お茶目な母
部活の親友たちと別れ、家路につく。
俺はただいまと、家族に聞こえない声量で言った。
腹が減ってたあまりに思わず三玉を注文してしまったので、自宅に帰っても当然空腹になるわけがない。
学校には昼食を食べてから一時間も経ってないのに「腹減った」なんてぼやく男子もいるが、そんなのは運動部に限る話で、文芸部に所属する俺は到底考えられないことだ。どんだけ
長時間
そんな悪臭を充満させて
「
「その呼び方、やめてくれない?」
俺は片目を細めて、お袋を
「わかったわよ」
とお袋は、俺の嫌そうな反応を見てふふふと笑って見せた。
「そういえば、何か今日はやけに静かじゃない? いつも腹減ったーなんて言いながら帰ってくるのに」
お袋の
「
俺は今考えられる最もらしい理由で、場を逃れようとする。実際悩んでいるのは本当だから。
「紗彩ちゃんのことで悩むのもわかるけど、あんたが悩む問題じゃない。大人が絡む問題なのよ、あれは」
「わかってるさ、そんなこと」
言うまでもないことを聞かされ、
「
最後呼び止めてきたが、俺は振り向くことなく足を止めた。
「今日、食べて帰ってきたでしょ?」
「……」
母強し。
その勘は、俺の前では
「いやー食べてないけど」
「ほんとに言ってる?」
「ほんとほんと。食べてないから」
「目、
鋭い観察眼に
そんな俺の様子に、これでもかと母親はため息をついた。
「母さんも学校帰りによくポテトとか食べてたから、あまり強くは言わないけどね、程々にしてよね」
「…はい」
そう俺は、
「ま、母さんのことはどうでもいいから。今は紗彩ちゃんの心の支えになってあげて」
またもや俺は振り向かず、ああと短い返事を残して部屋へと上がっていった。
部屋に入ると、紗彩の姿は見当たらなかった。
廊下に戻って探してみたものの、いない。
だが床を見れば、紗彩が寝ていたマットレスが、
「ひとまず紗彩が戻ってくるまで、待つこととしよう」
そう思い立ち、学習机にどっかり座りながら、携帯をいじろうとしたら、紗彩が部屋に入ってきた。
「あ、お帰り」
「おう、ただいま…って紗彩!?」
「どうしたの? そんなに驚いて」
紗彩は首を傾けながら、俺の目をじっと見つめる。
戦隊もののTシャツに、やや短めのハーフパンツ。俺の小学校時代のおさがりだ。
それに紗彩からは、シャンプーの良い香りが漂ってくる。
桃色の髪は湿っていて、
どっからどう見ても、風呂からあがったばかりだというのが見て取れる。
俺の家に
「あ、いや…風呂上りの紗彩さんがお
俺はそんな風に、誰でも見抜けるようなわざとらしいお
「何それ~、変な芳ちゃん」
くすくすと俺を見て微笑みかける紗彩。
「あれ、どうした? その両手に持ってるの」
紗彩が両手に持っている
「あ、そうそう。お
「お姐さん?」
「え、
「お袋のことそんな風に呼んでるの……? やめてくれよそんなの、おばさんて普通に呼んでくれよ」
どうもうちのお袋がすみません。俺は短く鼻で苦笑する。
「前おばさんて呼んだら、そう呼ぶのやめてって注意されたのを思い出したから。で、試しに今日お姐さんと呼んでみたら気に入ってくれた」
「おいおいまじかよ…」何だか俺が
「だめだよ、それは
身を乗り出しながら、紗彩がそう言ってきた。
若干
俺が強引に紗彩の居場所を用意したけど、それを許して、今こうして保てているのも、他でもないお袋のおかげ。
そんな人におばあさんなんて、無礼極まりないことを紗彩が言えるわけないか。後でちょっぴり反省しておくか。
「わかったよ。んなことよりお袋からのそれ、ありがたくいただくか」
「うん、そうだね」
そう言い、俺と紗彩は湯呑に入った
「あ、
「え、本当に!?」
見てみると確かに、紗彩の湯呑からは縦に細長く茶柱が浮かんでいた。
「この先、何か良いことあると良いな」
「う、うんっ」
若干不安そうな顔色が混ざった紗彩の笑顔。
それでも俺は、
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