第126話 認めるしかない

「世の中、全員が全員上を目指せる訳じゃねぇ。そりゃ仕方ねぇことではあると思うけど、そのしわ寄せが平民に来ないように努力する……ぐらいはあんたらが背負うべきあれになるかもな」


「眼を背けちゃならない現実ってやつだなぁ…………仮によ、仮にだぜ? イシュドがどうこうしようって思ったら、どうするんだ?」


「はっはっは!!! フィリップ~~~、それを聞いちまうか?」


人が見れば、悪魔……鬼とも思える顔になるイシュド。


「俺個人の金は結構あるんだよ。それで裏の連中を雇って情報を集めて、片っ端からぶっ殺していく。場合によっては、裏の連中に追加で金を払って、死んでしまいたくなるような地獄を見せてから、ぶっ殺すのもありだな」


「そいつはぁ……あれだな、血の海ができるな」


「まさにそうなるだろうな。ん? なんだよ、デカパイ。やり過ぎだってか?」


「……半々、ですわね」


「へぇ~~~。そりゃ結構だ。ここでお前が俺の考えを全否定してたら、今後の付き合いを考えなきゃいけねぇところだったよ」


過激すぎる思考?

確かに一般的な貴族たちからすれば、確証足り得る情報を得れば、後は暴力で解決。

それはなんとも野蛮であり、蛮族と呼ばれても仕方ない。


ただ、貴族という存在の全てが善でないことを……この場にいる全員が知っている。


「これまで散々平民や、自分よりも立場が弱い連中に理不尽を押し付け、地獄を味合わせて来たんだ。なら、それが自分に跳ね返って来ても、なんらおかしくはねぇだろ」


「……立場的に、私はその考えを控えるように口にしなければならないのだろうけど……被害を受けた者たちは、それを望むのだろうね」


「…………王子様よ~。俺、割とお前がそういう考えが出来るところ嫌いじゃねぇけどよ、実家とか学園に戻ってから、うっかりそんな言葉を零すなよ。どうせ周りのバカはうちに原因があるんだ~~~!!! って騒ぎだすんだからよ」


被害妄想が過ぎないか? とツッコみたくなる内容ではあるものの、それが容易に想像出来てしまい、アドレアスは苦笑いしながら頷くしかなかった。


「勿論、気を付けるよ……けど、君の言う通りそれは私たちがこれからも眼を逸らしてはいけない問題なのは間違いない」


「……イシュド。あなた、それに関しても何か解決策が思い浮かんでるのはなくて?」


「デカパイ……てめぇなぁ、俺をなんだと思ってんだ。神や仏、仙人じゃねぇんだぞ」


「狂戦士の皮を被った、非常識な狂戦士ではなくて?」


狂戦士でありながら、狂戦士らしくない一面もある……という点を考えると、ミシェラの言葉は割と間違ってはおらず、その狂戦士であるイシュドも返す言葉が直ぐには浮かばなかった。


「チっ……現実的がどうかはしらねぇ。つか、どう考えてもアドレアス、お前ら王家に…………つか、貴族も含めて喧嘩売ってる発言になるけど……お前ら、元を辿ればただそれなりに優秀な人間ってだけだからな」


元を辿れば……それは禁忌とも言える発言。

現在イシュドたちがいる場所はレグラ家の領地内。

ここでは言い返したければ実力で捻じ伏せろ!!! といった感じの文化があるため、誰も反論することはないが…………ガルフを除き、全員渋く……苦々しい表情を浮かべていた。


「イシュドよ。お前の言いたい事は……肯定してはダメなのだろうが、ここは敢えて解ると言わせてもらおう。しかし、貴族は有している土地一帯を治め、王族は国を治めている。この点に関しては、どう考える」


「そりゃ生まれた時から長男とかは、そういった教育を受けるわけだろ。教育を受けたなら、出来なきゃダメだろ。絶望的に魔法の才がない戦士職の奴に、魔戦士や魔剣士になれって言ってる訳じゃないんだからよ。そりゃあ、実際に出来るか云々は置いといて、平民でも教育を受ければ領地でこういった問題が起きた時はこうして、普段はどういった業務から進めてとか、問題に対して答えは出せるようになるだろ」


命を懸けた実戦と同じく、絶対的な答えがあるとは言えない。

複数の正解がある場合も考えれば、決して簡単な仕事とは言えない。


しかし……おおよその正解というのはある。


「なっはっは!!!!!! いやぁ~~、マジで最高過ぎるぜイシュド!!」


「だろだろ。まっ、さすがに学園とかで口にしたら、レグラ家対他で全面戦争待ったなしだろうから、言わねぇけどな」


負ける気はしないが、それはそれ。

本当にそんな事になれば、レグラ家側から参戦する者たちが……必ず誰かは死ぬ。


戦う者としてそこを気にする者はいないかもしれないが、イシュドは少なくとも自分の行動が発端となってそうなるのは一応避けたい。


「そうしてくれると助かります、イシュド君」


「わぁ~ってるよ、会長パイセン。後は……これもさっき言ったが、自分たちが魔力とか実力とか、そういう面で平民より優れてるのは、優秀な血に優秀な血を混ぜてきて、子供の頃から良い教育を受けてきてるんだから、それは当たり前で誇りはしても威張る事ではないんだよって理解するこったな」


「……あのさ、イシュドもこう……自分の実力に自信? みたいなのはないの?」


「自信はあるぜ、ガルフ。けど…………あれだなぁ、ロベルト爺ちゃんともうちょい戦いらしい戦いが出来るようになったら、ちょっとは胸を張れるだろうな」


ロベルト爺ちゃんという人物名を聞き、その人物を知らない約二名以外は……何故か急に体が震えた。


「ロベルト爺ちゃんとは、イシュドの祖父かな?」


「曾祖父だ。面倒だから爺ちゃんって呼んでるだけだ」


「なるほど。ところで……その、話の口ぶりからして、イシュドがその方と戦っても、まともな戦いにならないといった様に聞こえたのだが……」


チラッとガルフたちの方に視線を向けるアドレアス。


すると、同級生や先輩たちは揃って首を縦に動かした。


「「っ!!!!!?????」」


ディムナもエキシビションマッチの内容は今でも脳裏に焼き付いており、思わずフィリップが笑ってしまうぐらいクールな表情が崩れた。


「えっと、あの時イシュドは本気で戦ってました。それこそ、武器は木製ではなく刃が付いた一品で、スキルや魔力も惜しむことなく使っていました」


「そんでやっとこそ、ちょっと切って……後は軽い内出血ぐらいだったか? そんぐらいのダメージしか当たられなかったからな~。後何十年かかる事やら」


曾祖父の方はあと数十年も生きるのか? というツッコミすら浮かばないほど、がっちりと固まってしまっていた。

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