メッセージの真相

 外は雨が絶えることなく降り注いでいた。

 朝登校した頃から、水分量の多い雪が降り積もっていたせいで、地面はかなりすべりやすくなっていた。

 てついた地面は、所々白くなっている。


 下駄箱でローファーにき替える時、俺は紗彩さあやに『今すぐお前のもとに向かう』と一言NINEを返信しておいた。

 一体、紗彩の身に何があったのか。

 俺は、校舎の入り口で思わず立ち止まってしまった。

 俺と紗彩は、保育園の頃から中学校までずっと同じで、無論自宅も近かった。

 物心がついた頃には既にそばにいたので、初対面がいつ頃だったかなんて覚えていない。そのくらい昔から、紗彩のことは知っていた。


 小学校の頃は、毎日のように二人で下校していた。そのせいか、道行く人とすれ違う度に「あら、仲睦なかむつまじいお二人なこと」なんて揶揄やゆされたことが、数えきれないほどあった。

 その度に、「別にそんなんじゃないです!」と否定したことは、よく覚えている。


 高校受験時、紗彩は「夢に向かって突き進みたい」と、第一志望校だった私立高校を受験し、見事合格した。後日も、そこそこレベルの高い公立の進学校にも合格していた。

 その頃の紗彩というと、輝かしいほどに自信にあふれていた。

 当時追いかけたい夢など何ひとつ持っていなかった自分にとっては、直視できないほどまぶしかった。


 ところが高校に入学後、紗彩とは日が経つにつれて、互いに時間が合わなくなっていった。

 入学直後の時期は、それなりに紗彩とNINEで会話を交わしていたが、次第に会うことも話すことも激減していき、一学期が終わるよりも前の段階で、その機会はすっかり無くなっていた。

 俺は俺で、「多分、今忙しいんじゃないかな」とか「卒業時あんなにきしていたんだから、おそらく一人で頑張ってんだろう」とか、「挫折ざせつしたとしても、何処かで必ず立ち直るに違いない」と自分に都合の良い解釈をして、自らアクションを起こすことは無かった。


 そうして、俺と紗彩の二人のNINEは半年以上、動くことが無かった。


 そして現在、そのNINEにようやく歯車が回り始めたが、その内容は、彼女の身を案ずるものであった。


 博人ひろとの言う通り、見知らぬ男から誘われたりでもしたのか。

 たった二通の紗彩からのNINE。でも不要なほどに沢山思考を張り巡らせる紗彩からのNINEに、少しずつ不安感に飲みこまれていく。

 両親の都合で急に県外へ引っ越すことになったのか? はたまた別の夢ができて、地元から離れようとしているのか?

 いいや…何となくだが、その可能性はどっちも低いと思った。


 博人も暉信てるのぶも、口をそろえて「早く彼女のもとに行ってあげるべきだ」と言っていた。

 命が関わってる状況かもしれない、と暉信が。

 こんなとこに居ちゃいけない、と博人が。

 二人がここまで深刻そうに捉えるのは一体…?

 二人のヒントから見ると、もしかして…。


「じ、自殺を図ろうとして…いるのか?」


 その瞬間、俺は正門外に停まっている水戸みと駅前行きの貸切バスに向かって、全速力で走り出した。

 今日に限って貸切バスの手配があることは、数少ない幸いだ。

 悪天候の日だけは、特別に学校側が用意してくれる日があるが、そんな日なんてそうそうない。

 以前も夏の季節でたった一日だけあり、激しい雷雨の予報日だった記憶がある。


 バスが停車している道まで一直線に駆け抜ける。

 何故、今までこの結論に行きつかなかったのか。

 いや、違う。薄々うすうす勘付かんづいてはいたけど、それだけは考えたくないと一切の思考を拒否していたのだ。

 けど、すんなりと腑に落ちていた。自殺を暗示している内容であることに、一番しっくりきていた自分がいた。


 何故なら、以前自宅で盗み聞いた両親の会話と、紗彩からのNINE。

 その二つと、辻褄つじつま

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