第22話 怪物爺に勝つには
外出届、外泊届を出したイシュドはガルフと共にマジックアイテム、空飛ぶ絨毯に乗って高速移動した後……とある森へと降り立った。
そして初っ端からゴブリンの上位種と遭遇し、実戦がスタート。
とはいえ、今回の休日で主に戦うのはガルフ。
「せやっ!!!!」
「ギャウっ!!??」
現在、既にゴブリンの上位種は倒し終わり、新たに遭遇したコボルトの上位種たちと戦闘を繰り広げている。
(うんうん、やっぱり良い感じに戦えてるな。確か、剣士から闘剣士に二次転職したんだったな……剣技の腕だけじゃなくて、五体を使った攻撃も様になってる。まだちょっと硬さはあるけどな)
闘剣士は軽剣士や騎士と比べて剣技の技量はやや劣るものの、身体能力や五体を使った攻撃力は勝る……剣という武器がなくとも最後まで戦い抜ける職業、と言える。
「っし、ちょっと休憩にするか」
「う、うん……ふぅ、ふぅ…………こいつらも、剥ぎ取って良いんだよね」
「当たり前だろ。お前が倒した相手なんだ、牙や爪、皮も骨も全部ガルフのに決まってるだろ」
寮で生活を送る為、基本的に生活費は心配する必要はないが、個人的な買い物は個人の財布から出さなければならない。
ガルフは一応冒険者ギルドに冒険者として登録しているので、ギルドで素材を売却して買取金額を得ることが出来る。
「ロングソードから拳に攻撃を切り替えるのは良かったが……こう、もっと自然体に出来れば良いな」
外から見ていた感想を伝える……だけではなく、目の前に敵がいると仮定し、実際にロングソードを持って実演を行う。
「こんな感じで、ロングソードを逆手に持って殴るのもありかもな」
「なるほど……でも、殴る時に邪魔にならないかな?」
「カウンター一撃だけであれば、そこまで小難しく考えなくて良いんじゃねぇか? それに、パンチってのは拳の中で何かを握ってた方が痛いぜ」
「そう、だったような…………確かに、それならわざわざ手放すんじゃなくて、逆手持ちにして殴るのは……ありだね」
「そうだろそうだろ。そうだな……どうせなら、実演してみるか」
「えっ?」
ガルフが首を傾げた瞬間、一体のCランクモンスター……フォレストグリズリーが木影から現れ、二人に襲い掛かる。
「グゥアアアアアッ!!!」
「いくぜ、見てろよ」
最初の数回だけ剣戟で相手をし、その後フォレストグリズリーの爪撃を手甲の部分で弾き飛ばし、ロングソードを逆手に握った右拳を喉元に叩きつけた。
「ゴっ!? ガ、ァ……」
「どうだ? もし心配なら、刃に魔力を纏わせておけば良い。角度とか心配する部分はあるだろうけど、とりあえず問題無い……と思う」
考え、思い付いたことの大半を鍛え上げた筋肉で実行してきたため、友人へのアドバイスはやや自信が薄い。
「……イシュドってさ、筋肉で相手を潰すのが好きなんだよね」
「まぁ、そうだな。概ね合ってる。武器を使ってぶっ潰すのは好きだが、それはそれでこれはこれって感じだ」
「それなのに、結構技術力が高いというか……そういう事に関しても頭が回るよね。なんで?」
純粋な疑問だった。
ガルフの故郷には冒険者として活動していた先生がいた。
今でもその先生には敵わないと思っている。
しかし……まだ底を見ていないにもかかわらず、先生がイシュドに勝つイメージが浮かばない。
イシュドからは、技術という武器を腕力という武器で破壊出来る力強さを感じさせられる。
「はは、確かに疑問に思うか。まっ、あれだ。俺が本気で殺しに掛かっても倒せない人としょっちゅう戦ってたんだよ」
「……そんな人、いるの?」
「いるいる、全然いると思うぜ。世の中本当に広いからな。その人は俺の曾爺ちゃんなんだけど、これが本当に強くてな……自慢の筋肉と身体能力だけじゃどうにもならないから、あれよこれよと考えて懸命に殺そうとしてたんだけど……まぁ~~~、勝てないよな」
信じられない物を見るような顔になるガルフ。
しかし、それはそれでイシュドが技術に関しても精通している理由として納得出来る。
「っと、今度はリザードマンか」
「……少し休憩できたし、僕が戦るよ」
「そうか? んじゃ、任せるぞ」
今日の昼食になるであろうフォレストグリズリーを解体しながらも、イシュドは万が一に備えて友人の戦いに意識を向けていた。
(あのリザードマン……さっきまでのコボルト、ゴブリンの上位種とは違うな)
イシュドからすれば数十体いようとも取るに足らない相手だが、レベル二十を越えているとなると……ガルフにとっては決して楽な相手ではない。
(さっきまでの戦いで多少はスタミナを消費してるだろうが………………はは、やっぱり面白いな!!)
ガルフは一度戦闘の最中にロングソードを逆手に持ち、リザードマンの腹にボディーを決めた。
そして数十回の攻防を終えた後、再び逆手に持ち替え……今度は殴ると見せかけてそのまま腹を斬り裂いた。
「ジャっ!?」
結果としてその一撃が戦況を大きく傾けることになり、最後は首を刎ねて終了。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ~~~~~~~」
「お疲れさん」
「ごめん……また休憩しても、良いかな?」
「とりあえず俺がフォレストグリズリーの解体が終わるまではゆっくりしてて良いぞ」
スタミナ切れで死ぬなど、愚の骨頂。
とはいえ……ガルフを鍛えたいイシュドとしては、あまり甘やかすつもりはない。
リザードマンの死体も含め、獣数分後には解体終了。
その後は移動しながら遭遇したモンスターは殆どガルフが連戦。
(さすがに、ちょっと……厳しい、かも)
Dランクのモンスターであれば、よっぽどレベルが高い特殊個体でなければ討伐は難しくない。
しかし、疲労が溜まった状態になると……複数のアイアンアントに殺られる可能性は決して低くない。
(まだ二体いるんだ。無駄を……無駄を、なくすんだ)
ガルフを思いっきり実戦で鍛えるつもりではあるものの、将来が楽しみな素材が死んでしまっては意味がない。
当然、本当にヤバい状態になれば神速の如きダッシュでモンスターを葬る。
だが……そんなイシュドの心の内とは裏腹にガルフは絶対に友人の助けを借りるつもりはなかった。
正直なところ、イシュドが何を考えているのか何となく解っていた。
それでも……イシュドとの出会いは紛れもないチャンスであり、わざわざ飛躍出来るチャンスを捨てるほどの根性ナシではない。
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