくるかもな)
冷静に目の前で行われている戦いを分析しながら、近寄って来たモンスターの首を戦斧による斬撃刃で斬り落とすイシュド。
正直なところ……彼はそろそろ参戦しても良いのでは? という気持ちが湧き上がってきていた。
生物的な意味で、鬼竜・尖は非常にイシュドの闘争心を燃え上がらせる個体。
(つか、あの個体……もしかしなくても、ほんの少しだけ俺の方を意識してるか?)
四人を倒し終えた後に、自分に挑もうとしているかもしれない。
そんな雰囲気を察し、更に闘争心が燃え上がるも……思い出すは、鬼竜・尖と遭遇する前に見せた友人の闘志。
(…………とりあえず、ガルフの奴が悔いを残さず満足出来るまで待つとするか)
目の前に極上の強敵がいるにもかかわらず、確定ではない時が来るまで待つ。
そんな姿をイシュドが学園に入学する前までの姿しか知らない者が見れば……言葉が出ないほど驚くこと間違いなかった。
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