第175話 比較にならない
「………………」
「そんなに足を揺すったところで、例の個体とは出会えねぇぞ」
貧乏ゆすりを指摘されたミシェラは「まだ手掛かりすら見つかってないのよ!!!! さすがに焦るべきですわ!!!」とは言わず、とりあえず貧乏ゆすりを止めた。
ただ、心の内に焦りの感情がないわけではなかった。
「ふぅーーーーー……では、走るべきですわね」
「探索できる範囲を広げるのは賛成だが……」
「なんですの?」
イシュドとしては、体力が崩れた状態では万全の力で戦えないのではないか……そう思っていたが、さすがに甘っちょろい考えであると判断。
「いや、なんでもねぇよ。デカパイの言う通り、走って一日の間に探索する範囲を広げるのはありだと思うが……三人はどう思う」
リーダーはイシュドであるが、無理矢理パーティーの方針を決めるつもりはさらさらない。
「走んの~~? 確かに、このまんまだと例の個体と遭遇出来そうにねぇけど…………なぁガルフ、お前は例の個体と戦ってみたいんだっけ」
「うん、そうだね。確かに走って移動してたら体力は落ちちゃうけど、命を懸け戦いでそんな文句は言ってられないから、僕もミシェラの意見に賛成かな」
「私も同じく。敵は、こちらの事情を汲んではくれません」
「はぁ~~~~~……分かった分かった。ちゃんと走るよ」
めんどくさそうな表情を浮かべながらも、フィリップはダラけず走ると宣言。
(……まっ、そんなに走る必要はなさそうだけど)
一向は昼食のサンドイッチを食べ終え、宣言通り走りながら森の中を探索開始。
「「「「っ!!!!!!!!」」」」
「やっぱり狙ってやがったか」
走りながら探索すること約五分……五人の目の前から、堂々した雰囲気を纏いながら一体のモンスターが現れた。
「い、イシュド。やっぱりとはどういう事ですの」
「随分前から、俺たちを見てる視線があったからな。もしかしたらって思ってたんだが、どうやらビンゴだったみてぇだな」
「な、何故言わなかったのですか!!!!!」
「気付かねぇお前らが悪い」
「「「うぐっ!」」」
ミシェラだけではなく、ガルフたち三人も気付いていなかったため、四人全員の心にグサッと矢が刺さった。
(にしてもこの雰囲気…………雰囲気だけなら、大太刀を使ってた……剣鬼? って個体と似てるな)
以前、イシュドと戦闘の際にAランクモンスター、剣鬼へと進化した個体と同じ雰囲気を醸し出すイレギュラー個体。
当然のことながら、見た目に関しては剣鬼と違い、二本の角に加えて角の様な背びれを持ち……体色もオーガの赤だけではなく、リザードマンの青色も混ざっている。
加えて、体の所々にリザードマンの鱗を持っている。
「んじゃあ、どうする? 向こうは戦る気満々って面してるけど」
要は、俺も一緒に戦った方が良いか? という問いである。
「いや、僕らが戦るよ」
そんな友人からの問いに対し、ガルフは速攻で断り、自分たちだけで戦うと宣言した。
「ったく、しゃあねえな~~~」
勝手に決めるなよとツッコミたいところではあったが、そうはせずに短剣を鞘から引き抜いて構えるフィリップ。
「元からそのつもりですわ。あなたは他のモンスターが近寄ってこないか見張っておいてちょうだい」
「お願いします、イシュド」
「あぃよ。まっ、好きな様に頑張ってくれ」
ミシェラは双剣を抜剣、イブキは刀を抜刀。
全員が戦闘の構えを取ると……律儀にも、例の個体は四人の様子に合わせてロングソードを抜剣。
緊張の空気が漂う中……意外にもその緊張を打ち破ったのは、短剣から斬撃刃を放ったフィリップだった。
(初手はフィリップ。ただ、当然の様に例の個体も…………とりあえず、名前は知っておきたいな)
有しているスキルなどは、後で知れれば良いが、名前は知っておきたいイシュド。
亜空間から鑑定の効果が付与されたメガネを取り出し、一瞬だけ装着。
(鬼竜・尖、か…………なんと言うか、いかにも鬼竜・~~~って、感じて別の特徴を持つ個体がいそうな名前だな~~~)
モンスターの進化に関しては未だ不明な岐路が多く、歳にしては多くのモンスターと殺り合ってきたイシュドだが、今現在目の前でガルフたちが戦っている個体は初めて見た。
(それにしても鬼竜・尖だったか………………人の言葉は話してないが、思考は既に人間に近いのか?)
ここ数日間、五人に視線を向けて観察していた存在は、イシュドの予想通り鬼竜・尖だった。
鬼竜・尖は一目イシュドたちを見ただけで、無策に突っ込んで戦うのは無意味だと判断し、五人の戦闘光景を観察していた。
結果としてイシュドの情報は殆ど得られなかったものの、他四人の情報はある程度得ることに成功。
四人全員で戦う戦闘に関してはあまり情報がないが、この戦いの中で徐々に修正していく。
「お前ら~~~、そいつかなり頭良いから、色々と考えて動かねぇと攻撃当たらねぇぞ~~~」
後方からアドバイスを送るイシュドに対し、一番反応しそうなミシェラは……特に言葉やイラつきを返すことはなく、耳に入った言葉を思考に刻み、ただ目の前の相手に集中する。
(こいつは、マジでやっべ~な。普通じゃねぇんだろうなとは、思ってたけど!!! まるで人だぜ!!!!)
モンスターの中には……特に人型の個体は、何かしらの優れた技術を持っていることが珍しくない。
そういったモンスターを相手に、人間様を嘗めるな!!! とイキがって挑み、痛い目に合う冒険者は決して少ない。
しかし、現在四人と戦闘中の鬼竜・尖の技術力は……それらのモンスターとは比較にならない程高い。
フィリップもイシュドたちと出会うまで、決して年がら年中、二十四時間一年中怠け続けていた訳ではない。
レグラ家で生活していた期間も含めて、武器を扱うモンスターとの戦闘経験はそれなりにある。
だが、そんなモンスターたちの技術が二流三流に思える程、現在対峙しているモンスターの技術力が高いと感じさせられていた。
(絶好の、相手だ!!!!!!)
しかし、鬼竜・尖の技術力の高さに驚かされているフィリップとは対照的に、ガルフも予想以上の技術力を持つ未知のモンスターに対し……闘争心を更に燃え上がらせていた。
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