第127話 背中で魅せる?

アドレアスとディムナは思わず顎が外れてしまう程の衝撃を受けつつも、昼食後も試合と反省会の連続になんとか付いてきた。


「「っ!!!!!」」


そして夕食時……二人は物凄い勢いで夕食に食らいついた。

礼儀作法などを無視した動きではないが、間違いなく普段とは違い、猛スピードで暴力的な美味さがある料理を腹に入れた。


「ふぅ~~~~…………有意義な鍛錬を行い、美味しい夕食を存分に食べて温かい湯に浸かる……本当に最高だよぉ」


「そりゃなによりだ。けど、間違ってもここ以外で変な事言うなよ」


「解ってるよぉ~~~」


面白いほど腑抜けてとろとろした表情になっているアドレアス。


(この王子様、どっかでレグラ家に生まれれば良かった……みたいなバカなこと零さねぇよな?)


下手なお世辞抜きに褒め言葉を伝えられるのは、やはり悪い気はしない。

ただ、その褒め言葉によって面倒事が生まれるのだけは勘弁してほしいところ。


「明日は、実戦だったか」


「あぁ、そうだ。適当に面子を組んで戦ってくれ~」


「……一人で戦ってはダメなのか」


「うちの領地内に生息しているモンスターは、どうやら他の地域で生息してる同じ個体の奴より強いっぽいからな~~。まっ、どうしてもソロで戦りてぇモンスターとかと遭遇したら、明日組んでる面子に相談しろ」


フィリップ以外、強敵を相手に自分の実力を試してみたい者が全員であるため……喧嘩にはならずとも、戦う前に取り合いになることは珍しくない。


「分かった………………しかし、意外だな」


「何がだよ、ディムナ」


「ここまで面倒見が良いとは思っていなかった」


ディムナがイシュドについて知っていた点は、エキシビションマッチで行われた圧倒的な戦闘力。

その際の登場の仕方とうを含めて、ザ・バーサーカーという感想しかなかった。


「面倒見に関しては……ミハイル兄さんは割と自分優先か? でも、別に面倒見が悪いって訳じゃねぇしな。別に今日一緒に訓練してたヴァルツやリュネみたいな弟妹がいるし、今よりもっとガキの頃はうちに仕えてる騎士たちの息子や娘たちと一緒に訓練してたからな…………自然と面倒見が良くなったのかもな」


「そうか…………」


「自分の場合はそうならなかったって面してんな」


図星を言い当てられたが、数時間前のイシュドが曾祖父との戦いで戦いらしい戦いにならなかったという話を聞いたときほど表情が崩れることはなかった。


「強くなる事しか考えずに生きて来たんなら、面倒見の良さなんてそりゃ身に付かねぇだろ」


「兵士や騎士であれば、強さを常に目指すものじゃないのか」


常に物理的な意味での強さを目指す。

イシュドはその考え自体は嫌いではなかった。


「俺が昼飯の時に話した内容を思い出せよ……人間ってのは、常に上を目指せる訳じゃねぇから、諦めた奴は下を見てあれこれしてプライドを保とうとすんだろ」


「…………そうだったな」


「お前の場合は、それを家の同世代の連中にも強要してたんじゃねぇの?」


これまた図星を突かれ、上手く言葉が出てこなくなる。


「まっ、お前はコミュニケーションが得意なタイプじゃねぇみたいだし、背中だけ見せてれば良いんじゃねぇの。とりあえずな」


「背中を、見せる?」


「他の同世代の連中が、自然とお前の背中を見て憧れ、誰かに言われる訳じゃなく、その背中を追おうとする……そういうのを目指せば良いんじゃねぇの? それだけ強くあることに拘ってんなら、そういった背中を持つ奴を見たことあるんじゃねぇのか」


「………………」


過去を思い出すと……確かに、薄っすらと記憶に残っている強く、雄大な背中があった。


「不器用な奴には、不器用なりのやり方ってもんがある。俺のアドバイス通りに動くか否かはてめぇ次第だけどな」


言い終えると同紙に、ガルフたちから拍手が起こった。


「な、なんだよ。いきなり拍手なんかしてよ」


「い、いや、そのなんて言うか……つい拍手したくなったというか」


「うむ、ガルフと同じ気持ちだ!!」


「私もだね。同じ歳のはずなのに、イシュドが十は歳上の熟練者? の様に感じたよ」


淡々とディムナの疑問に対して答えを口にするイシュドの姿は……まるで酸いも甘いも経験した大人であった。


「あっそうかよ。別に褒めたところで何も出ねぇからな」


「はっはっは! そう照れずとも良いだろ。しかし、背中で見せる……魅せるか…………確かに、俺にも記憶はあるな」


「イシュドも、そんな背中を見たことがあるの?」


「背中は…………ねぇな。なんつ~か、ガキの頃から強くなることにただ夢中だったからな。けど、やっぱロベルト爺ちゃんの強さに憧れは持ったな」


子供の頃に感じた、明確な強さ。

その衝撃は今でもイシュドの記憶に、強烈に残っていた。



「ふぅ~~、さっぱりした~~~……ん?」


大浴場から出て自室に向かおうとすると、不安な顔をしながら話す若い執事たちの姿を見つけた。


「おい、お前ら。何あったのか」


「あっ、イシュド様! その……実はですね」


話を聞いたイシュドは執事たちに礼を言い、四人を先に自室に返し、ある場所へ向かった。

そこは……兵士や騎士たちの宿舎。


「イシュド様、こんな時間にどうされましたか」


「執事たちから、若い連中が面倒なモンスターに襲われたって聞いた。そいつらは何処にいる」


「っ……案内いたします」


宿舎のロビー的な場所に向かうと、襲撃に合った者たちが他の兵士、騎士たちに今日の経験談を……遭遇したモンスターの危険度を伝えていた。


「よぅ、その話ちょっと聞かせてくれるか」


「い、イシュド様!!!??? え、えっと……か、かしこまりました」


自分たちの恥を晒す様な形ではあるが、それでも当主の息子に尋ねられては、話さない訳にはいかない。


「二本の大剣を振るうオーガ、か」


「えぇ。しかし、あれは普通のオーガでは、ありませんでした」


隊長として行動していた騎士は、拳を強く……強く握りしめながら口にした。


帰り際に襲撃に合った部隊は、幸いにも死者は出なかったが、一名が左腕を欠損してしまった。


「…………」


「あ、俺は大丈夫ですよ!! 利き手は右なんで、まだまだこれからも戦えますから!!!!」


イシュドから視線を向けられた新米騎士は、笑顔を浮かべながら右腕で力こぶを作ってみせた。


そんな姿を見て、まだ騎士として萎えていない闘志に感嘆を覚えながら、イシュドは一つのマジックアイテムを取り出した。

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