第25話 話が早い
「はいはい、とりあえず生徒会長さんがどれだけ覚悟を持って頼んだかは分かった。とりあえず、俺はそういう頼みをするつもりはねぇから」
「そ、そうですか」
「ったく……まっ、こいつを返してほしいなら、前と同じので十分っすよ。会長、財布の中身は十分っすか?」
「ぐっ………………そ、それ以外の要望は、ないのですか?」
「そっすね。ぶっちゃけなくはないっすけど、諸々の事情でそれらは無理なんで、消去法的に飯一択っすね」
先日、輩一と二を助ける形で……クリスティールは王都でも指折りの名店で、イシュドとガルフに高級料理を奢った。
結果……人生で上位に入る衝撃を受けた。
「会長、外食を奢るくらいなら、無理な範囲じゃないんじゃないですか?」
「…………前回、これぐらいの値段になったんです」
「「「っ!!!!????」」」
テーブルの上に指で書かれた金額に、役員三人は絶句。
そして即座に「こいつマジか!!!???」といった顔を主犯格のイシュドに向ける。
「先輩たち、面白い顔になってるっすよ」
「……き、君は……遠慮という、ものを、知らないのか」
「いや~~~、折角生徒会長さんが奢ってくれるんすから、遠慮する方が失礼じゃないっすか」
顔を潰さないという意味では正しいが、イシュドの場合は……完全に食べ過ぎである。
まだ懐に金はあるものの、次……同じ量を食べられては、完全に払いきれない。
であれば、高級料理店でなければ良い? 残念ながら、イシュドが求めるランクはそういった店のみ。
「というか、今回は諦めたらどうっすか? 会長さんがそこまでしようとするのは感心というか、ちょっとびっくりっすけど……ミシェラ・マクセランにとっても、自分で取り返す方が良いと思うっすよ」
「もう一度挑戦を受けるのですか?」
「できれば、前回戦った時よりも明確に強くなっててほしいっすけどね」
イシュドからすれば、用意する物を用意してくれれば再挑戦はいつでも大歓迎である。
「そういう訳っすから……まっ、またご馳走してるぐらいお小遣いが溜まったら声を掛けてください。ミシェラ・マクセランの頼みじゃなくても、奢ってくれればちゃんと返しますよ」
「そう、ですか…………」
「はぁ~~~~、食った食った。美味かった!!! なぁ、ガルフ!!」
「う、うん。とても美味しかったです」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
和気藹々とした雰囲気……ではなかったものの、それなりに面白く刺激的な昼食が終了。
もう用がなくなったこともあり、イシュドは生徒会室から出ると……数人の男達が待ち構えていた。
「イシュド・レグラ、ですね」
「そうっすけど……えっと、先輩? にあたる人っすよね」
制服の色の差異で先輩か同級生が区別が付く。
イシュドは先輩だと解ったため、一応敬語? で話すが、その馴れ馴れしい……もしくは砕け過ぎた態度がネルスと同じくメガネな先輩の癇に障った。
「ふんっ!! やはり蛮族は目上の人間に対して、まともな言葉遣いも出来ないか」
「…………ガルフ、この先輩めんどくさい人だな」
「えっ!? え、えっと………ど、どうだろう?」
同意を求めないでほしいガルフ。
相手が先輩×貴族の令息のコンボであるため、間違ってもイシュドの言葉に同意は出来ない。
「つか、俺そういう話に時間費やすの好きじゃないんで、さっさと本題に入りましょうよ」
「いいでしょう……私と決闘を行ってもらう」
「俺が勝てば?」
「万が一にもあり得ないが、その時はこれを渡そう」
アイテムポーチの中から取り出された箱には……十枚の白金貨が入っていた。
(へぇ~~~、美味い飯を食うには十分な額だな)
勝利の報酬としては申し分ない。
「用意が良いっすね。んで、俺が負けた場合は何を差し出せば?」
「その指輪だ」
「ん? これか……先輩、あのツンツン金髪縦ロールの兄貴? それとも婚約者?」
「違う!!!! わ、私は……その、あれだ……」
「あ、はい。何となく解ったっす」
「な、何が解ったと言うんですか!!!!」
最後のセリフで完全に察してしまった。
全く関係無いガルフですら、何故メガネ先輩が挑んできたのか理解し、貴族の令息は令息で大変なのかもしれないと感じた。
「とりあえず、戦るのは今日の放課後でいっすよね」
「えぇ、それでいいでしょう」
決闘を行う訓練場を決め、最後に……丁度後ろの教室にいる生徒会長に見届け人となってもらった。
これでメガネ先輩ことハスティー・パリストロンがイシュドに勝利すれば、前回の試合で手に入れたミシェラの指輪を渡す。
イシュドがメガネ先輩に勝利すれば、白金貨十枚を渡すことが決定。
放課後、イシュドとハスティーとのやり取りが廊下で行われていたこともあり、決闘の情報は直ぐに拡散。
決闘が行われる場所の観客席には多くの観客たちが集まっていた。
「……ガルフ、今回も……一応イシュドは悪くない、という事で合っているか?」
「えっと、今回に関してはあちらの先輩が決闘を申し込んで来ただけなので、全体的に……双方に問題はない形かと」
「そうか……イシュドへの報酬が決まっているのであれば、まだ安心して観てられるというものか」
今回も毎度同じく、ガルフの隣には担任のバイロンが座っている。
「あの、もしかしなくても……あの先輩は、非常に強いんですか?」
観客たちが輩一と二の時、ミシェラの時と同じ雰囲気であるのを察し、もしやと思い尋ねた。
「ハスティー・パリスロン。主に細剣を扱う名家の出身。その腕を買われ、既に騎士団への入団が決まっている」
「えっ!!!!???? に、二年生の内に決まる事って……あるんですね」
「そこまで珍しいことではない。毎年二年生の内に就職先が決まる者は何人かいる。とはいえ、細剣の名家というブランドを抜きにしても、ハスティーの技量は見事の一言だ。技量だけであれば、既に現役の騎士と比べてもなんら遜色ない」
「っ!!!!」
バイロンがケチることなく素直に褒めた。
この時、ガルフの脳裏にイシュドが負ける可能性が過った…………が、リングで両者が構えた瞬間、ガルフだけではなくバイロンも驚き固まった。
「…………バイロン、先生。あれは……ちょ、挑発なんでしょうか?」
「……挑発であれば、ハスティーにとってこの上ない侮辱と言えるだろう」
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