明るいクラスメイト
「それがさ、久々に好きな曲聴いて歩いてたらさ、いつの間にか時間過ぎちゃってて」
二時間目と三時間目の休み時間、俺はクラスの友達と一緒に談笑し合っていた。
他の皆も、思い思いに世間話だのどっかの配信主の動画が面白いだの、話を繰り広げている。
「相変わらずだなお前。ほんと、音楽バカというか」
そう言って、ははっと乾いた笑いを見せるのは
お調子者だがイケメンで成績が良く、スポーツも万能。
所属している野球部では、ルーキーとして投手に
「音楽バカって、よっしーの場合うるさいやつ限定じゃん」
目を
クラス一の人気者で、吹奏楽部所属。
ニックネームはかなっち。自分を名前で呼ばれるのを嫌がり、男子女子問わずクラスの皆からはかなっちの愛称で呼ぶようにしている。
彼女もバンド系をよく聴くらしく、とくにLynch.やthe GazettEが好きらしい。最初そのギャップには、かなり驚かされたっけ。
吹奏楽の強豪校に入学したいという強い意志で、遠方からはるばる来て、今は学校から程近い祖父母の家に暮らしていると以前聞いた。
ほんとこの二人には、キャラ性や行動力という時点で負けている。
出来るだけこのチート級な二人に追いつけるようにならないと、自分が周囲から浮いた存在だと見られてしまう。いや、もう既に見られているかもな。
いずれにしろ現状維持だと、「あいつは二人にこびるたけの家来」とレッテルを貼られ、知らぬ間に周りから反感を買ってしまうことになりかねない。
「う、うるさいとは聞捨てならないぞ」
俺は
「なーに向きになってんの。冗談に決まってるじゃん。あたしもそういううるさいやつ好きなのわかってるでしょ」けらけら笑いながら、俺の肩を優しく叩く。
「いや、吹奏ガールがそれ言うと
「え、ちょっと本気で怒ってる?」香奈美が焦った様子を見せ、「謝るから、ごめんって」と俺に手を合わせた。
「反省した方が良いぞ。
「ああ、俺平気な顔して意外と恨んだりするよ?」
だが俺は、
「えええ、そんなに傷ついた? ごめんよっしー! もう二度とうるさいなんて言わないよ」
嫌いにならないで、と俺の両腕にしがみつき、本気で焦った様子を見せる香奈美。
俺はそんな香奈美の必死さに、思わずぶふっと失笑してしまう。
「え…?」と、香奈美が困惑したような反応を見せて、俺から離れる。
「悪い悪い、冗談だ。俺もつい玲緒奈の悪ノリに便乗しちまった」そう謝りつつも、俺は依然として笑いを
「ちょっとお! からかったわねっ!?」
香奈美が、ハムスターのように
「おい、かなっち。顔近いって」ずいずい近寄ってくる香奈美に、俺は視線を
「落ち着けよ二人とも。何じゃれあってんだ」
「いや、もとはと言えば、元凶お前じゃねえか」平然と白々しい目で俺達を見つめる玲緒奈に、俺は迷わずそう突っ込む。「どうにかしろこの状況」
「修羅場を収束できる人こそが真の一流だぞ」腹立つほどに清々しい目つきでウインクをしてきやがった。
「どこが修羅場だ。何か格好良い言葉を、何か格好良い仕草で収めようとすんな」調子良い様子の玲緒奈に、
「あたしがよっしーを
「そうだよ。俺達かなっちの反応楽しんでるだけだもん」そんな香奈美に対し、玲緒奈はわざと火に油を注ぐようなことを言いやがる。
「だよな?」と、同意を求めてきたが、呆気にとられた俺は「あ、ああ」とぎこちない頷き方しかできなかった。
「ちょっと、それどういうことお?」と、香奈美は俺達に向けて顔を近づけてくる。
「い、いや…あのさ」俺は歯切れ悪く
確かに玲緒奈の言っている事も一理頷けていたので、はははと頬を
しーん。
「…何、この状況」
何か突然、教室が静まり返ったような……。
玲緒奈の方を見ると「ほ、本人の前で言いやがった…こいつ」と頬をひきつらせていた。
恐る恐る香奈美の方を見てみると……、
ゼンマイを引っこ抜かれたロボットのように、フリーズしていた。
完璧に地雷発言だった。
「か…か、かわ…」
ようやく口から言葉が出でも、致命的なバグを背負ったアンドロイドと化している。
「すまん! 今のは無しで!」俺は思わず、さっきの言葉を撤回しようと、そう口走った。
だが、香奈美は相変わらず固まったままだ。
おーいと、玲緒奈が彼女の顔近くで手を仰いでも、全く反応する素振りが見えない。正気に戻れー、と玲緒奈が仕方なく香奈美の背後に回って肩を叩くことで、ようやく彼女の
だがその反面、みるみる
「可愛…、あ、そうだ。思い出した! これから川井さんに用があるんだった! ごめん、また昼休みに!」
そう言い残し、今度は暴走したAIの如く、香奈美は教室から去っていった。
周囲にいた男子からは、「よっしー、お前いつの間にそんな男前になったんだ?」と疑問の声が上がる。
「てか川井さんって人、いたか?」
「お前なあ…」
首を傾げながら玲緒奈にそう聞いてみたが、
そんな中、朝のHRで女子に両腕を抑えられながら保健室に行っていた
「お、博人。
玲緒奈が片手を挙げ、こっち来いと博人に合図してきた。
「痛えよほんと」と、博人は
「お前よくそんなんで、朝平気だと言ったな」俺はため息をつく。
「あれはもう、痛覚麻痺してたな。もう痛みに慣れちゃいました的な?」
「運動部でもない奴が、そんなこと言うの中々珍しいぞ」玲緒奈が苦笑しながら、博人に言う。
「そうかもな」
「あ、そういやさ」博人が何かを思い出したかのように、話題を変え始めた。「かなっちが、顔隠しながら凄い速さで走ってったけど、あれどうしたの?」
「え、えーっと…」
今さっき教室で起きたことを知らない人にとっては当然の疑問。
俺は、その質問に終始答えることは無理だった。
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