第6話 ネコのデコード
その数時間後、スペイス・ニンジャ・カンパニーのステーションに、けたたましいアラーム音が鳴り響いた。
“セイタイハンノウニイジョウアリ、セイタイハンノウニイジョウアリ”
モニターを見るとベッド06番が赤く点滅している、岡田は悪い予感に震えた。
―松村だ。まさか、あいつ―
「おい、松村、どうした!」
松村は静かにベッドの中に横たわっていた。枕元に薬瓶が転がっている。ニンジャは救急搬送に携わることもあるので、薬品庫にアクセスできる―まさかこんなことをするとは―
「まだ助かるかもしれん、至急胃の洗浄を―」
「できません。自殺者の意志を尊重し、逝かせてください。自殺願望がある人間は助けてはいけないという法律が、本日午後に施行されました。しかも松村はモフモフ愛好と薬品の私的利用、自殺罪の三つの罪を二十四時間以内に犯した男です。」
「知ったことか!早くやれ、俺が責任取る。」
ぱっと嬉しそうな表情を浮かべて、下っ端ニンジャは松村を担いで医務室に走っていった。助けたいなら、つべこべ言わずに早く助ければいいのだ。馬鹿者が。
それにしても、今年の猫の冷酷非道ぶりはひどい。去年まではまだ猫らしい愛らしさがあったが、今年のあの様子はまるでデマゴーグ(扇動者)、ディクテーター(独裁者)、デスポット(暴君)である。
独裁に関わる言葉は「デ」で始まるものが多いなぁと思いながら、ニンジャ・マスター岡田はステーションの廊下を歩いていた。
他にもあるだろうか?デサポイントメント(失望)、デモリション(絶滅)、デストラクション(破壊)、ディザスター(災害)、デグレード(降格)…ショックのためか、今日は悪い言葉しか思いつかない。
「デコード。」
突然閃いたその言葉に、ニンジャ・マスター岡田は何かの天啓を感じた。猫をデコードしてみるべきだ。
あのおかしなニャンコ言葉で話すモフモフは、アカシックレコードからアルゴリズムによってオートジェネレイトされた符号でしかない。符号を見ていても解決しない。元データとアルゴリズムに何が起こったかを確認するべきだ。
今年の猫の残虐性はアルゴリズム・アップデートと関係があるのかも知れない。アルゴリズム・アップデートの前後でかなり大きな結果変動が起きてきた事実がある。
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