第20話 筋肉スタンプ

(旋風を纏いながらスキル技を発動出来てるってのを考えると、普通に考えればそれなりにやれるレベルなんだろうけど……あれだな、今後に期待だな)


これ以上は戦う意味がない。

そう判断したイシュドは今回の戦闘でようやく前に出た。


「がっ!!??」


斬撃の嵐をあっさりと掻い潜り、掌底を腹に叩きこむ。

後方に吹き飛ばされるほどの吹っ飛ばし力はなく、ふわっと飛ぶ程度……とは侮れない。


逆に大きく吹っ飛ばない程度に威力をとどめた事で、体に深く鈍くダメージが残る。


(い、いきなり速く……何か、スキルを使った?)


残念ながら、イシュドはスキルを一切使用していない。


ただギアを上げて斬撃を躱しながら前に進み、攻撃を叩きこんだ……ただそれだけ。

何か特別な事をしたわけではなく、普通に攻撃しただけである。


「はぁ、はぁ……」


「なんだよ、諦めねぇのかよ」


「当たり前、ですわ。この程度諦めて、たまりますか!!!!!!」


必死……から鬼気迫る表情へと変わる。


彼女の友人二人も、ミシェラのその様な表情は見たことがない……だからこそ、更に声を張り上げて応援を続ける。


しかし、現実は非常。

既に双剣の軌道を見極め始めたイシュドは難無くカウンターを叩きこむ。


「っ!!!!???? ッ、はぁああああああああッ!!!!」


「はぁ~~~、さっさと諦めてくれよぉ」


腹の少し上に蹴りが叩きこまれてもギリギリのところで踏ん張り、再び前に出て双剣を振るう。


(そういう趣味はないから、さっさと諦めてくれねぇかな~)


美女を虐めることに性的興奮を覚える者は確かに存在するが、イシュドに抱くことに興味はあってもそういうプレイには興味がない。


「ぐっ!!?? はぁ、はぁ、はぁ……どう、しましたの? これで終わりかしら」


「何が策があるならまだしも、そういうのないだろ。だったらその強がりもダサいだけだから、止めとけ」


根性は嫌いじゃない。

実際に最後まで諦めずに闘志を燃やしたからこそ勝てた実戦はある。


だが……いざ目の前で意地でも倒れないといった姿勢を取られると、現在の状況もあって非常にめんどくさい。


(……強制的に終わらせるか)


勝負には負けたくないが、対戦相手を虐める趣味はない。

そうと決めたイシュドの行動は今回の試合で始めてファイティングポーズを取った。


その行動に何を勘違いしたのか、ミシェラの闘志は更に高まる。


「よっ、と」


「っ、へ……っ!?」


ミシェラが双剣を振るう前にイシュドのジャブが放たれた。


ファイティングポーズから最も予想出来る攻撃ではあったものの、放たれたジャブは見る者によっては……芸術的な一閃だった。


「そこまで!!!!!」


顎の先端を揺らされたミシェラの視界は大きく揺れ、いつの間にか目の前に地面が攻めり、体に触れる。

次の瞬間には強烈なスタンプが頭の前に叩きこまれた。


「ま、待って、ください!! 私は、まだ!!!!」


「お前、それを見てもまだ戦えるって言えんのか?」


「それ、って……っ!!!!????」


最後のダメ押しとして放たれたスタンプはミシェラに触れていない。

しかし……倒れた際に頭があった場所の少し先に……くっきりとした靴跡があった。


「俺はお前を殺そうと思えば殺せたんだよ。これでもう解っただろ、どれだけ足掻いてももう勝てないって」


最後のスタンプがもし自身の頭に叩きつけられていたら、というイメージは容易に想像出来てしまう。


「先生、俺の勝ちってことで良いっすよね」


「あぁ、勿論だ。最後の踏みは少し焦ったがな」


「安心してくださいよ。別にこいつのことは殺したいほど憎いとかじゃないんで」


やる事が終わり、観戦していたガルフの元へ戻ろうとしたところで、何かを思い出し、敗北と恐怖に崩れ、震えているミシェラの元へ向かう。


「? ……ぁ」


「んじゃ、これは約束通り貰ってくぞ」


イシュドは一切遠慮せず約束していた指輪を抜き取り、持ち去っていった。


(お姉様との、思い出が……)


泣いてはダメだと……あの背中を追いかける者として、ここで泣き崩れている様では駄目だと、頭では解っていた。

それでも……どれだけ気丈に振舞おうと、立ち上がろうとしても、その涙は止められなかった。



「お待たせ」


「あ、うん。こ、今回も圧倒的だったね」


「学生の中では強いんだろうけど、うちの実家に所属している奴らと比べたらな……まっ、それなりに根性はあるみたいだし、一応強くはなれるんじゃないか?」


「…………」


「どうしたんですか、バイロン先生。そんな変な顔して」


「……お前はあれだな。容赦がないな」


試合を行うまでの流れで、イシュドが悪い部分は……一応ない。

加えて、試合の中では特に反則行為など行っていないため、非難される筋合いは一ミリもない。


「えぇ~~~、バイロン先生が優しすぎるだけじゃないですか? つか、顔を狙ってないだけまだ優しいと思うですけど」


「それもそうか……しかし、また明日から大量に申し込まれるだろうな」


「えっ、マジっすか?」


将来的には遊び相手になると思える素材であった。

本日の授業に戦闘訓練があったため、クラスメイトであればその実力の一端を間近で見ている。


そして今日の試合……内部進学生のエリートが倒されたとなれば、凡がいくら挑んだところで無意味だと悟るには十分。


「彼女を想う男子生徒は多いと聞く」


「……まさか、あいつに良いところを見せたいとか、そんな理由で俺に挑むつもりなんすか?」


「友人曰く、男が男を見せる理由としては十分らしいぞ」


「あぁ~~~………………一応、解らなくはないっすね」


今世では強さに対して学ぶことに時間を費やしていたため、これまで色恋に時間を使うことはなかったものの、前世では解らなくもない体験をしたことがあった。


(別に試合をするのは良いんだけど、そいつらは俺が満足する物を、対価を用意出来るのか? 死ぬ寸前まで追い詰められる恐怖に耐えられるなら別に用意しなくても良いけど……)


イシュドは自身に怒りをぶつける者たちに対し……とても冷めた視線を向けていた。


「……バイロン先生、ちょっとお願いしたい事があるんすけど、良いっすか」


小さな声で聞かされた提案を、バイロンは即座に了承。


後日……三十を超える男子生徒がイシュド一人に挑む、超変則的な試合が行われることとなった。

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