第163話 行動期間

「お、おいイシュド。どんな内容が書かれてるんだ?」


碌な内容が書かれてない。

イシュドの口端が吊り上がる顔を見て、直ぐに解った。


ただ、条件反射でどんな内容が書かれているのか尋ねてしまった。


「読んでみろ」


「お、おぅ」


依頼書を受け取り、読み始めてから数秒後……フィリップはなんとも言い難い、苦い顔をしながらミシェラにパス。


「………………」


そしてミシェラもフィリップと似た様な表情を浮かべながら、ガルフにパス。


「…………確かに調査、だね」


これまたガルフもなんとも言えない表情をしながら、イブキにパス。


「……ふむ…………なんとも奇怪な存在がいるものですね」


依頼書には、リザードマンとオーガの特徴を持ち合わせるモンスターを調査してほしいと記されていた。


「なぁ、イシュド。一応訊くんだけどよ、この依頼書に記されてる様なモンスターって、レグラ家の領地で確認されてたりしないか」


「いや、見たことも聞いたこともないな」


リザードマンを従える強さを持つオーガ。

逆にオーガを従える強さを持つリザードマンといった例なら確認されているが、リザードマンとオーガの特徴を併せ持つモンスターに関しては、イシュド以外の面々も遭遇したことがない。


「会長パイセン、この依頼なら受けても良いぜ……って、まぁ別に俺がリーダーって訳じゃねぇし、お前らの意見も聞かねぇとな」


「……イシュド、お前が仕切らねぇのか?」


「将来的にはって考えてるけど、別に柄じゃねぇしな。つか、フィリップたちは逆にそれで良いのかよ」


「俺は全然構わねぇぜ」


リーダーなんて立場なんかには絶対に就きたくないフィリップとしては、是非ともイシュドがリーダーになってほしい。


「……デカパイはどうなんだよ」


「…………あたなより強くならない限り、そういった立場になったところで、意味はありませんわ」


「あっそ。ガルフとイブキは」


「僕はイシュドがリーダーだとばかり思ってたけど」


「私もガルフと同じです」


といった感じで、イシュドがリーダーという意見で満場一致であった。


「分かった。んじゃあ、リーダーとして訊くわ。お前ら、この依頼を受けるのに賛成か?」


この依頼とは、勿論リザードマンとオーガの特徴を併せ持つモンスターの調査。


「…………まぁ、良いんじゃねぇの? 面白そうな感じではあるし」


「私は構いませんわ」


「僕もその依頼を受けたいかな」


「私も断る理由はありません」


「ってな感じだ、会長パイセン」


フィリップは若干の面倒くささを持ちながらも、面倒な授業をサボれるならそれはそれでありかと思っていた。


そして三人は、言葉通り、断る理由がなかった。


「…………分かりました。それで、いつから出発しますか? お勧めは休日に合わせての出発ですが」


「んじゃ、そうするよ。それまでに色々と準備しとけば良いって話だろ」


「えぇ、その通りです」


依頼を受ける。


その依頼に関して、目的地までに辿り着く移動は生徒会も教師陣も基本的に手伝はない。


「うっし! んじゃ、休日に合わせて出発するとして、期限はどれぐらいなんだ?」


「…………目的地までそれなりに距離があります。一般的な生徒たちの移動力を考慮すれば……二十日間といったところでしょうか」


「二十日間ね。オッケー、オッケー。そんじゃあ、失礼しました~~~」


意気揚々と退出するイシュドに続いて、四人も退出。


引き続き行わなければならない仕事が残っているクリスティールたちは……直ぐに仕事には戻らず、少し悩ましい表情をしていた。


「……会長、彼はこれらの依頼内容では、他四人の実力が正確に評価されないと口にしてましたが、それは……彼の実力を考慮すれば、ということでしょうか」


インテリメガネパイセンとて、彼らの実力を下に見ている訳ではない。

それはイシュドだけではなくガルフやフィリップ達に対しても同じだった。


「そうですね。ただ、私としてましてはAランクモンスターと遭遇する可能性があるとなると、それはそれでガルフ君たちがまともに戦えるか怪しくあるため、私たちの判断が完全に間違っているとは言えません」


レグラ家に生息するAランクモンスターと比べて、他の地域に生息しているAランクモンスターはやや劣っているかもしれない。

それぐらいはクリスティールも予想出来る。


しかし、多少差はあれど、AランクモンスターはAランクモンスター。


怪物の中の怪物である事に変わりはなく、それこそまだ三次転職してないガルフたちが勝つことは不可能であり……万が一、イシュドの救いの手が及ばない可能性もあり得る。


「ですが……彼らが二年生、三年生になる頃にはわかりませんね」


「つまり、学園にAランクモンスターの討伐依頼がくると」


「それは…………正直なところ、分かりませんね。学園側としては、生徒たちが亡くなるといった事件は絶対に避けたい。というより、あってはなりません」


インテリメガネパイセンがイシュドに説明した通り、そのギリギリのラインを考え、一年生という立場であるにもかかわらず、Bランクモンスターの討伐依頼を受けても良いリストに加えた。


「ですが、多くの方たちが激闘祭でイシュド君の強さを観ました。そして、視る眼を持っている者であれば、イシュド君がスキルを使わず……たいして魔力も使わず私とダスティン、フィリップの三人に勝利したという事実を把握してる筈です」


「イシュド君が在学してる間に、Aランクモンスターの討伐依頼が来てもおかしくないってことですね~~~」


「まだ確定ではありませんけどね」


まだ誰も実行しようとはしてないが……それでも、これからイシュド達が依頼を達成していき……ガルフたちの実力も本物だと伝わっていけば、その可能性は大いになる。


「思ったのだが、そうなれば冒険者で言うところの、指名依頼となるのではないか?」


「……………そうなりそうですが、イシュド君なら嬉々として受けてくれるでしょう」


来年、再来年には既にクリスティールたちは学園にいない。


だが、高ランクモンスターの討伐依頼となれば、必ずイシュドたちが受けてくれると信じている。

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