第7話 即購入
「れ、レグラ家!!??」
「そうだ。なんだ、これが偽物だとでも思うのか?」
「い、いえ! 滅相もありません!!!!」
屈強な体を持つ騎士たちに、箱を引くバトルホース。
そもそも門兵が鑑定のスキルを持っていることもあり、彼らが本当にレグラ家の人間だと疑う要素は全くない。
「……なんだが、外が騒がしいな」
「現当主である旦那様であっても、王都で開催されるパーティーなどに出席されることは珍しいですからね」
「なるほど。まっ、本当のレグラ家を知っているなら、あまり向こうから呼びつけようなどとは考えないか」
王都に入ってから約十分後、宿泊予定の宿に到着。
「とりあえず武器屋でも見て周りたいんだが」
「畏まりました」
二人の騎士が護衛として付いて行く。
令息、令嬢によっては護衛が傍に居る事を息苦しく感じる者もいるが、イシュドは大して気にしていなかった。
(俺一人だと、バカな連中は普通に絡んできそうだしな)
現在ムキムキの人の形をしたゴリラといった体型ではないが、細マッチョよりもやや上の肉体を持つイシュド。
しかし、その容姿に関しては正統派イケメンの部類では無いものの、しっかりと両親の遺伝子を引き継いでいる。
そのため……恐喝や強盗などを行いながら生活している連中からすれば、人数さえ揃えればなんとか出来ると思われてもおかしくない。
「ッ…………こいつは、良い短剣だな」
「ほぅ、坊主。中々良い眼を持ってるじゃねぇか」
カウンターの奥で構えていた店主はイシュドがおそらく貴族の令息だと解っていながら、坊主と言う言葉で呼んだ。
護衛二人としては威圧するか否か迷うところなのだが、当の本人がそういった呼び方をあまり気にしないタイプだと解っている為、結局は店主兼鍛冶師の男をどうこうすることはなかった。
「そりゃどうも。こいつにはなんて言うか……良い感じに魂が乗ってるように思えてな」
「だっはっは!!! そこまで見破られるとはな。さては坊主……相当武器が好きだな」
「あぁ、大好きだな。という訳で、これを購入したい」
「おぅ、金さえ払ってくれりゃ文句はねぇよ」
大型の武器を扱うのが似合うイシュドだが、短剣などの武器が使えない訳ではない為、コレクションの中にはレイピアなどの全く似合わない細剣系の武器もある。
こうして試験当日まで王都の武器や巡りと運動、振り返りを繰り返しながら過ごし……いよいよ試験当日が訪れた。
「イシュド様、ここからはお一人での行動になります」
「おぅ、解ってる。お前ら試験が終わるまでのんびり王都を観光でもしててくれ」
「お言葉に甘えさせていただきます」
入試が行われる学園の敷地内に入ると、誘導を行っている職員達の案内に従って会場へと向かう。
「ッ!!!!??? ……か、確認しました」
訪れた子供が本当に受験する生徒なのかを確認する為の書類を確認している職員は、書類に記されている内容を見て目を疑った。
レグラ家という家自体は知っている。
だが、ここ何十年もの間、レグラ家の人間が学園に通ったという話は全く聞いておらず、正体を隠して入学しているという事実もない。
(は、話はチラッと聞いてたけど……ふ、雰囲気あるな~~)
見た目は一応歳相応。
しかし……深い深い実戦を知っている者からすれば、纏う雰囲気は明らかに歳不相応。
これから三年間、色々と荒れる予感しかしないが、職員は仕事に集中するために考えることを止めた。
(……王都に入った時よりも、多くの視線が向けられてんな……そんなに珍しい見た目か?)
色々と普通ではない部分はあるものの、やはり見た目はそこまでおかしさはない。
だが……一度も社交界に参加していないが故に、周囲の者たちの中で、イシュドの存在を知る者は誰一人としていない。
殆どの受験生たちが、誰だこいつは? といった視線を向けるが、これから試験が始まるということもあり、誰もイシュドに絡もうとはしなかった。
「これからテスト用紙を配る。試験が始まるまで表にするなよ。表にしたら……その時点で失格だ」
筆記試験が行われる教室に一人の教師が現れ、テスト用紙を配っていく。
「制限時間は九十分。カンニングを行った者は即失格にして教室の外に連れ出す。それでは……始め!!!」
試験開始の時間となり、受験生たちは一斉に問題を解き始める。
(……やっぱり暗記は割と楽だな)
基本的に考えて答えを導き出すという問題はなく、内容を覚えられているか否か。
イシュドは試験時間の半分以下の時間で問題を解き終えた。
(時間まで寝ても良いが……一応見直しだけするか)
問題用紙と解答用紙を交互に見ていくが、その確認も十分程度で終了。
(…………寝よう)
もう何もすることはないと判断し、両隣りなどから回答用紙を見られないようにし、机に突っ伏して本当に寝てしまった。
「そこまでっ!!!! ただちにペンを置くんだ!!! 失格にするぞ!!!!」
「ッ……ようやくか」
試験終了時間の十数分前には完全に落ちており、試験監督の言葉で目を覚ます。
そして試験用紙が回収され、次の試験時間まで昼休憩。
(確か、俺ら受験生は金を払えば、食堂で飯を食べられるんだったな)
特に知り合いもいないため、ささっと食堂へ直行。
三人前の肉と野菜料理を頼み、三十分も経たずに完食。
その後、適当な場所に移動してから食後の運動を行い、時間内に指定されている場所へ移動。
二つ目の試験は実技試験。
学校側には事前にどういった戦闘スタイルが得意なのかを申請し、その戦闘スタイルと同じ教師が受験生たちの力量を模擬戦で把握し、点数を付けていく。
「二番の生徒、リングの上に上がれ」
「は、はい!!!!」
「おいおい、そんな緊張してたら全力を出せないだろ。もっとリラックスしろ。合格してこの学園に通うために来たんだろ」
「ッ……はい!!!!」
見事受験生の緊張感を緩和し、早速一人目の生徒が試験監督の教師との模擬戦を始めた。
(ふ~~~ん、良い教師だな。良い笑顔と言葉で受験生の緊張感を上手く和らげたな……確か、実技試験は模擬戦を行う教師が何回か入れ替わるんだったか? 全員あの教師レベルの強さなら、割と本気で楽しめるかもな)
試験は戦闘を楽しむものではないのだが、イシュドの頭の中は既に「どうせなら一番強い担当教師と戦いたいな~~」という考えで一杯だった。
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