第76話 臨死体験?
(普通ではない……そんな事は奴が入学してから解っていたこと……あの激闘祭での戦いを観て、より深く理解した筈だったが…………まだ、完全には理解していなかったということか)
バイロンはイシュドの職業、入学時のレベルを把握している。
そしてシドウの職業、レベルも把握している為……普通にいけば、シドウが有利なのは明白である。
変革の狂戦士という名に相応しく、狂戦士らしくない戦い方も出来ているが……それでもシドウとの死合い始まってから、イシュドは狂戦士の真骨頂であるバーサーカーソウルを使用していない。
使用すれば、他の武器よりも技術、ブレないメンタルが必要な刀を扱う場合、寧ろバーサーカーソウルによる狂気の暴走は邪魔になる。
そんな予想ぐらいは立つが……まだ十五の子供がそれを忠実に守れるのかと、バイロンは再度イシュドの精神年齢を疑いたくなった。
(加えて、死合いが始まる前まではあれ程凶悪な笑みを浮かべていたというのに……鋼の精神というべきか、それともただの戦闘バカなのか…………全く、本当に学生らしくないな)
言いたい事はぽろぽろと出てくるが、それでも一戦闘者として、侍としてのイシュドとシドウの死合いが観れるのは……幸福と言えた。
(妹に勝てる同級生が、いるのか、怪しいと思ってたけど……は、ははは!!!! やはり異国の地!!!! まさか学生の中にも、侍がいるなんてね!!!!!)
※イシュド・レグラが異常なだけ。
異国の地からの留学の提案。
武者修行の為に大和を巡り歩く。
異国の地へ向かう者は確かにいる。
イブキにその話が来た時、シドウにも臨時教師の提案が来ていたため、大事な妹ということもあり、イブキが留学するなら自分も向かうつもりだった。
ただ、一つ心配なことがあった。
同じ歳の者たちの中で、妹のイブキと互角に渡り合える者がどれほどいるのかと。
贔屓目なしにイブキは同世代の中でダントツに強い、というシドウやその他家族の認識は間違っておらず、子供の頃から真剣を使わない試合で男子を倒す、よく泣かせていた。
暴れん坊将軍女バージョン……という訳ではないのだが、とにかく明確な才とたゆまぬ向上心を有していた。
(どれだけ死ぬ気に、なろうとも。命を投げ出したとしても、イブキは彼に……イシュド君に、勝てないだろう)
刀を扱う職業に就いていない。
にもかかわらず、自分に付いて来れるだけの刀技の腕を持つ。
そして死合いが始まれば己の刀技を活かしきるために、狂戦士としての狂気を殺し……侍として全力で刀を振るう。
(何と、言うか……ただ、嬉しいね)
予想外の強者が本来の形ではないとはいえ、全力で立ち向かってきてるから?
異国の地の者が、侍という存在に憧れてくれているから?
戦いの……死合いの最中ということもあり、考えが纏まらない。
それで良かった。
今はただ、目の前の侍を一人の侍として倒さなければならない。
「「ッ!!!!!!!!!!!」」
先手はイシュド。
ただ斬るだけではなく、断ち斬る……理合いの中に剛力を持たせた、ある種の理想の一刀。
このまま当たれば、シドウの刀を切断。
それが無理でも、刃を欠けさせることが出来る。
(っ!? 燕返しか!!!!!)
シドウの名刀に触れた瞬間、刀の軌道を変えられた。
(ま、だだッ!!!!!!!!)
レグラ家に本当に多くの者が集まる。
中にはイシュドと同じく……異国の地に存在する侍に強い憧れを持つ者もおり、自身の戦斧を燕返しで受け流されてしまった経験は既に体験済み。
(轟破裂断ッ!!!!!!!!)
本来は上段から刀を振り下ろし……敵を一刀両断、文字通り真っ二つにする一撃。
扱う刀は……現在イシュドが使用している名刀よりも刃が長く、分厚い刀の方が合っている。
だが、体を一回転させ……大地を踏みしめながら、変則的な形で刀技、轟破裂断を放った。
(やっぱり、ね)
「っ!!??」
シドウの刀が防御に間に合おうとも、負けるつもりはなかった。
受け流しも間に合わない。刀技、燕返しも完璧な技ではなく、技量以上の力を持つ攻撃を全て受け流せるわけではない。
(くそったれがっ!!! さっきのは、ただの受け流し……く、そ…………)
理合いの矛盾を一つにまとめた一刀を受け流した動き。
あれは燕返しではなく、ただの受け流しであり、燕返しを使用したというのは、イシュドの勘違い。
轟破裂断を受け流した技こそ、燕返し。
体勢を崩しながらも放った渾身の一刀は見事受け流されてしまい……体の右半身を
両断された。
「ッ!!!!!!!!!!!!」
ただ二人の戦いに魅入っていただけではなかったバイロンは即座にその場から駆け出し、エリクサーをイシュドに浴びせ、切断された体を押し当てる。
ギリギリ心臓には大きな傷が付いていななかった。
右肺は思いっきり切断されてしまったが、再生効果まで有しているエリクサーを使えば切断された部分を再生することも出来るが……右部分が残っていれば、それを押し当てることで回復の時間がより短く済む。
つまり、首や心臓を切断されたわけではなかったので、そこまで焦る必要はなかったのだが……教師であるバイロンにそこまで冷静に考えて対処しろというのは、無理な相談であった。
「っ………………はぁ~~~~~~。負けたか………………クッソが」
「はっはっは! 今死にかけた……いや、正確には死んだっていうのに、本当に元気だね」
「いや、だってバイロン先生にエリクサーを渡してたんですから、大丈夫なのは解ってたし」
(大丈夫なのは解ってた。だからといって、本当に死んだことに対する恐怖がないのは、ちょっとおかしいと思うんだよね。普通ならこの後スランプになったり調子崩したりしそうなんだけど……この子、全く強がってる気がしないんだよね。というか、本当に刀をメインに戦う職業に就いてないんだよね?)
死合いに完全集中していた為、重要なことをすっかり忘れていたシドウ。
死合い中はただただイシュドの刀技に美しさ、敬意すら抱いていたが……改めて振り返ると、とても狂戦士が振るう刀技のレベルではなかった。
(ふ、ふっふっふ……これは、大和に帰る時に良い土産話になりそうだね)
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