ご当地名物は、健康フードだったりジャンクフードだったりと、綺麗に二極化する

 全国には色々な地域で、違った特徴のスタミナラーメンが提供されている。

 街中華のメニューだったら、にんにくをがっつり効かせてから、チャーシューの代わりに豚バラ肉をのせたり、もしくはねぎをふんだんに使ったりすると思う。

 だが、水戸市民やひたちなか市民が想像するスタミナラーメンは、野菜が豊富なあんかけ炒めをのせたラーメンだ。

 全国津々浦々つつうらうらで知れ渡っているのも、また別の旨さがあるに違いないし、街中華で提供されるエネルギッシュなのも、さぞ美味しいはず。

 そんな中でも茨城のスタミナラーメンの魅力は、圧倒的な栄養価の高さにあると、県民を代表して声高に叫びたい。

 具材は、にら・キャベツ・かぼちゃ・にんじん・レバーの五種類。店によっては、レバーの代わりにもつだったり、コーンが盛り付けてたりする。

 にらのアリシンと、レバーのビタミンB1で疲労回復効果に、キャベツとにんじん、かぼちゃという食物繊維しょくもつせんいβベータカロテンのコンビで便秘改善に効果覿面こうかてきめんだ。

 是非、全国の栄養士さんには、県民が愛すスタミナラーメンを学校給食に活かして頂きたい。


「スタミナ冷やし三玉三つお待たせしました!」

 威勢の良い店員の声により、俺達の注文したスタミナラーメン(冷やし)が運ばれてきた。

 冷やしと言っても、冷たい状態で運ばれてくるわけではなく、麺を水で冷やしてしめて、熱々のあんかけをかぶせる。

 その温度感が逆に美味しさを引き立てくれる。

「来た来た」

「待ってた待ってた」

「全く、うちのわんぱく小僧はほんと食いしん坊だな」

「何暉信てるのぶお前俯瞰ふかんしたように言ってんだよ。好物なんだろ、よだれ垂れてるぞ」

「え、まじ!?」

 そう暉信が慌てて口元を拭ったが、手の甲には何も糸を引いていない。

「よっしー、嘘ついたのか」

 横目でにらんできた暉信に、俺はけらけら笑った。

「談笑良いから早く食おうぜ」

 博人ひろとが横から入った。

 三つとも、中太面に覆いかぶさったあんかけは、まるで黄金のように燦然さんぜんと輝く。

 皆が一斉に最初の一口目をすする。

 暉信に至っては、麺を一口一口噛みしめている。

「スタミナラーメンといったら、冷やしだよな」

「「ふぉうだな」」

 博人も暉信もそれなと言わんばかりに、頬張りながら激しく頷く。

 ピリ辛に仕上げたあんかけに、にらとキャベツのシャキシャキ感が食欲を掻き立て、かぼちゃの甘味がアクセントになり、レバーの独特な食感が満足感を与えてくれる。

 俺達三人は、目の前の至極の一杯を食べることに夢中になっていた。

 麺三玉は、俺達男子学生にとっては造作ぞうさもない量。

 白くて大きな丼ぶりにどっかり盛られた黄金の麺は、腹を空かした高校生の貪欲どんよくによってあっという間に平らげた。


 食事も済ませ、店の外。

 肌寒い季節。空はもうすっかり暗くなっていた。

 傍を通る車のヘッドライトがいちいちまぶしい。

「あ、そういえば、さっきの話の続きだけどさ」と、博人が俺に話しかけた。「要は俺も力になるっていうことだ」

 そう答えた博人は、俺から目を合わそうとはしなかった。

「本当か!?」

 加担してくれることは予想してないといえば嘘になるが、それでも俺は驚くあまり、大きな声で反応してしまった。

「当たり前じゃん。俺は紗彩さあやちゃんに一目惚ひとめぼれした身なんだぞ」

 自分のことを親指で指して、フンスと鼻息荒く吹く博人。彼の頬は、若干赤く染まっていた。

「そこ、自慢げに言うとこなの?」俺は思わず目を細めてそう返したが、紗彩のことを心から心配している人がいるのは、頼もしいことこの上ない。「助かるよ、博人」

 そう言い、俺は一目惚れという中々に純情な心をお持ちの親友に感謝した。

 博人は、自分の鼻をこすりながら、

「良いってことよ」

 と、どこか気恥ずかしそうにしていた。


「あの、盛り上がってるとこ悪いんだけど…」

「どうした暉信?」

 横から小さくちょこんと手を挙げてきた暉信に気付き、俺は彼のほうを振り向いた。

「これ、どう見ても僕も手助けするよみたいな流れになってるんだけど……」

「暉信もやるよな?」

「いや、僕はどうしようかな…」

 煮え切らない態度の暉信に、博人が「まじ?」と、ちょっと驚いた反応をしていた。

「よっしーは紗彩ちゃんと幼馴染の関係だし、博ちんも彼女には並々でない想いがある。でも僕は、二人と違って何かしらの特別な感情があるわけでもないし、ましてや接点も無い」

 そのとおりだった。

 俺と暉信は同じ中学出身じゃない。

 偶々同じ高校で知り合い、偶々同じ部活で知り合ったというだけの友人関係。

 逆に、俺と紗彩とは、高校に入学した境に、日に日に関わりが無くなっていった。

 暉信の中で紗彩という存在は、俺と会話した中でしか知らない、知るわけがない。

 お互い出会ったことのない赤の他人同士だというのに、そんな人に、助けたいと思う動機なんて見つかるだろうか。

「わかった」暉信の言わんとしていることを受け止め、そう俺は返答した。「別に強制はしてないから。答えをくれただけでもありがたい」

 あまり波風を立てないよう、この話は一旦終わらせるとしよう。


 だが、


「おい」


 まだ諦めていない人が、いた。

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