第26話 侮辱ではないよ?
「き、さまぁ…………私を侮辱しているのかっ!!!!!!」
「いやぁ~~、別に~~~~。全くそんなつもりはないっすよ。ただ、面白そうだな~~~って思っただけっすよ~~~~」
チャラチャラした言葉でニヤニヤと笑みを浮かべ……片手で器用に細剣を回転させて遊ぶイシュド。
当然ながら……この行為に対して、対戦相手であるハスティーだけではなく、観客席の生徒たちの怒りも買い、大量にブーイングが飛んでくる。
「おい、イシュド。本当にその武器でハスティーと戦うつもりなのか?」
「はい、そうですよ。武器の選択って自由ですよね。そっちの先輩から武器の指定はされてないし」
「…………解った。自由にしろ」
今回審判を務める教師はムキムキなマッチョタイプ。
厳つい体育教師の様な見た目であり、どちらかと言えばハスティーの様にイシュドを辺境の蛮族と呼ぶタイプのクソガキは、できれば殴り潰して教育的指導を実行したいと考えている。
しかし……そういった考えを持ちながらも、積み重ねてきた技術や執念はきっちりと認めている。
ハスティーの細剣技の腕に関しても、当然認めている為……イシュドの自分の土俵以外の分野で戦うという行為に関しては、少なからず怒りを覚えた。
とはいえ、教師としてそういった部分をどうこう訂正させる権限などある訳がなく、ただ審判としての責務を果たすのみ。
「貴様、後から言い訳を口にしないでくれよ」
(……貴様って、確か漢字だとあなたさまって読めるんだよな? 日本人の勝手な解釈なのか良く解らないけど、なんか笑っちゃうな)
全くハスティーの言葉が耳に入っておらず、一ミリも関係無い事を考えていた。
その様な態度が癪に障らないわけがなく、ますますハスティーの怒りのボルテージは高まるばかり。
「試合…………始め!!!!!!」
「…………シッ!!!!!」
それでも、そこは既に騎士団からスカウトされた学生。
怒りを持ちつつも、雑に攻め込むことはなく……これまで見た試合から、様子見で強化系のスキルを使わないのは愚策と判断。
身体能力を纏い、開始早々怒涛の連続突きが放たれる。
全体的に突きが飛んでくるかと思えば、一か所に集中……即座に再び全体的に急所を狙われる。
敵の思考、対応策を読むかのように突く場所やタイミングを変えていく。
(クっ……やはり、身体能力では上をいかれているか!!!!!)
悔しい事に身体能力は上だと冷静に判断。
それでも……繰り出す連続突きは紙一重で躱されている。
決して当たらない訳ではないが……その薄皮一枚の距離が詰められない。
それが身体能力や反応速度に関して、一朝一夕では越えられない差。
だが、それは技術で埋められる。
埋められるだけの力が己にはある。
ハスティーは細剣技以外にも魔剣技のスキルを習得している。
その結果、武器を使用する際に特定の属性魔力を纏う事が出来る。
ハスティーの場合……水魔法のスキルも習得しており、魔剣技によって扱える属性も水。
武器に属性魔力を纏わせるといった技術、威力に限ればハスティーは同じ条件の者たちよりも一歩先を行っている。
(この感じ、魔剣技のスキルで得た属性が水で、習得している魔法の方も水か……なるほどねぇ~~。観客の学生たちが、ここまでこの先輩を応援するのも納得だな。ついでに、この先輩がある程度イキってるのにも納得だ……この技術だけに限れば、確実に金髪ドリルロールより勝ってるな)
細剣に強力な水を纏ったことで、ハスティーの攻撃範囲はグッと上がった。
水の斬撃刃は風の斬撃刃と同等……使い手によってはそれ以上の切れ味を持つ。
小さな動作から放たれた斬撃刃であっても、決して無視できない。
(っ……先程までの動きが、限界ではなかったのか!!!!!)
埋まると思っていた。
薄ら笑いを消して、焦りを引きずり出せると思っていた。
しかし……水を纏う事によって増やした攻撃、全てが変わらず紙一重の差で避けられ続ける。
「三連突き!!!!」
「…………うん、やっぱり金髪縦ロールと同じで、偉そうな態度を取るだけの実力はあるっすね」
「嘗めた、口をっ!!!!!」
「んじゃ、そろそろ俺も動きますか」
やせ我慢、強がりなどではない。
イシュドはハスティーの鋭い刺突や妨害の意図を含んだ斬撃刃などを躱すことに精一杯だったのではなく……これまでの経験と身体能力と反応速度、それらを無駄なく活用することで属性魔力を纏った攻撃を紙一重で避けるという離れ技を実現させていた。
「なっ!? ぐっ!!! き、さまっ!! これ、は……ふざ、ふざけるな!!!!」
「おいおいメガネ先輩、俺は何もふざけてねぇ~ぜ~~??」
イシュドは細剣を無茶苦茶な体勢、無茶苦茶な角度から振るって変則的な攻撃でハスティーを攻めているのではなく……至って真っ当な攻撃方法で追い詰めていた。
「「「「「「「「「「っ!!!!????」」」」」」」」」」
この光景に、審判の教師も含めてイシュドが関わった件の中で……過去最高の驚きを体験。
「…………ガルフ、お前はイシュドがここまで出来ると知っていたのか?」
「その、話だけは……聞いてました。ただ、聞いてた話よりも、腕前が異常と言いますか……」
「安心しろ、俺も同じ気持ちだ」
就いている職業に適した以外のスキルを習得することは、決して不可能ではない。
ただ、職業に適したスキル程の成長率は見込めない。
しかし……イシュドが振るう細剣技の腕は、明らかにそのレベルを越えていた。
「はぁ、はぁ…………貴様、なんなのですか」
「何なのですかって、もうちょい中身を言ってくれよ。それだけじゃ何が訊きたいのか解かんないっすよ」
「っ!!!! 何故、辺境の蛮族如きが!!!! 蛮族、如きが……」
最後まで声に出せなかった。
優れた細剣技の腕を持っているなど、口に出してしまえば本当に認めてしまうことになる。
既に多くの学生たちが目の前の事実を飲み込めないながらも、確かな絶望を感じていた。
そう……単なるプライドの問題だった。
「ん~~~~~……あれだな。まず、あんたは辺境の蛮族ってレグラ家を総して呼んでるみたいだけど、まずそこが違うんだよ。平民が受けられない超高度な教育を受けてるくせに、そこら辺……結構馬鹿だよな」
どストレートな暴言、見下し発言。
今すぐ斬り掛かりたい衝動に駆られるも、まだ訊きたい事を訊き終えていないため、ギリギリ理性が本能を抑え込んだ。
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