第77話 信じていたから

「あぁ~~~~、死んだ死んだ。殺られたぜぇ~~~~」


「い、イシュド……だ、大丈夫なんだよ、ね?」


「ん? おぅ、勿論大丈夫だぜ。見ろ、この鍛え上げられた筋肉を!!!!」


腕をまくってモリモリな上腕二頭筋を見せるイシュド。


「あ、うん…………い、いつも通りムキムキだね」


「だろ!!!!」


だろ!!!! ではない。

イレギュラー過ぎる生徒と侍臨時教師の戦いはとても異次元な内容であり……そして最後は中々にショッキングであった。


この中には当然ながら、人の死を見たことがある生徒もいる。

身内の死……あるいは自分や身内の命を狙って来た輩たちの死。


そういったモンスターではなく人の死を見てきた者もいる……が、逆に見てきたことがない者もいる。

見てきた者であっても、クラスメイトがバッサリと斬られた光景を見せられれば……とりあえず呼吸が浅くなってもおかしくない。


「いやぁ~~~、ぶっちゃけ受け流された後の攻撃は我ながら見事なもんだと思ったんだけどな~~~。まだまだ俺も甘いってことだな」


「そんなことはないよ、イシュド君」


先程イシュドの右半身をバッサリと斬り裂いた侍、シドウはイシュドの動きに甘さ……未熟さはなかったと口にした。


「強いて言うなら、俺が君の腕前を信じた。だから、あの死合いは俺が勝てたんだよ」


「でも、最初の受け流し、あれ俺は絶対に燕返しだと思ってましたよ」


燕返しは単純な攻撃技でもあるが、熟練者はカウンター技としても使用することがある。


「あっはっはっは!!! それを知ってるだけでも……あれだね。イシュド君は相当侍が、刀が好きなんだね」


「はい!!!!!」


死合い前の狂気的な笑み、死合い中のまるで自身が刀であると示すかのような鋭い威圧感とも違い……歳相応な少年と青年の笑みが混ざった、純粋な笑顔。


それはそれで、いったいどれだけの顔があるのかと怖くもなるが、異国の地の青年が自身の国出身の職業、武器に興味を持ってくれているのは、素直に嬉しかった。


「あ、あの…………」


シドウの妹であるイブキは……イシュドに兄が馬鹿な事したと、謝りたかった。

しかし、同時にイシュドの覚悟が本物であることも解っていたため、なんと言って良いのか分からず、喉から言葉が出てこない。


「いやぁ~~~、あんたの兄ちゃんマジで強いな!!!」


「あ、はい」


「ほら、やっぱ刀って基本的に一発で決められた方が良いじゃん。だから、ぶっちゃけ居合斬り一発で決められたら良いななんて考えてたんだけど、マジで隙が無くてさ~~~~~」


一度自分が死にかけた……死んだことなど、全く気にしていないあっけらかんとした顔でシドウの凄さを語るイシュドの姿を見て……ようやく緊張が解けた。


「そう言ってもらえると、妹として幸いです」


「ほんと、マジで強かったぜ。多分……うちの一個上の兄貴には勝つんじゃねぇかな?」


「イシュド、話は後にしろ。本来、今は戦闘訓練の時間ではない」


「えぇ~~~~、良いじゃないっすか。今から戻っても中途半端だし、このまま戦闘訓練にしましょうよ~~~」


「…………」


一応、イシュドは自習にしましょうよと言っている訳ではない。


だが一教師として、あまり生徒の一言で授業内容を変えるのは良くない……良くないのだが、今から教室に戻って座学の授業を始めるにしても……確かに中途半端であった。


「……そうだな。では、これからイシュド以外にも、シドウ先生の……侍の力を体験してもらおうか」


「任せてください! 皆、安心して掛かってきてくれ。さっきの死合いは本当に特別だから、脚や腕が飛んだりすることはないよ」


シドウなりに恐怖心を和らげようとしたのだが……あまり効果はなく、結果として普段通りの姿勢でシドウとの模擬戦に臨めたのはガルフを含めてたった数人だけであった。



「だっはっはっは!!!!!!!!! い、イシュド…………お、おめぇぶっ飛び過ぎだろ……ぶっ、はっはっは!!!!」


昼食時、その時には既にイシュドは臨時教師として他国、異国の地から赴任してきた者に負けたという話が広まっていた。


そして……何故臨時教師であるシドウ・アカツキと戦うことになった経緯を本人から聞いたフィリップは……当然の様に大爆笑。


「フィリップ、笑い事ではありませんわ!!!!!!!」


だが、同じく本人から詳しい内容を聞いたミシェラの反応は違い、何とも言えない怒りが溢れ出していた。


「い、いやぁ~~~、だってよ~~~~~。普通、臨時教師として赴任してきた人に、いきなり命懸けの勝負を申し込んだりするか?」


「それは……しませんわね」


「だろ。百歩譲って、親の仇とかならまだしも、全くもって無縁だったんだろ、イシュド」


「おぅ。うちの家族は皆ぴんぴんしてるぜ」


もりもりと、どう見ても一人前以上の肉を食べていくイシュド。


その隣では……その際の戦闘光景、最後の光景を思い出したガルフがやや青い顔になるも、食べるのもトレーニングだと教わっているため、同じく肉を腹に入れる。


「んで、文字通り死にかけたと」


「そうそう、死にかけたっつ~か、ありゃ完全に死んだな。あそこから完全復活できるとか、さすがエリクサー様々って思ったな」


「ッ~~~~~~~~~~!!!!! ……イシュド、あなた一度死にかけたのですよ。もっとこう…………何かないのですの」


「何かねぇのかって言われてもな。ぶっちゃけ、これまでに死にかけたことは何度かあるし、そもそも普通の試合じゃない本気の死合いをしてくれって頼んだのは俺だからな……特に思うことはねぇって言うか。ただ嬉しかったつ~か、楽しかったっつ~かって感じだな」


「…………そうでしたわね。あなた、普通じゃありませんものね」


「はっはっは!!!! んだよ。そんなの、超今更な話だろ」


良くも悪くも捉えられる言葉に対し、イシュドは全く否定しなかった。

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