ブラック企業にいたせいで人助けしてしまったチート主人公は尋問され身バレする。

未来

第1話ブラック企業にいたせいで人助けしてしまったチート主人公は尋問され身バレする。

僕はよくあるチート転生者だ。


ブラック企業で体と心を壊し気づいたら真っ白な世界にいた。そこにいた女神から

「自分を大切にしなさい」と怒られた後、転生した。


転生後に5歳ぐらいで前世の記憶が蘇り、女神から与えられた無敵の体や魔力無限。さらに、召喚能力や錬金術などまさにチート能力をもらった僕は無双しなかった。


だって、無敵の力を考えなく使ったら「あいつやべぇ」「うまく利用してやる」となり面倒になる。ブラック企業で身についてしまった危険察知が囁いているから間違いない。


前世で良い思い出がなかった僕は今世では平凡に生きて良い思い出を作ろうと決めた。


ハーレムなんていらない、国救済イベントなんてノーサンキュ。悪徳貴族や犯罪組織との無駄バトルなんて全力回避だ。


学校を卒業して冒険者となった僕こと15歳の少年ケンはチート能力のおかげで質素だがそれなりの人生を数分前まで送っていた。




そう、数分前にフル装備した騎士や兵に囲まれ城の奥に連行されるまでは。


「あの!! 僕、犯罪なんてやっていませんよぉ!!」


魔法陣の上に拘束された僕は必死に無実を訴えた。以前、チート能力を使い城の一部を破壊したことはあるがバレてないことを祈りつつ無実を叫ぶ。


足元の魔法陣が光を放ち僕の頭上に×の印が浮かんだ。


「無駄よ…その魔法陣は真実を映すんだから」


綺麗な声が聞こえ紫色のローブを着込んだお姉さんが現れた。ローブと同じ色の長い髪をした彼女はこの国一番の魔法使いだ。

彼女の他にも白い鎧をきた女騎士や半裸で部族の女戦士、教会で聖女と呼ばれている少女やこの国の王女まで…でぇ? 王女!?


「やはり、貴方様が影の救世主様なのですね!!」


金髪で蒼眼の王女が笑顔で話し頭を下げてきた。


「え、いや、違います!!」


とっさに必死に首を横に振るとまた僕の頭上に〇印が浮かんだ。


「やはり、お前が…」


王女の護衛である白い鎧をきた女騎士が頬を赤くして顔を背けた。


「魔法使い殿、この魔法陣は真実を晒す物だと聞いたが誠か?」


秘境の奥地に住む半裸で部族の女戦士が魔法使いのお姉さんに聞く。


「何度も説明したはずよ…この魔法陣は対象の嘘を見抜くことができるって…まぁ、〇か×でしか表示されないのが傷だけど…ちゃんと効果はあるみたいね」


魔法使いのお姉さんは一度咳払いをして僕の方を見る。

嘘発見機の上に立たされてどうした物かと悩んだ。


(ここで魔法陣を破壊して無理やり逃げたら黒決定だしな…しかも、城のあちこちになんかすごい数の人がいるし…)


チート能力の一つである気配察知でこの部屋の外や周囲に武装した集団がいるのが分かった。これ逃亡対策かな…と、そういえば。


「あの、影の救世主ってなんですか?」


僕の質問にお姉さんだけでなく、皆驚いていた。


「何いってんの…貴女、本当に知らないの?」


白い鎧の女騎士がまるで信じられないと言ったように首を振る。

ちなみに、僕の頭上には〇の印がついている。


「ふぅ~んそうかぁ? 本人が知らないなんて…ふっ」


魔法使いのお姉さんは一瞬、笑みを浮かべた。その笑みを見て前世ブラック企業で養われた危険察知が警鐘を鳴らす。


「とにかく、これからあんたにじんも…」


「はぁ~~あれだけのことをしておいて、何も知らないなんて~~」


魔法使いのお姉さんが女騎士の声を遮って頭を大きく抱える。

なんだ、このわざとらしい演技は? まるで、自分が飲み会に行きたいから大げさな仮病を使い仕事を僕に押し付けてきた酒好き上司を思い出した。


「魔物の大量発生で王国の軍隊が緊急出動したらすでに魔物どころか、大地に大きな空洞ができてたんだけど? 皆、奇跡が起きただの、物語でしかいない魔王が実は存在していた!! なんて大騒ぎだったのに?」


あぁ、あれか。魔王は実はどこかに封印されてて、その封印が解けかかってる影響で魔物が活性化してたから、チート能力使って全滅させたはいいけどやりすぎて巨大クレーター作ったあれか。


僕の顔を見て魔法使いのお姉さんが黙ってしまった。


「そ、そうだ!! 悪徳貴族とその配下の犯罪組織が壊滅したのはお前が何かしたんだな?」


女騎士が慌てた様子で僕に指をさしてきた。


その件も僕だった。学校で権力を振りかざす馬鹿貴族の息子が同級生の子をいじめてたのに腹が立った。まるで会社からコキ使われていた自分を見ているかのような思いで、その馬鹿息子の家に潜入した、犯罪の証拠を見つけたので証拠を確保して家を焼いた。


ブラック企業は上を根絶やしにしても、悪しき習慣や性根は太く長くどこかで受け継がれてしまう。害悪は存在してはいけない。証拠をもとに馬鹿貴族に加担していた組織や人物を襲撃しまくって、奴らは今頃刑務所か人気のない森の土の中だ。


女騎士もなぜか僕の方を見て目を大きく広げて黙ってしまった。


「なら…私から…我らの部族にいた馬鹿共の粛清は貴様がしたのか?」


屈強な肉体を持ち過酷な森の中で過ごしてきた女戦士が聞いてきた。


「粛清? 」


「部族が代々してきた馬鹿げた生贄の儀式をしていた奴らに、天から雷や巨氷が落ちてきたことだ」


あぁ!! 森が枯れてきたから神様に生贄をささげていた馬鹿老人たちのことか!!

あの森が枯れた原因は森の管理が杜撰なせいで、地中にいた寄生虫型の魔物が栄養吸ってたせいなのに、昔からの伝統やらで子供を無意味な生贄で殺そうとしてたから。寄生虫の魔物を倒した後にその、ついやっちゃって…


女戦士は「やはりか」とつぶやいて黙ってしまった。


え? なんでみんなさっきから驚いた顔してるの?


「他にも災害で人々を救い、戦争を仕切り私腹を肥やす者を滅ぼし戦争を止めた…まるで影のごとく悪や不正を裁き無償で誰でも救う…人々は影の救世主と呼ぶようになりました」


王女様の言葉にいくつか記憶があった。


洞窟の落盤や船の沈没事故に偶然出くわし、洞窟は地中に穴を開けて被災者と一緒に脱出したし、泳いだ経験がなかったから沈没事故は魔法で船を浮かして陸まで飛んでいった。


なんだか平凡に生きたいと思ってたのに、ずいぶんとハチャメチャしたな僕。


戦争を止めた件は…あれか、チート能力があるんだから世界を飛んでいきたいと思って飛んでいたら軍事国家の領空に入ってしまって撃墜された時だ。空を自由に飛べることに調子に乗っていて恥ずかしかった。


軍事国家に捕まって拷問されそうになったからチート能力使って拘束を壊して見張りを倒して逃げた。そして、国の人々が飢えているのに、自分達だけ腹を満たしている奴らを見て僕は切れた。ブラック企業で下の者の命なんてどうでもいいと考えているクソ上司たちを見ているみたいで怒りが収まなかった。


召喚獣で翼を生やした虎や悪臭と毒をまき散らす蝙蝠を召喚して軍部を襲撃した。チート能力は僕だけでなく召喚獣にも影響するらしい。最新兵器の大砲や銃を受けても大したダメージにならなかった。


飢えた民間人をいじめていた軍部の奴らを壊滅させた後は、お偉いさんたちの番だった。

まずは肥やしてきた金品や武器を全て錬金術で粘土に変えた。豪華な屋敷や身の安全のために作らされた避難シェルターは前世の童話であった3匹の子豚にあった藁の家にした。


藁は腐っていて子豚どころか子供が息をかければ簡単に吹き飛ぶ。


身を守る力も富もなくなった豚たちにさらに追い打ちをかけた。


召喚獣で豚どもを捕獲して錬金術で衣類や装飾品を腐った藁に変えて全裸にさせた。

そして、召喚術で女戦士の住んでいた森にいた同型の寄生虫の魔物を豚どもに植え付けた。


栄養分を寄生虫に吸われて豚どもの体が干からびていく。寄生虫の魔物は意外と強く豚どもが魔法を放っても死ぬことはなかった。最初に寄生した豚が死ねば次の豚に寄生して養分を得る。養分を得た寄生虫は強くなり逃げた鈍足の豚に寄生して養分を得る。


命を奪われ殺される死と恐怖の声は他の権力者たちの心を折るのに十分だった。

ローブで姿を隠した僕に誰も犯行せず、中には身内を売ってでも保身に走るクズもいた。

国の中心どもを始末できたので寄生虫を送還してその場から立ち去った。


はるか上空からその後の国の様子を見てたが、圧制者がいなくなり民衆の革命が起き僕が殺さなかったクズ共は民衆になぶり殺されていた。


異世界にきて国を崩壊させたのは始めてだったから一番記憶に残っている。


「ふ~ん、あなた。意外と抜けるわね」


魔法使いのお姉さんが僕の頭上を見る。


「あっ、あぁぁ!!」


今僕は噓発見器の魔法陣の上にいる。彼女たちの話を聞いていて忘れていた。

僕の頭上にはたくさんの〇印が浮かんでいた。


「し、しまった…」


今更チート能力で逃げても遅い。どこに逃げても僕の名前や顔は国中に広められるし、これまでブラック企業に似ているから滅ぼしたところから報復を受ける可能性がある。


女戦士は顔を赤くして何かつぶやいてる。

チートで強化された体のおかげで「こ、この男が、私の初恋…」とか聞こえてしまった。


女戦士は笑顔で


「若い命を救ってくれた礼だ…私をもらってくれ」とか言って女騎士が驚いてるし。


王女様に至っては瞳を輝かせて「我が国と民を救いいただきありがとうございます」と深く礼をしていた。


あぁ、僕の平凡な異世界ライフが、計画が完全に砕けた。

前世のブラック企業に対する怒りを捨てきれなかったのが原因だ。


せめて、これ以上深堀される前にこの厄介な魔法陣から出たい。てか、救世主ってわかったんなら拘束を解いてほしい。


例えば、魔王の封印が溶けかかってることとか。魔王討伐なんてやりたくない。


「ねぇ、ところで。物語でしかいない魔王が実は存在していた。のところで〇が出てたんだけど? まさか、世界を滅ぼす魔王が本当にいるわけが…」


魔法使いのお姉さんの質問を聞き、僕が「魔王なんていない」と告げる前に頭の上に〇印が出てしまった。

〇印を見て彼女たちの顔が青ざめ、僕の顔も青ざめてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ブラック企業にいたせいで人助けしてしまったチート主人公は尋問され身バレする。 未来 @kakiyomi40

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ